改訂新版 世界大百科事典 「焼鈍し」の意味・わかりやすい解説
焼鈍し (やきなまし)
annealing
熱処理の一種。焼鈍(しようどん)ともいう。熱的に平衡な状態になるように高温に加熱する操作の総称。通常は加熱後の徐冷を伴い,これによって材料は軟化する。焼入れと組み合わせて材料の硬さ,靱性(じんせい)などの向上を目的として行うときには,この操作を焼戻しと呼ぶ。もともとは焼入れ-焼戻し,塑性変形などによって硬化した鋼を赤熱させた後,わら灰の中に入れるなどして徐冷し,軟化させることを意味した。これは現在,鋼の完全焼きなましと呼ばれるものであり,〈オーステナイト〉から比較的粗い〈パーライト〉を生成させることに対応する。これによって加工ひずみなどが除去され,機械加工が容易となる。均質化焼きなましというのは,高温で原子の拡散を起こさせ,凝固した材料などの中にある成分元素の不均質(偏析)をなくすためのものである。したがってこの処理には比較的長い時間を要する。鋼の浸炭,脱炭のための高温保持や,半導体素子用ケイ素に不純物を添加するための高温保持なども拡散を目的とするものであり,これらの場合は拡散焼きなましと呼ばれる。イオン打込みによって不純物を添加したときなど,半導体素子には格子欠陥を消滅させるためのアニールannealがなされるが,この英語の概念は焼きなましとほとんど同じである。塑性変形あるいは溶接などによって生じた残留応力(ひずみ)を解放するためには応力除去焼きなまし(ひずみ取り焼きなまし)が行われる。このときには組織の変化を最小にするために比較的低温に加熱するので,低温焼きなましとも呼ぶ。金属を線や板に加工する場合,1回の塑性加工では目的の形状にすることができない場合が多い。このときには塑性加工後に再結晶が起きるほどの高温に加熱して焼きなまし,その後もう一度加工をする。このような操作を繰り返して目的の形状にする処理を再結晶焼きなまし(中間焼きなまし)といい,再結晶によって,完全な軟化,新しい結晶粒の形成,集合組織の変化が生じる。
執筆者:伊藤 邦夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報