点滴分析(読み)てんてきぶんせき(英語表記)spot analysis
drop analysis

改訂新版 世界大百科事典 「点滴分析」の意味・わかりやすい解説

点滴分析 (てんてきぶんせき)
spot analysis
drop analysis

微量化学分析の一部門。1滴の試料溶液に1滴(またはきわめて微量)の試薬を加えて鋭敏な反応をおこさせ,これによって微量の物質検出確認する分析方法。染点分析または斑点分析ともいう。点滴分析に用いる化学反応を点滴反応と呼び,きわめて鋭敏で,他の共存物質による妨害のなるべく少ないものが用いられる。点滴分析法の適用は,古く1859年J.H.シッフが,炭酸銀をしみこませたろ紙上で銀の灰褐色斑点の沈着によって微量の尿素を検出したときに始まるといわれる。20世紀に入り鋭敏な特殊試薬ことに有機試薬と呼ばれる,一連の優秀な有色キレート形成剤が合成されるにおよび,これらが実際面での要請によって急速な発展を遂げ,点滴分析に必要な〈鋭敏〉〈特異的〉〈迅速〉などの諸条件が,しだいに満たされるようになった。これを一つの組織的体系として確立し,今日の点滴分析の発展の基礎をつくったのは,1930年ころに始まるオーストリアの化学者ファイグルF.Feiglらの一連の研究である。ファイグルらは,いわゆる滴板というくぼみつき磁器製板上で点滴反応を行わせ,あるいはさらにこれをろ紙上で行わせて,生成物を選択的にろ紙繊維に吸着濃縮させるなどの方法によって,同じ反応を試験管で行う場合に比べて著しく反応の鋭敏度を高めることに成功したが,今日では無数の応用例が報告されている。また50年ころ,日本では,生成物をイオン交換樹脂の微小粒に選択的に吸着濃縮させるいわゆる〈樹脂点滴法〉が創案され,ファイグルらの方法をさらに大きく発展させるために応用されている。点滴分析は,きわめて鋭敏であり操作が簡便であることのほかに,試料が微量ですむため,局所分析や貴重試料の定性分析などにきわめて有効であり,試薬の消費も少なく,操作には大きな空間を必要としない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「点滴分析」の意味・わかりやすい解説

点滴分析
てんてきぶんせき
spot analysis

微量定性分析の一つで、試料溶液の一滴と試薬溶液一滴とを反応させて試料中に含まれる物質の検出をする方法。斑点分析(はんてんぶんせき)ともいう。予備試験もしくは簡略分析、迅速分析的に用いられている。普通、磁製またはガラス製の板に小さな凹(くぼ)みを多数つけた点滴板に試薬溶液を入れるか、または試薬溶液をあらかじめしみ込ませた点滴紙(濾紙(ろし))を用いて反応させ、おもにその際の呈色を利用して確認する。したがって、利用できる反応としては、高い選択性や特異性をもち、高感度であることが要求される。特殊な器具類が不要で、短時間で分析が行える特徴がある。

[高田健夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「点滴分析」の意味・わかりやすい解説

点滴分析
てんてきぶんせき
drop analysis

斑点分析ともいう。試料,試薬溶液のそれぞれ1滴ずつをろ紙,ガラス板,白色磁製板などの上にとり,反応させて沈殿あるいは着色を観察し,定性を行う微量分析法の1つ。ろ紙に試薬をしみこませておき,これに試料の1滴を落すこともある。所要試料液量は 0.05ml程度で,特別の実験室や熟練を必要としない分析試験法である。試薬としては高感度の有機試薬を用いることが多い。

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百科事典マイペディア 「点滴分析」の意味・わかりやすい解説

点滴分析【てんてきぶんせき】

斑点分析,スポットテストなどとも。試料溶液の1滴と試薬溶液の1滴とを反応させ(通常点滴板,濾紙,毛細管などを用いる),その呈色ないし沈殿反応から試料中の物質の定性分析を行う方法。簡便で,微量を取り扱って比較的鋭敏なのが特徴。
→関連項目微量分析

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化学辞典 第2版 「点滴分析」の解説

点滴分析
テンテキブンセキ
spot analysis, drop analysis

はん点分析ともいう.微量定性分析の一つ.試料溶液と試薬溶液の各1滴(約0.05 mL)を沪紙上または点滴板上で反応させるのが主要な操作である.応用される化学反応は高感度,高い選択性を必要とする.この反応は点滴反応,あるいははん点反応とよばれる.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の点滴分析の言及

【微量分析】より

…化学分析では取り扱う試料の量により,常量分析macro analysis(~0.1g以上),半微量分析semimicro analysis(10~20mg),微量分析micro analysis(~1mg),超微量分析ultra micro analysis(~1μg)などと便宜上分ける。 微量分析法は1926年ころオーストリアの化学者エーミヒFriedrich Peter Emich(1860‐1940)により系統化されたが,F.プレーグルによる有機微量分析法の開発や,ファイグルFritz Feigl(1892‐1971)による点滴分析法spot test(斑点分析)の開発などが大きな貢献をしている。有機微量分析では3~5mgの試料を用いて元素分析ができ,点滴分析では1滴の試料(0.05ml)で目的化学種を分析することができる。…

※「点滴分析」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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