アメリカの文化人類学者。バーナード・カレッジで心理学を学んだのち、コロンビア大学でF・ボアズに師事して人類学を修めた。アメリカ人類学界の草分けとして、1925年以降アメリカ領サモア、アドミラルティ諸島のマヌース島、ニューギニア島、バリ島などにて活発な現地調査を行い、『サモアの思春期』(1928)、『ニューギニアの成育』(1930)、『三つの未開社会における性と気質』(1935)などを著す。文化相対主義を力説したボアズの忠実な弟子であるとともに、ベネディクトの「文化の型」を抽出する手法にも強い影響を受けた。文化一般に広い関心を維持し、研究は多岐にわたるが、もっとも強く興味をもっていたテーマは、子供の養育が社会によりどのように異なり、そこでの人格形成が、その文化の特徴といかに関連しているか、ということである。アメリカの人類学界では早くから心理学的方法が導入されていたが、文化と人格形成との関連を主張する「文化とパーソナリティー」学派のなかでも中心的存在となった彼女は、ジャーナリズムを通じ一般読者にも広く影響を与えた。『男性と女性』(1949)は、三つのニューギニア社会における子供の養育と男女の役割分担を比較したもので、現代西欧文明の男女の役割規定が人類普遍のものではないことを示した著作として有名である。
多くの現地調査をこなし多数のベストセラーを創出して、アメリカ人類学界の長老としての地位を築いたが、のちにその調査報告の誤りがいくつか指摘され、調査の粗雑さが批判された。とはいえ文化人類学の発展に大きな功績があったことは否定できない。1926年よりアメリカ自然史博物館に勤務、1954年からはコロンビア大学でも教鞭(きょうべん)をとった。自伝に『女として人類学者として』(1972)がある。
[山本真鳥 2019年1月21日]
『和智綏子訳『女として人類学者として――マーガレット・ミード自伝』(1975・平凡社)』▽『畑中幸子・山本真鳥訳『サモアの思春期』(1976・蒼樹書房)』▽『M・ミード著、太田和子訳『地球時代の文化論――文化とコミットメント』(1981・東京大学出版会)』▽『M・ミード著、畑中幸子訳『フィールドからの手紙』(1984・岩波書店)』
アメリカの哲学者、社会心理学者。W・ジェームズの影響を受けるとともに、J・デューイに影響を与え、プラグマティズムの展開のなかで重要な位置を占める。マサチューセッツ州に生まれる。オベリン大学卒業後、ハーバード大学大学院で学ぶ。3年間のヨーロッパ留学ののち、1891年ミシガン大学講師、1892年シカゴ大学に移り、亡くなるまで教授として教壇に立った。精神(心)や自我が言語(有意味シンボル)による他人との社会的交渉のなかから生まれることを明らかにし、社会的行動主義とよばれる理論を創唱した。また彼の哲学は客観的相対主義の立場にたつ。消化器官があって初めて食物が存在しうるように、対象や価値は客観的であると同時に、自然における諸条件の組合せの下でのみ発現する相対的なものであるとされる。死後出版された『現在の哲学』(1932)、『精神・自我・社会』(1934)、『19世紀の思想の動き』(1936)、『行為の哲学』(1938)は、近年広く社会学者たちの注目を集めている。
[魚津郁夫]
『稲葉三千男・滝沢正樹・中野収訳『現代社会学大系10 ミード――精神・自我・社会』(1973・青木書店)』
イギリスの経済学者。オックスフォード、ケンブリッジ両大学で学んだのち、1930~37年オックスフォード大学の経済学の特別研究員、講師を務め、第二次世界大戦時から戦後にかけては内閣の経済スタッフとして戦時経済の運営や戦後の国内・国際経済の再建策の立案にあたった。47~57年ロンドン・スクール・オブ・エコノミックスの教授、57~69年ケンブリッジ大学経済学部教授、69年以降同大学名誉教授。なお、この間64~66年王立経済学会会長も務めた。研究分野は広いが、国際経済学や経済政策が中心領域である。おもな著書には『経済学入門――分析と政策』An Introduction to Economic Analysis and Policy(1936)、『国際経済政策の理論』The Theory of International Economic Policy全2巻(1951、55)、『経済学原理』Principles of Political Economy全4巻(1965~76)などがある。77年ノーベル経済学賞を受賞。
[藤野次雄]
『北野熊喜男・木下和夫訳『経済学入門――分析と政策』(1952/改訳版・1966・東洋経済新報社)』▽『山田勇監訳『経済成長の理論』(1964・ダイヤモンド社)』▽『大和瀬達二他訳『経済学原理1 定常経済』(1966・ダイヤモンド社)』▽『大和瀬達二他訳『経済学原理2 成長経済』(1972・ダイヤモンド社)』▽『柴田裕・植松忠博訳『公正な経済』(1980・ダイヤモンド社、『経済学原理4』の訳)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
