煩・患(読み)わずらう

精選版 日本国語大辞典 「煩・患」の意味・読み・例文・類語

わずら・う わづらふ【煩・患】

〘自ワ五(ハ四)〙
① そのことに心がとらわれて思い苦しむ。悩む。心配する。
万葉(8C後)五・八九七「かにかくに 思和豆良比(おもひワヅラヒ)(ね)のみし泣かゆ」
※天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事「ヲモイノ アマリニ スデニ キヲ vazzurauaxeraruru(ワヅラワセラルル) ヤウニ アッタニ ヨッテ」
② 難渋する。苦労する。骨を折る。
書紀(720)皇極二年一一月(岩崎本平安中期訓)「一の身の故を以て豈万民を煩労(ワツラハ)しめむや」
※土左(935頃)承平五年二月七日「こぎのぼるに、かはのみづひて、なやみわづらふ」
病気になる。病気で苦しむ。後世病名を示して、「…をわずらう」の形でも用いる。
※伊勢物語(10C前)一二五「むかし、をとこ、わづらひて、心地死ぬべくおぼえければ」
日葡辞書(1603‐04)「メ、または、ヅツウ ナドヲ vazzurǒ(ワヅラウ)
④ (動詞の連用形に付けて用い) その動作・行為がすらすらと進まないで苦労するの意を表わす。…しかねる。
源氏(1001‐14頃)手習中将、言ひわづらひて帰りにければ、いとなさけなくむもれて」
[語誌](1)上代では①の挙例万葉集」のように、直面する困難に対する精神的苦痛、困惑を意味するが、中古にはいると、③のように、病気などによる肉体的苦痛をも意味するようになる。反対に肉体的苦痛を意味した「悩む」は中古から精神的苦痛をも意味するようになり、「わずらう」と意味領域が接近する。中古和文に見られる用例からは、「わずらう」が肉体的苦痛を表現する場合、「悩む」よりも強い痛みや発作を伴う傾向が伺われる。
(2)精神的苦痛の場合は、「悩む」が直面する事態を我がこととして把握し、主体的にかかわる場合が多いのに対して、「わずらう」はより客観的であり、第三者的である。したがって、迷惑・困惑のニュアンスを含むことが多い。この意味特徴は近代に至るまで一貫して保たれている。

わずらい わづらひ【煩・患】

〘名〙 (動詞「わずらう(煩)」の連用形の名詞化)
① 悩むこと。苦しむこと。また、厄介なこと。手数のかかること。心配。苦労。面倒。迷惑。
※書紀(720)垂仁八七年二月(北野本訓)「神庫(ほくら)高しと雖も、我能く神庫の為に梯(はし)を造(た)てむ。豈庫(ほくら)に登るに煩(ワツラヒ)あらむや」
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「わづらひなくて、ただうち遊びて明かし暮らせば」
② (累) 苦労の種となるもの。妻子縁者など面倒をみなければならない者、また、それによる連累係累
※石山寺本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「親の累(ワツラヒ)に縁りて断ぜらるるに」
末枯(1917)〈久保田万太郎〉「外に何の係累(ワヅラヒ)もなかった」
③ 病気。やまい。疾患。
※天草本伊曾保(1593)狼と狐の事「ゴザヲモ フジャウニ ナシタテマツラバ、イヨイヨ ヲ vazzuraino(ワヅライノ) モトトモ ナラウズ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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