溶血性尿毒症症候群(読み)ヨウケツセイニョウドクショウショウコウグン

内科学 第10版 「溶血性尿毒症症候群」の解説

溶血性尿毒症症候群(全身疾患と腎障害)

定義
 近年,細血管障害性溶血性貧血,破壊性血小板減少,血小板血栓による臓器障害(特に腎機能障害)の3主徴からなる病態を,血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy:TMA)という概念でとらえ,その代表的疾患として,溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndromeHUS)と血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)が存在する.HUSは小児で多くみられ,腎糸球体を主体とする血管内皮細胞障害により急性腎不全,微小血管性溶血性貧血,血小板減少を認める.一方,TTPは脳微小血管を含む全身の血管内皮細胞障害を起こし,HUSの3徴に加え精神神経症状,発熱,皮膚症状などを認める【⇨14-11-5)】.
分類
 HUSは,その原因からベロ毒素(Shiga-like toxin:Stx)産生菌感染に続発する典型的HUSと,それ以外の非典型的HUS(atypical HUS:aHUS)の2つに大きく分類される.
病因・病態
 HUSは5歳以下の小児に多くみられ,腸管出血性大腸菌O157,O111,O26などStx産生菌による典型的HUSが全体の90%以上を占める.成人の場合,基礎疾患に併発する,または薬剤の使用がきっかけとなることが多い.
1)感染誘発性HUS:
典型的HUSでは,Stxがその受容体であるGb3発現細胞に結合し障害を起こす.腎の細小血管内皮細胞にはGb3受容体が多数存在するため腎障害が起こりやすい.Stx産生菌のほかにも,エンドトキシン産生菌(赤痢菌など),ノイラミニダーゼ産生病原体(肺炎球菌),ウイルスHIV,コクサッキー,インフルエンザなど)なども感染誘発性HUSの原因となる.
2)非感染性HUS:
感染以外では,薬剤性(抗癌薬,抗血小板薬,免疫抑制薬,経口避妊薬など),全身性疾患(SLE,強皮症,抗リン脂質抗体症候群など)に併発するもの,遺伝性(常染色体遺伝),妊娠・出産関連のHUSが存在する.原因として,補体活性化制御因子(補体H因子(Factor H)など)や血管内皮細胞機能制御因子(トロンボモジュリン)の先天的遺伝子異常または後天的機能低下が報告されている.これらの異常が血管内皮細胞での補体異常活性化につながり,内皮細胞障害・血栓形成を生じる.
 糸球体病変として,内皮細胞の著しい腫大,メサンギウム間入による基底膜の二重膜化などを認める.係蹄内腔には破砕赤血球,フィブリン,血小板を認め,血管壁にフィブリノイド壊死や血栓が観察される.血管系では,傍尿細管毛細血管に内皮細胞の腫大や内皮下腔の拡大を呈する.細動脈では内腔の狭小化を呈し,細動脈病変が広範に及ぶと両側腎皮質壊死を認める.
臨床症状
 小児(感染誘発性HUS)の場合,発症の数日から2,3週前に血便を伴う下痢・腹痛を認めることが多い.咽頭痛や上気道炎なども前駆症状としてみられる.その後,貧血,黄疸を伴う溶血性貧血を生じ,乏尿,急性腎不全を呈する.腎不全症状が重篤であると意識障害や痙攣が生じる.
検査成績
 溶血性貧血(正球性正色素性貧血,網状赤血球の増加,ハプトグロビンの低下,LDHの上昇,間接ビリルビンの上昇),血小板減少,BUNや血清クレアチニン値の上昇を認める.末梢血液像で破砕赤血球(fragmentation)を認める.Coombsテストは陰性である.
診断
 HUSには日本小児腎臓学会の診断基準がある.おもにStxによって惹起される血栓性微小血管障害であり,臨床的に細血管性溶血性貧血,血小板減少症,急性腎不全の3主徴をもって診断する.随伴症状として,中枢神経症状(意識障害,痙攣,頭痛など),肝障害,膵炎,DICなども考慮する.TTPとの鑑別は,好発年齢,前駆症状の有無,臨床症状,腎障害の重症度などにより行う.
治療・予後
 日本小児腎臓学会の治療ガイドラインに準じて行う.小児のHUSでは,水分管理と腸の安静により約90%は自然寛解に至る.一方,成人のHUSでは,支持療法のみでは寛解率は低く,無治療では致死率が非常に高い.腎障害により血液透析に移行する症例は70%に達する.
1)支持療法:
体液管理(輸液による水,電解質管理),透析,血圧管理(溢水による高血圧),輸血(Hb 6.0 g/dL以上を保つ),脳症に対する治療(抗痙攣薬の使用,脳浮腫に対する除水,グリセオール投与など),DICの治療,中心静脈栄養(1週間以上絶食が必要な場合)を行う.血小板輸血は出血傾向のあるとき,外科的処置の前に行う.
2)特異的治療法:
血漿輸注血漿交換療法,ガンマグロブリン,プロスタグランジンI2(PGI2),ビタミンE,ハプトグロビン投与などを行うが,いずれもHUSの進展抑制効果は証明されていない.HUS発症時期に抗菌薬は一般には使用しない.[前嶋明人・野島美久]
■文献
Noris M, Remuzzi G: Hemolytic Uremic Syndrome. J Am Soc Nephrol, 16: 1035-1050, 2005.

