溶血性尿毒症症候群(読み)ヨウケツセイニョウドクショウショウコウグン

デジタル大辞泉 「溶血性尿毒症症候群」の意味・読み・例文・類語

ようけつせいにょうどくしょう‐しょうこうぐん〔ヨウケツセイネウドクシヤウシヤウコウグン〕【溶血性尿毒症症候群】

エッチ‐ユー‐エス(HUS)

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EBM 正しい治療がわかる本 「溶血性尿毒症症候群」の解説

溶血性尿毒症症候群

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 溶血性尿毒症症候群(ようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん)は、赤血球が壊れるタイプの溶血性貧血、血小板の減少、腎臓(じんぞう)の働きが急激に、しかも極端に低下してしまう急性腎不全の三つを大きな特徴とし、全身にさまざまな影響がおよんで、尿毒症の症状を示す状態です。多くは、O-157と呼ばれる腸管出血性大腸菌感染症の合併症として引きおこされます。
 発熱、激しい腹痛、水様性の下痢(げり)、血便といった症状に引き続き、動悸(どうき)や貧血症状、点状出血斑(てんじょうしゅっけつはん)、尿がでない、むくみ、高血圧といった症状がみられます。
 重症になると、けいれんや意識障害などの中枢神経の症状が現れることもあります。
 腎不全に対する治療がもっとも重要で、放置しておくと生命にかかわりますので、一刻も早く専門的な治療ができる病院を受診しなくてはいけません。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 すでにふれたように、溶血性尿毒症症候群は病原性大腸菌O-157の感染の合併症としておこることが多く、感染者の10パーセント程度に発症するといわれています。
 発症の原因は、大腸菌O-157がつくりだす志賀毒素(ベロ毒素)であり、子どもの患者さんのほとんどはO-157感染の合併症として発症します。
 志賀毒素によって、腎臓の内皮細胞が壊され、そこに血小板が集まってかたまり(血栓(けっせん))をつくります。次々に細胞が壊されるので血小板は消費され、減っていきます。血液の流れが悪くなり、腎臓の働きも低下します。血栓ができているために、そこを通り抜けようとする赤血球は壊され、その結果として貧血がおこります。
 志賀毒素以外の原因としては、赤痢菌(せきりきん)やウイルスの感染によるもの、シスプラチンシクロスポリンマイトマイシンCなどの抗がん薬や免疫抑制薬によるもの、膠原病(こうげんびょう)によるもの、放射線照射、妊娠・分娩(ぶんべん)、転移がんなどがあります。

●病気の特徴
 比較的珍しい病気ですが、子どもに多くみられます。90パーセントが子どもの患者さん、10パーセントが成人の患者さんです。とくに、4歳以下の乳幼児が多く、20~60パーセントが透析が必要な急性腎不全を合併し、30パーセント前後になんらかの中枢神経症状があらわれるといわれています。成人の場合は子どもより死亡率が高くなっています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]原因が病原性大腸菌O-157感染である場合、抗菌薬を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 病原性大腸菌O-157の感染により合併症として溶血性尿毒症症候群を発症してしまった場合には、抗菌薬を用いると細菌の菌体から毒素が放出されることにより病状が悪化する危険性があることが観察研究によって示されています。(1)(2)
 一方で、ホスホマイシンカルシウム水和物を下痢発症早期に使用した群における溶血性尿毒症症候群発症率が抗菌薬をまったく使用しなかった群に比べ低いという報告もあります。(3)

[治療とケア]輸液を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 溶血性尿毒症症候群に先立って発熱や下痢がおこることが多く、脱水症状が急性腎不全を増悪させるため、輸液が行われます。(4)

[治療とケア]急性腎不全の症状がみられる場合は血液透析を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 溶血性尿毒症症候群にともなう腎不全に対しては急性腎不全などの透析導入基準に準じて透析を行うことが勧められています。また、透析治療の効果については臨床研究によって確認されています。(5)

