カントの用語。カントによれば、われわれの周辺に広がる世界は、従来思われてきたように物のあるがままに現れているものではなくて、感性の先天的形式(空間・時間)を通して外から与えられた物が、悟性の先天的形式(範疇(はんちゅう))によって総合的に構成されたものである。したがって、われわれのもっとも素朴な感覚与件でさえ、すでに空間・時間という主観の形式を経由したものであるから、われわれは感覚を刺激する外なるものをそのあるがままに認識することができない。それをカントは物自体とよぶ。のち『実践理性批判』においては、物自体の世界を自由の概念と結び付けて、現象界に対して叡智界(えいちかい)と名づけた。物自体概念は、カント哲学の要石(かなめいし)であると同時に、批判が集中した概念であり、その後のドイツ観念論の発展――フィヒテの自我概念に始まる絶対者概念の成熟――はそのままこの概念に対する批判的発展であったともいえる。
[武村泰男]
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…(6)ライプニッツのこの考え方はカントによっても受けつがれる。彼は人間の認識に与えられる物の〈現象Erscheinung〉と,その背後にある〈物自体Ding an sich〉とを区別するが,この物自体は意志つまりある種の力を本質とするものと考えられている。カントの思想を継承したショーペンハウアーは,物自体を明確に意志・意欲・生命力としてとらえている。…
※「物自体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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