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家庭医学館 「溶血性尿毒症症候群」の解説

ようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん【溶血性尿毒症症候群 Hemolytic Uremic Syndrome】

[どんな病気か]
 細菌が産生する、おもにベロ毒素によってひきおこされる血栓性微小血管障害(けっせんせいびしょうけっかんしょうがい)で、溶血性貧血、血小板減少(けっしょうばんげんしょう)、急性腎不全(きゅうせいじんふぜん)を三主徴とする病気です。
 腸管出血性大腸菌O(ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきんオー)‐157(いちごーなな)の感染にともなっておこるものが、もっとも有名です。
[症状]
 数日間の先行感染(下痢(げり)などの胃腸炎や上気道炎(じょうきどうえん))のあとに、突然に顔面蒼白(そうはく)、無欲状態となり、出血斑(しゅっけつはん)、乏尿(ぼうにょう)、無尿(むにょう)で気づかれることが多いものです。
 けいれん、昏睡(こんすい)などの中枢神経(ちゅうすうしんけい)症状によって発見されることもありますが、この場合は、予後がきわめて悪くなります。
[検査と診断]
 前記の症状と血液検査の結果から、この病気の診断は容易にできます。
 貧血、血小板減少、尿素窒素値(にょうそちっそち)とクレアチニン値の上昇がみられます。
[治療]
 ふつう、保存的治療と対症療法を行ないます。
 ベロ毒素による出血性大腸炎に対する抗生物質の使用は、病原菌からの毒素の産生をひきおこすということで、抗生物質を使用しない考え方もありますが、いまだに意見の一致はみていません。
 止痢薬(しりやく)(下痢止め)は使わないようにし、高血圧のコントロール、血液の水・電解質や酸塩基の補正を行ないます。貧血に対する治療は、ゆっくり行ないます。
 尿がまったく出なくなったり(無尿)、コントロールのできない高血圧、水・電解質異常、酸血症、そしてけいれんがあれば、すみやかに透析(とうせき)(血液透析(けつえきとうせき)あるいは腹膜透析(ふくまくとうせき)(「人工透析」))を行ないます。
 その他の治療として、新鮮凍結血漿(けっしょう)の輸注、大量ガンマグロブリン療法、血漿交換などが行なわれます。
 10年以上経過した後で、たんぱく尿や高血圧、あるいは腎機能低下といった症例が20%から40%の人にみられるので、この病気の予後は、かならずしもよいとはいえません。

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百科事典マイペディア 「溶血性尿毒症症候群」の意味・わかりやすい解説

溶血性尿毒症症候群【ようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん】

スイスの小児科医ガッセルらが1955年に報告した病気で,1996年に大流行したO-157にともなう感染症の一つ。英語でhemolytic uremic syndromeということから,略してHUSともいう。 世界保健機関(WHO)では,1977年〜1996年までの20年間にエイズ狂牛病など約30種類の新たな感染症が確認されたとして,このなかに溶血性尿毒症症候群も含めている。 胃腸症状に続いて急性溶血性貧血血小板減少,腎不全をおこす。乳幼児でとくに1歳後半〜2歳前半によくみられる。 病因は不明だが,発症を誘発する因子としてO-157などの感染症がある。死亡率は5%前後とされる。原因が大腸菌ではない症例のほうが症状が激しく,急速に全身状態が悪化する。 後遺症として中枢神経系症状,腎機能障害,高血圧が残ることがある。

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