[治療とケア]血漿交換療法(けっしょうこうかんりょうほう)を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 大腸菌や悪性腫瘍(しゅよう)が原因の溶血性尿毒症症候群に対する血漿交換療法の有効性については認められていません。
 それ以外が原因の溶血性尿毒症症候群では、早期から血漿交換を行うことで予後が改善されるという報告があります。(6)(7)

[治療とケア]副腎皮質ステロイド薬を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 脳症に対するエビデンスは確立されていません。
 副腎皮質ステロイド薬が溶血性尿毒症症候群に効果のあることを示す臨床研究はでていますが、血漿交換療法の効果のほうがより確実なので、いまのところ、第一選択にはなっていません。(8)

[治療とケア]抗血栓薬を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 少なくとも血漿交換療法にあまり反応しなかった患者さんでは、ヘパリン製剤やジピリダモールは有効でなかったとの臨床研究があります。(9)

[治療とケア]エクリズマブを用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 大腸菌によらないある種の溶血性尿毒症症候群では、血漿交換療法に比較して有効でなかったことを示した臨床研究があります。(10)

[治療とケア]新鮮凍結血漿(しんせんとうけつけっしょう)を用いる
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 新鮮凍結血漿は血漿交換療法に利用され、効果が認められています。ただちに血漿交換が行えない場合には、まず新鮮凍結血漿の投与を行うことが勧められています。(7)

[治療とケア]降圧薬を使用する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 高血圧が高い頻度で合併し、さらなる合併症をおこすことがあるため、高血圧を認めた場合には速やかな降圧を行うことが勧められています。(11)


よく使われている薬をEBMでチェック

病原性大腸菌O-157感染に対して(溶血性尿毒症症候群を発症しかかっている場合)
[薬用途]抗菌薬
[薬名]ホスミシン(ホスホマイシンカルシウム水和物)(3)
[評価]☆☆
[薬名]クラビット(レボフロキサシン水和物)(1)(2)
[評価]★→
[評価のポイント] 病原性大腸菌O-157の感染により合併症として溶血性尿毒症症候群を発症してしまった場合(発症直前も含めて)には、抗菌薬の投与を行うと病状が悪化する危険性があることが観察研究によって示されていますが、ホスホマイシンカルシウム水和物は初期に使用することで溶血性尿毒症症候群の発症を防ぐ可能性を示す報告もあります。

新鮮凍結血漿
[薬名]FFP新鮮凍結血漿(新鮮凍結人血漿)(7)(12)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 新鮮凍結血漿は血漿交換療法に利用され、効果が認められています。ただし、アナフィラキシーショックアレルゲンや薬物投与などによって、生命にかかわる急激なアレルギー反応がおこること。ショック状態に陥る)の危険性があるため、一部の専門家からは支持されていません。

副腎皮質ステロイド薬
[薬名]ソル・メドロール(メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム)(8)
[評価]☆☆☆
[薬名]プレドニン(プレドニゾロン)(8)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 副腎皮質ステロイド薬が溶血性尿毒症症候群に有効であったことを示す研究があります。しかし、血漿交換療法の効果のほうがより確実なので、副腎皮質ステロイド薬はいまのところ第一選択にはなっていません。

抗血栓薬
[薬名]ヘパリン製剤(9)
[評価]☆☆
[薬名]ペルサンチン(ジピリダモール)(9)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 少なくとも血漿交換療法にあまり反応しなかった患者さんでは、ヘパリン製剤やジピリダモールは有効でなかったとの臨床研究があります。


[薬名]ソリリス(エクリズマブ)(10)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 病原性大腸菌によらないある種の溶血性尿毒症症候群では、血漿交換療法に比較して有効でなかったことを示した臨床研究があります。

