日本大百科全書(ニッポニカ) 「炭鉱用語集」の意味・わかりやすい解説
炭鉱用語集
たんこうようごしゅう
炭鉱には独特のことばがある。また一部の用語は鉱山とか土木のトンネル工事などにも共通に用いられているものもある。ここでは、一般の人には耳慣れない特殊な用語のいくつかを取り上げて解説する。
*印は別に本項目があることを示す。
新山(あらやま)
まだ採掘、掘削作業の行われていない部分や地区をいう。地山(じやま)ともいう。
浮石(うきいし)
坑道その他岩盤内につくられた空洞の天井とか側壁をつくっている岩石の一部が、亀裂(きれつ)によって本体の岩盤から剥離(はくり)して、落下または滑り落ちやすい状態になっているもの。危険であるので、みつけたならば、十分に支えるようにするとか、人為的に落下除去するように心がける。石炭の浮石を浮炭(うきたん)ともいう。
打柱(うちばしら)
音読みして「だちゅう」ともいい、枠組みしていない一本柱をいう。
沿層坑道(えんそうこうどう)
炭層の中に炭層に沿って掘削した坑道。鉱山でいうひ押(ひおし)坑道と同じ意味のものである。
卸(おろし)・昇(のぼり)
ともに斜めの坑道で上部から掘り下がるときは卸、下から掘り上がるときは昇という。しかし、できあがってしまえばどちらかは判定できない。名称によってのみ掘ったときの方向がわかる。
稼行丈(かこうたけ)・山丈(やまたけ)・炭丈(すみたけ)
炭層は厚いものも薄いものもあり、全部が石炭であることは珍しく、たいてい何枚かの岩石の薄い層(これを「挟み」という)が介在している。一方、採掘技術上からは厚い層は一度に採掘できないので、適当な掘りやすい厚さに分けて何段にも掘ったり、それほどの厚さのないときは、上または下、ときには両方に石炭を残して採掘する。一方、薄い炭層は、上または下の岩石を切り込んで採掘することがある。以上の場合の採掘するためにとった厚さを稼行丈という。山丈とは挟みの厚さも含んだ炭層の厚さで、挟みを除いて石炭部分のみを累計した厚さが炭丈である。
冠(かむり)・土平(どべら)・踏前(ふまえ)
坑道の各部の名称で、天井部分を冠、側壁を土平、床部を踏前という。トンネル工事にも同じ用語がある。
空木積(からこづみ)・実木積(みこづみ)
木材を井桁(いげた)に組んで広い面積で天井を支持させるものを木積といい、井桁の内部が空間のものを空木積(単に空木(からこ)ともいう)、内部に砕石などを詰めてじょうぶにしてあるものが実木積(実木(みこ)ともいう)である。
切羽(きりは)*・切詰(きりづめ)(詰・引立)
掘削作業の行われている箇所を切羽といい、採炭切羽、掘進切羽などとよんでいる。切詰、詰(つめ)、引立(ひったて)はすべて掘進切羽の別名である。
棹取(さおとり)
斜坑や水平坑道で列車を操作する乗務運搬員で、別名「ピン切り」ともいう。列車をつないでいるピンの装脱を行うからである。動作が機敏で、頭の回転の速い若い労働者の仕事である。
先山(さきやま)・後山(あとやま)*
先山とは熟練作業員のことをいい、後山とは技量未熟な作業員のことである。一般に一作業箇所には、1人の先山のもとに2、3人あるいは数人の後山が配されていて、先山の指示によって作業が遂行される。とくに模範とされるような円熟した技量をもっている先山を大先山(おおさきやま)ということもある。
仕繰(しくり)
坑道の補修作業。
硑(ずり)・硬(ぼた)
この両者はまったく同じ意味で、前者は北海道の炭鉱で、後者は九州の炭鉱で主として用いられる。掘削された石炭以外の不用岩石のことで、どこか適当な箇所に捨てなければならない。
捜検(そうけん)
入坑前の服装検査で、たばこ、発火具等の発見に重点がある。坑内のガスや炭塵(たんじん)の爆発を懸念して行うものである。
高落(たかお)ち
落盤のこと。
面交代(つらこうたい)
作業員の時間交代を作業現場で行うこと。急ぐ作業とか、重要作業に用いられる。
鉄砲(てっぽう)
発破が空発して破壊効果を発揮しないこと。装填(そうてん)孔がそのまま残ることから連想して、先止りになってどことも連絡していない坑道を「鉄砲坑道」という。
裸坑道(はだかこうどう)
支柱のまったくない素掘りのままの坑道。
落(ば)らす
人為的に崩落させること。自然に崩落がおこることを「落(ば)れる」という。
半(はん)コロ
小さな坑道で、常用の車両の入らないところに用いる手製の小型車両。
ヒコーキ
車両が歯止めを失って猛スピードで坑道内を逸走すること。
古洞(ふるとう)
採掘跡にできた空洞で、放棄されているものをいう。入口には、人が入ったりしないように通行禁止柵などがつくられている。
本向(ほんむき)・後向(あとむき)
採掘が展開してゆく方向を本向という。後向はその反対方向である。
巻立(まきたて)
斜坑から水平坑道に移る分岐部。
目抜(めぬき)
接近して掘られている二つの坑道を連絡する小坑道。
ロング
長壁式採炭切羽(「炭鉱」の項参照)は英語ではロング・ウォール・システム・コール・フェイスLong Wall System Coal Faceという。このため長壁式切羽をわが国ではロング・ウォールまたは単にロングといっている炭鉱が多い。長壁式切羽での採炭作業を指揮する大先山のことを「ロング長」ともいう。
[磯部俊郎]