アメリカの社会心理学者,哲学者。オハイオ州のカレッジを出て,鉄道会社で測量に3年間従事したのち,1887年ハーバード大学に入学して哲学,心理学を学んだ。88年ドイツのライプチヒに留学し,ミシガン大学の哲学と心理学の講師の席を得て91年に帰国した。そこで親しくなったJ.デューイが,94年にシカゴ大学の初代の哲学部長に就任したとき,請われて同大学の助教授となり,1905年にデューイがコロンビア大学に移ったのちも,没年までシカゴ大学にとどまった。生前のミードには著作がなかったが,遺稿や講義ノートをもとに4冊の著書が死後に編集・刊行された。なかでも《精神・自我・社会Mind,Self and Society》(1934)は,役割取得,客我(me)と主我(I),一般化された他者などの概念を用いて,社会的な場での自我の形成過程を究明し,声価が高い。とくに1960年代以降,H.G.ブルーマーがミードの理論を〈象徴的相互作用論〉として展開するなど,彼の影響は世界的に広がっている。
執筆者:稲葉 三千男
アメリカの文化人類学者。フィラデルフィアに生まれる。バーナード大学在学中F.ボアズの講義を聞き,R.ベネディクトの指導をうけた。最初の調査は人間の発育と成長の研究をテーマに南太平洋のサモアでおこない,その報告《サモアで成人すること》(1928,邦訳《サモアの思春期》)は高く評価された。ミードの研究生活の前半はニューギニア,サモア,マヌスの小社会に注目し,後半は文明社会とくにアメリカに関心を移している。彼女の関心は非常に多様であったが,学習された行動としての文化に焦点をしぼり,世代をへて伝えられる文化の伝達様式を研究するという点では一貫していた。ミードの基本的立場は文化の相対主義であり,それぞれの文化はその言語をとおしてはじめて理解できるユニークなものであると主張する。1924年アメリカ自然史博物館の助手,64年同館主事,69年名誉主事となった。自伝《ブラックベリー・ウィンター》(1972,邦訳《女として人類学者として》)がある。
執筆者:松園 万亀雄
イギリスの経済学者。ケンブリッジ,オックスフォードの両大学に学び,第2次大戦時に国際連盟経済部,次いでイギリス政府経済部に勤務した後,1947-57年ロンドン・スクール・オブ・エコノミックス教授,57-69年ケンブリッジ大学教授。77年にスウェーデンのB.G.オリーンとともに,〈国際貿易および国際資本移動の理論における先駆的貢献〉によりノーベル経済学賞を分け合った。彼の主要な関心は経済理論を経済政策に応用することにあり,そのためにミクロ,マクロ両経済学にわたり,精緻(せいち)な政策論を展開した。その貢献は,とくに国際経済学の分野において著しい。主著《国際経済政策の理論》(1951-55)は2巻からなり,第1巻で国際収支,第2巻で貿易政策の基礎理論を集大成している。〈すべてそこにある〉といわれるように,この書は後世の研究を先取りする古典的名著として広く参照されている。
執筆者:大山 道広
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…はちみつ中に約80%含まれる糖分を発酵させてつくった酒。英語ではミードmeadという。はちみつの糖分は大部分がブドウ糖と果糖で,水で薄めれば酵母が生えて発酵し,容易に酒となるので,はちみつ酒は古くからつくられていた。…
… 20世紀のアメリカでは,経験的方法の土台の上で心理学的傾向の強い研究が隆盛をみる。その先駆としては,コミュニケーションや相互作用を重視して自我の形成を論じたC.H.クーリーやG.H.ミード,ポーランドからの移民の実証研究にもとづいて価値,態度(ことに状況規定)と社会行動とのかかわりに照明をあてたトマスW.I.ThomasとF.ズナニエツキらがあげられる。また本能論衰退後に盛んになる行動主義の説は,実験的研究を促進するほか,行動に及ぼされる後天的な習慣や環境要因の重要性に注意を喚起した。…
…役割研究の系譜は大きく二つに分けることができる。一つは,G.H.ミードに始まる社会心理学もしくはシンボリック相互作用論の系譜であり,もう一つはR.リントンに始まる構造主義的な系譜である。前者は,基本的特質の(1)と(2)にとくに注目し,行為者のパーソナリティと役割との関連に分析の焦点をおく。…
…しかしこれらは,世界各地におけるさまざまな家族の諸形態の形成論にまではおよんでいない。この点に関しては,古くはM.ミードの論文《未開家族》(1931)とR.リントンの《人間の研究》(1936)における諸説が注目される。ミードは家族論を展開するにあたっては,〈生物学的家族〉と〈社会学的家族〉との区別に注目する必要があるという。…
※「ミード」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
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