降圧薬(カルシウム拮抗薬)
[薬名]アダラート(ニフェジピン)
[評価]☆☆☆
[薬名]アムロジン/ノルバスク(アムロジピンべシル酸塩)
[評価]☆☆☆
[薬名]ペルジピン(ニカルジピン塩酸塩)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 高血圧が高い頻度で合併し、さらなる合併症をおこすことがあるため、高血圧を認めた場合には速やかな降圧を行うことが勧められています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
まずは脱水症状を抑える
 初期では、下痢や嘔吐(おうと)などのため脱水症状に陥りやすいので、点滴で水分(輸液)を補給します。一方では、乏尿期(ぼうにょうき)・無尿期には過剰な輸液に注意をする必要があります。

血漿交換療法では高い効果が
 重症例には、透析療法、血漿交換療法が行われます。
 現在までの臨床研究によれば、死亡率および腎不全へ移行する確率ともにもっとも低くするのは血漿交換療法と考えられます。
 透析療法は尿がでなくなる状態(乏尿・無尿)をおこして、ほかの治療を試しても効果が得られなかった場合に行われます。

抗菌薬は使用しない
 病原性大腸菌O-157による感染症の場合、抗菌薬を使用するとかえって菌体内部の志賀毒素が放出されて、溶血性尿毒症症候群を発症する危険性が高くなることが観察研究によって確認されています。
 溶血性尿毒症症候群と診断されていれば抗菌薬を使うことはほとんどありませんが、明確には診断がつかない疑わしい例もありますので、注意が必要です。
 ただし、病原性大腸菌感染症の初期においては、まずホスミシン(ホスホマイシンカルシウム水和物)を使用して感染の拡大(菌の増殖)を防ぎます。

(1)Wong CS, Jelacic S, Habeeb RL, et al. The risk of the hemolytic-uremic syndrome after antibiotic treatment of Escherichia coli O157:H7 infections. N Engl J Med. 2000;342:1930-1936.
(2)Safdar N, Said A, Gangnon RE, et al. Risk of hemolytic uremic syndrome after antibiotic treatment of Escherichia coli O157:H7 enteritis: a meta-analysis. JAMA. 2002;288:996-1001.
(3)Ikeda K, Ida O, et al. Effect of early fosfomycin treatment on prevention of hemolytic uremic syndrome accompanying Escherichia coli O157:H7 infection. ClinNephrol 1999;52:357-362.
(4)Ake JA, Jalacic S, Ciol MA, Watkins SL, Murray KF, Christie DL, Klein EJ, Tarr PI:Relative nephroprotection during Escherichia coli O157:H7 infections:Association with intravenous volume expansion. Pediatrics 2005;115:e673-680.
(5)Ekberg M, Holmberg L, Denneberg T. Hemolytic uremic syndrome. Results of treatment with hemodialysis. ActaPaediatr Scand. 1977;66:693-698.
(6)Michael M, Elliott EJ, et al. Interventions for haemolyticuraemic syndrome and thrombotic thrombocytopenicpurpura. The Cochrane Collaboration :2009: CD003595.
(7)Brunskill SJ, Tusold A, et al. A systematic review of randomized controlled trials for plasma exchange in the treatment of thrombotic thrombocytopenic purpura. Transfus Med 2007;17:17-35.
(8)Bell WR, Braine HG, Ness PM, et al. Improved survival of thrombotic thrombocytopenic purpura-hemolytic uremic syndrome Clinical experience in 108 patients. N Engl J Med. 1991;325:398-403.
(9)Van Damme-Lombaarts R, Proesmans W, et al. Heparin plus dipyridamole in childhood hemolytic-uremicsyndrome:aprospective,randomizedstudy.JPediatr1988;113:913-918.
(10)Gruppo RA, Rother RP, et al. Eculizumab for congenital atypical hemolytic-uremic syndrome. NEng J Med 2009;360:544-546.
(11)五十嵐 隆, 他. 溶血性尿毒症症候群の診断・治療ガイドライン2013. 東京医学社. 2014. 36-38.
(12)Blackall DP, Uhl L, Spitalnik SL. Cryoprecipitate-reduced plasma:rationale for use and efficacy in the treatment ofthrombotic thrombocytopenic purpura. Transfusion. 2001;41:840-844.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

