日本大百科全書(ニッポニカ) 「計量学」の意味・わかりやすい解説
計量学
けいりょうがく
metrology(science of measurement and its application)
測定の科学。測定を計画・実践し、その結果を評価して活用するまでの幅広い内容を含む。国際計量計測用語(VIM:International Vocabulary of Metrology、ISO/IEC Guide 99:2007、TS Z 0032:2012)によれば、「測定の科学及びその科学の応用」と定義され、その注記では、「測定不確かさ及び適用分野に関係なく、測定のすべての理論的及び実際的側面が含まれる」とされている(計量計測を単に計量という場合もある)。
「ヒト」が生活を開始した時点での必須(ひっす)要件は多々あったと思われるが、その一つに「モノ」を「はかる」という要素があった。とくに、人間生活に集団としての社会的位置づけが求められるようになると、「はかる」ことの意義がいっそう明確化されて、生活の目安となる公共財としての「はかる」ことの科学的客観性あるいは法的な基準とルール、さらにはそのための道具(計量器、計器、測定器、試験機、測定装置、分析機器など)が必要となってきた。はかること、すなわち、計量計測に関連する分野は、日常生活から産業・経済・通商と幅広く、政治にも深く関与してきた。洋の東西を問わず、国の統治に関しては、土地の面積や穀物などを「はかる」技術や取決めが構築されてきたことにもその重要性が示されている。
「計量」という学問体系も、以前の度量衡(度:長さ、量:かさ・体積、衡:秤(はかり)・質量)の時代から進化し、近年の「メートル条約」や「国際法定計量機関(OIML:International Organization of Legal Metrology)を設立する条約」の二つの国際条約、さらには安全・安心の目安となる基準認証の視点を基盤に置く国際連携がきめ細かく結ばれている。そして現在は、「はかる」世界の国際的統一がいっそう注目を集めるようになってきたが、その背景に、学問的位置づけ、産業的位置づけ、そして社会生活的位置づけがあるといえる。
メートル条約が締結された1875年当時は、計量の標準を必要とする分野が物理学と電磁気学に集約されていたが、近年ではその領域が化学、生物学、臨床科学、食品科学、環境科学、さらには気象学へと急速に広がってきている。計量の対象も「モノ」のみならず、「事象」をも含むようになってきた。そして、学問的には、1960年に承認された国際単位系(SI)が新たな国際統一の起点となり、現在では「はかる」計量単位の国際標準をSIに置くことが国際的にも学術的な面からも広く認められている。日本においては小学校から高等学校までの教科書にもSIが採用されている。
計量の流れは、(1)測定計画の策定(目的の確認)、(2)測定の実施(原理・原則と道具)、(3)測定結果のまとめと活用、に大別することができる。(1)は、何の目的で何を測定の対象とするかを明確化することであり、(2)では、そのための原理や原則を利用してどのような装置や道具を使うかを確定する。(3)では、(1)および(2)の準備のもとに実際に測定を実施して結果をまとめ、その結果を有効に活用することで所期の目標が達成される。
最近の最先端の計量、とくに国際比較などの客観性が求められる分野では、どのような計量標準を基盤としているかという計量計測トレーサビリティ(metrological traceability)を示すことと、測定された結果の信頼性を付与する測定不確かさ(measurement uncertainty)の表記が必須の要件とされている。このために、国際比較の結果を用いて国際的な相互承認を実践するために、メートル条約のもとで実施された、長さ、時間、質量、温度、電圧、力、圧力、などの主要な量についての国際的な基幹比較の結果が、データベース(KCDB:Key Comparison Database)として国際度量衡局(BIPM:Bureau International des Poids et Mesures)のホームページ上に確保されて、利用できるようになっている。
[今井秀孝 2015年4月17日]