物自体(読み)モノジタイ(その他表記)thing in itself 英語

デジタル大辞泉 「物自体」の意味・読み・例文・類語

もの‐じたい【物自体】

《〈ドイツDing an sichカント哲学で、感官を触発して表象を生じさせることによって、われわれに現れた限りでの対象現象)の認識を得させる起源となるが、それ自体不可知であるもの。現象の背後にある真実在。本体

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精選版 日本国語大辞典 「物自体」の意味・読み・例文・類語

もの‐じたい【物自体】

  1. 〘 名詞 〙 ( [ドイツ語] Ding an sich訳語 ) カント哲学で、われわれが経験的に知り得る現象としての物とは別に、それ自体としてあると考えられる物そのもの。これは我々の感官を触発して表象を生じさせるが、それ自体がどんなものであるかは不可知であるとされる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「物自体」の意味・わかりやすい解説

物自体
ものじたい
thing in itself 英語
Ding an sich ドイツ語
chose en soi フランス語

カントの用語。カントによれば、われわれの周辺に広がる世界は、従来思われてきたように物のあるがままに現れているものではなくて、感性の先天的形式(空間・時間)を通して外から与えられた物が、悟性の先天的形式(範疇(はんちゅう))によって総合的に構成されたものである。したがって、われわれのもっとも素朴な感覚与件でさえ、すでに空間・時間という主観の形式を経由したものであるから、われわれは感覚を刺激する外なるものをそのあるがままに認識することができない。それをカントは物自体とよぶ。のち『実践理性批判』においては、物自体の世界を自由の概念と結び付けて、現象界に対して叡智界(えいちかい)と名づけた。物自体概念は、カント哲学の要石(かなめいし)であると同時に、批判が集中した概念であり、その後のドイツ観念論の発展――フィヒテの自我概念に始まる絶対者概念の成熟――はそのままこの概念に対する批判的発展であったともいえる。

[武村泰男]

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百科事典マイペディア 「物自体」の意味・わかりやすい解説

物自体【ものじたい】

カントの用語〈Ding an sich〉の訳。〈本体〉と同義で,〈現象〉の対。カントは,現象は認識主観が経験に与えられた感覚内容を総合構成したものと考えたため,物自体は感覚の源泉として想定し得るが,認識し得ぬものとした。しかしその実践哲学では,物自体の世界は,このように単に理念の問題にとどまることなく,自由の可能性を保証するものとして要請された。カント以後この概念は種々の解釈と批判の対象となる。
→関連項目ショーペンハウアー

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「物自体」の意味・わかりやすい解説

物自体
ものじたい
Ding an sich; thing in itself

カント哲学の基本概念。「本体」とも訳される。「物」「現象」に対する語。カントによれば,現象は認識主観によって構成されるものであり,物自体ではない。物自体はむしろ現象の根源にあるもので不可知物であるが,思惟可能な仮定であり,カントはこれを現象の背後に仮定せざるをえない思惟の要請であるとした。また彼は実践哲学においても,自由の可能性を保証するものとして物自体の世界を実践理性の要請であるとした。カント以後,この物自体の概念をめぐって,ドイツ観念論,新カント学派,弁証法的唯物論の立場からさまざまな解釈や批判や展開が試みられた。

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世界大百科事典(旧版)内の物自体の言及

【もの(物)】より

…(6)ライプニッツのこの考え方はカントによっても受けつがれる。彼は人間の認識に与えられる物の〈現象Erscheinung〉と,その背後にある〈物自体Ding an sich〉とを区別するが,この物自体は意志つまりある種の力を本質とするものと考えられている。カントの思想を継承したショーペンハウアーは,物自体を明確に意志・意欲・生命力としてとらえている。…

※「物自体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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