内科学 第10版 「溶血性尿毒症症候群」の解説

溶血性尿毒症症候群(全身疾患と腎障害)

定義
 近年,細血管障害性溶血性貧血,破壊性血小板減少,血小板血栓による臓器障害(特に腎機能障害)の3主徴からなる病態を,血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy:TMA)という概念でとらえ,その代表的疾患として,溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)と血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)が存在する.HUSは小児で多くみられ,腎糸球体を主体とする血管内皮細胞障害により急性腎不全,微小血管性溶血性貧血,血小板減少を認める.一方,TTPは脳微小血管を含む全身の血管内皮細胞障害を起こし,HUSの3徴に加え精神神経症状,発熱,皮膚症状などを認める【⇨14-11-5)】.
分類
 HUSは,その原因からベロ毒素(Shiga-like toxin:Stx)産生菌感染に続発する典型的HUSと,それ以外の非典型的HUS(atypical HUS:aHUS)の2つに大きく分類される.
病因・病態
 HUSは5歳以下の小児に多くみられ,腸管出血性大腸菌O157,O111,O26などStx産生菌による典型的HUSが全体の90%以上を占める.成人の場合,基礎疾患に併発する,または薬剤の使用がきっかけとなることが多い.
1)感染誘発性HUS:
典型的HUSでは,Stxがその受容体であるGb3発現細胞に結合し障害を起こす.腎の細小血管内皮細胞にはGb3受容体が多数存在するため腎障害が起こりやすい.Stx産生菌のほかにも,エンドトキシン産生菌(赤痢菌など),ノイラミニダーゼ産生病原体(肺炎球菌),ウイルス(HIV,コクサッキー,インフルエンザなど)なども感染誘発性HUSの原因となる.
2)非感染性HUS:
感染以外では,薬剤性(抗癌薬,抗血小板薬,免疫抑制薬,経口避妊薬など),全身性疾患(SLE,強皮症,抗リン脂質抗体症候群など)に併発するもの,遺伝性(常染色体遺伝),妊娠・出産関連のHUSが存在する.原因として,補体活性化制御因子(補体H因子(Factor H)など)や血管内皮細胞機能制御因子(トロンボモジュリン)の先天的遺伝子異常または後天的機能低下が報告されている.これらの異常が血管内皮細胞での補体異常活性化につながり,内皮細胞障害・血栓形成を生じる.
 糸球体病変として,内皮細胞の著しい腫大,メサンギウム間入による基底膜の二重膜化などを認める.係蹄内腔には破砕赤血球,フィブリン,血小板を認め,血管壁にフィブリノイド壊死や血栓が観察される.血管系では,傍尿細管毛細血管に内皮細胞の腫大や内皮下腔の拡大を呈する.細動脈では内腔の狭小化を呈し,細動脈病変が広範に及ぶと両側腎皮質壊死を認める.
臨床症状
 小児(感染誘発性HUS)の場合,発症の数日から2,3週前に血便を伴う下痢・腹痛を認めることが多い.咽頭痛や上気道炎なども前駆症状としてみられる.その後,貧血,黄疸を伴う溶血性貧血を生じ,乏尿,急性腎不全を呈する.腎不全症状が重篤であると意識障害や痙攣が生じる.
検査成績
 溶血性貧血(正球性正色素性貧血,網状赤血球の増加,ハプトグロビンの低下,LDHの上昇,間接ビリルビンの上昇),血小板減少,BUNや血清クレアチニン値の上昇を認める.末梢血液像で破砕赤血球(fragmentation)を認める.Coombsテストは陰性である.
診断
 HUSには日本小児腎臓学会の診断基準がある.おもにStxによって惹起される血栓性微小血管障害であり,臨床的に細血管性溶血性貧血,血小板減少症,急性腎不全の3主徴をもって診断する.随伴症状として,中枢神経症状(意識障害,痙攣,頭痛など),肝障害,膵炎,DICなども考慮する.TTPとの鑑別は,好発年齢,前駆症状の有無,臨床症状,腎障害の重症度などにより行う.
治療・予後
 日本小児腎臓学会の治療ガイドラインに準じて行う.小児のHUSでは,水分管理と腸の安静により約90%は自然寛解に至る.一方,成人のHUSでは,支持療法のみでは寛解率は低く,無治療では致死率が非常に高い.腎障害により血液透析に移行する症例は70%に達する.
1)支持療法:
体液管理(輸液による水,電解質管理),透析,血圧管理(溢水による高血圧),輸血(Hb 6.0 g/dL以上を保つ),脳症に対する治療(抗痙攣薬の使用,脳浮腫に対する除水,グリセオール投与など),DICの治療,中心静脈栄養(1週間以上絶食が必要な場合)を行う.血小板輸血は出血傾向のあるとき,外科的処置の前に行う.
2)特異的治療法:
血漿輸注,血漿交換療法,ガンマグロブリン,プロスタグランジンI2(PGI2),ビタミンE,ハプトグロビン投与などを行うが,いずれもHUSの進展抑制効果は証明されていない.HUS発症時期に抗菌薬は一般には使用しない.[前嶋明人・野島美久]
■文献
Noris M, Remuzzi G: Hemolytic Uremic Syndrome. J Am Soc Nephrol, 16: 1035-1050, 2005.

