改訂新版 世界大百科事典 「照明説」の意味・わかりやすい解説
照明説 (しょうめいせつ)
doctrine of illumination
とくに新プラトン主義の伝統において主張された認識論上の原理。プラトン以前にもピタゴラスとパルメニデスの哲学では,真理はそれ自体で存在し,永遠不滅で美と調和と論理的透明さをもつものとされ,これの認識は霊魂が感覚の混雑を離れて純一となり,光の世界に昇ったときに初めて起こるとされた。この考えはプラトンのイデア説とプロティノスのヌース(知性)説に生かされ,霊魂の純化と上昇の道を教えるとともに,霊魂が想起によって自己のうちに真理を見いだすことも説かれた。アウグスティヌスはこれにならい,知的真理の発見と精神の自己認識とを神的光の〈照明illuminatio〉に帰した。その光は存在そのものの光であるとされ,照明説は認識の働きに存在論的根拠をおくものでもあった。その際想起説には重点はなく,むしろそのできごとの恩寵(恩恵)的性格が強調され,照明による真理認識は神を愛する者にのみ可能であるとして,神学的認識の優位が説かれた。この認識論は中世のフランシスコ会のものとなり,さらに神秘主義や光学にも大きな影響を与えたが,他方,認識を感覚からの抽象という理性の自発的な働きに基礎づけるアリストテレス以来の考え方があって,照明説は13世紀以後衰退した。しかし近世に入ってもマールブランシュのように,〈恩寵の光lumen gratiae〉に代わる〈自然の光lumen naturale〉の照明をもって理性認識の原因とみなす機会原因論もあった。
→新プラトン主義 →光
執筆者:泉 治典
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報