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六訂版 家庭医学大全科 「溶血性尿毒症症候群」の解説

溶血性尿毒症症候群
ようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん
Hemolytic uremic syndrome
(子どもの病気)

どんな病気か

 溶血性尿毒症症候群は腎臓や脳などを侵す病気で、赤血球の破壊による貧血や、血小板という出血を防ぐ細胞の減少を引き起こしたり、急性腎不全(じんふぜん)になったりします。また脳に症状が現れて、けいれんや意識が損なわれることもあります。

原因は何か

 先天的な原因によるものもありますが、子どもの場合ほとんどが腸管出血性大腸菌O(オー)157:H7(以下、O157〈オーイチゴーナナと読む〉と略)によって汚染された食べ物を摂取することで発病します。O157はヒトの腸内でベロ毒素という毒素を放出し、これが血液中に入りさまざまな症状を引き起こします。

 1996年、大阪府堺市での5000人を超すO157感染の大流行は記憶に新しいところです。

症状の現れ方

 最初は胃腸炎症状(発熱、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛など)で始まります。下痢便には血液が混じっている(血便)ことがほとんどです。毒素による脳の症状のため、刺激に過敏になり、重症の場合、けいれんを起こしたり、意識がなくなり死亡する場合もあります。また貧血のために疲労感を訴えたり、顔色が悪くなったりします。急性腎不全になるとおしっこの量が減ります。

検査と診断

 胃腸炎の段階では便の細菌検査をしてO157によるものかどうかを検査します。この菌の感染とわかったら、溶血性尿毒症症候群に進行していないかどうか、血液検査や尿検査で貧血や血小板の数、腎機能などを症状が落ち着くまで検査します。O157の感染から5~10日後に、5%程度の子どもに溶血性尿毒症症候群が発症します。

治療の方法

 胃腸炎の段階では十分に水分を補給して、脱水状態にならないようにします。強い下痢止めは菌や毒素が体から排泄されるのを遅くする可能性があるため、使用しません。抗生剤の使用については意見が分かれています。強力に大腸菌を殺菌すると毒素の放出が促進される可能性があるからです。

 溶血性尿毒症症候群になった場合、2週間ほど入院して治療します。貧血の強い場合には輸血が、急性腎不全になった場合には一時的に人工透析(とうせき)が必要になります。以前は死亡率の高い病気でしたが、現在は95%以上の子どもは救命可能です。

病気に気づいたらどうする

 発熱とともに腹痛、下痢(とくに血便を伴うもの)、嘔吐がみられたら、小児科医を受診して便の細菌検査を受けてください。もしO157が検出されたら、完治するまでこまめに医師の診察を受けてください。また、溶血性尿毒症症候群が回復して退院した場合も、長期にわたって腎臓の障害が残ることがあるので、長期間の定期的診察を受けてください。

 O157は生焼けのひき肉や殺菌処理されていない牛乳やチーズ、あるいは汚染された水(井戸水など)によって感染するので、予防のためには十分な手洗いや食品の加熱を心がけてください。

関連項目

 細菌性下痢症

金子 一成

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「溶血性尿毒症症候群」の解説

ようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん【溶血性尿毒症症候群 Hemolytic Uremic Syndrome】

[どんな病気か]
 細菌が産生する、おもにベロ毒素によってひきおこされる血栓性微小血管障害(けっせんせいびしょうけっかんしょうがい)で、溶血性貧血、血小板減少(けっしょうばんげんしょう)、急性腎不全(きゅうせいじんふぜん)を三主徴とする病気です。
 腸管出血性大腸菌O(ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきんオー)‐157(いちごーなな)の感染にともなっておこるものが、もっとも有名です。
[症状]
 数日間の先行感染(下痢(げり)などの胃腸炎や上気道炎(じょうきどうえん))のあとに、突然に顔面蒼白(そうはく)、無欲状態となり、出血斑(しゅっけつはん)、乏尿(ぼうにょう)、無尿(むにょう)で気づかれることが多いものです。
 けいれん、昏睡(こんすい)などの中枢神経(ちゅうすうしんけい)症状によって発見されることもありますが、この場合は、予後がきわめて悪くなります。
[検査と診断]
 前記の症状と血液検査の結果から、この病気の診断は容易にできます。
 貧血、血小板減少、尿素窒素値(にょうそちっそち)とクレアチニン値の上昇がみられます。
[治療]
 ふつう、保存的治療と対症療法を行ないます。
 ベロ毒素による出血性大腸炎に対する抗生物質の使用は、病原菌からの毒素の産生をひきおこすということで、抗生物質を使用しない考え方もありますが、いまだに意見の一致はみていません。
 止痢薬(しりやく)(下痢止め)は使わないようにし、高血圧のコントロール、血液の水・電解質や酸塩基の補正を行ないます。貧血に対する治療は、ゆっくり行ないます。
 尿がまったく出なくなったり(無尿)、コントロールのできない高血圧、水・電解質異常、酸血症、そしてけいれんがあれば、すみやかに透析(とうせき)(血液透析(けつえきとうせき)あるいは腹膜透析(ふくまくとうせき)(「人工透析」))を行ないます。
 その他の治療として、新鮮凍結血漿(けっしょう)の輸注、大量ガンマグロブリン療法、血漿交換などが行なわれます。
 10年以上経過した後で、たんぱく尿や高血圧、あるいは腎機能低下といった症例が20%から40%の人にみられるので、この病気の予後は、かならずしもよいとはいえません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

百科事典マイペディア 「溶血性尿毒症症候群」の意味・わかりやすい解説

溶血性尿毒症症候群【ようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん】

スイスの小児科医ガッセルらが1955年に報告した病気で,1996年に大流行したO-157にともなう感染症の一つ。英語でhemolytic uremic syndromeということから,略してHUSともいう。 世界保健機関(WHO)では,1977年〜1996年までの20年間にエイズ狂牛病など約30種類の新たな感染症が確認されたとして,このなかに溶血性尿毒症症候群も含めている。 胃腸症状に続いて急性溶血性貧血血小板減少,腎不全をおこす。乳幼児でとくに1歳後半〜2歳前半によくみられる。 病因は不明だが,発症を誘発する因子としてO-157などの感染症がある。死亡率は5%前後とされる。原因が大腸菌ではない症例のほうが症状が激しく,急速に全身状態が悪化する。 後遺症として中枢神経系症状,腎機能障害,高血圧が残ることがある。

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