実践理性批判(読み)じっせんりせいひはん(その他表記)Kritik der praktischen Vernunft ドイツ語

精選版 日本国語大辞典 「実践理性批判」の意味・読み・例文・類語

じっせんりせいひはん【実践理性批判】

  1. ( 原題[ドイツ語] Kritik der praktischen Vernunft ) 哲学書カント著。一七八八年成立。道徳的善の原理としての「定言的命令」による意志自律に自由を求め、また、実践には魂の不滅と神の存在が不可欠であるとして、その要請を説いている。「純粋理性批判」「判断力批判」とともに三批判書といわれる。通称「第二批判」。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「実践理性批判」の意味・わかりやすい解説

実践理性批判
じっせんりせいひはん
Kritik der praktischen Vernunft ドイツ語

カントの主著の一つで、いわゆる「三批判書」の2番目にあたり、倫理、行為を論じたものである。『純粋理性批判』では対象認識に向かう理論理性が吟味されて、経験を超えた物自体を扱おうとする従来の独断的形而上(けいじじょう)学が否定された。意志を規定する実践理性を検討する本書では、不可知の物自体は道徳的行為のなされる場としての英知界であり、したがって新しい道徳形而上学が可能であることが示された。カントはここで、われわれは経験的要素に左右されずに義務にだけ基づいて行為すべきである、という厳粛で形式主義的な道徳を確立した。また道徳法則根底には自由があり、人間は自由で自律的な人格の共同体としての目的の国に属すること、徳と幸福とが一致するためには魂の不滅と神とが要請されねばならぬことなどが論究された。しかし現象界と英知界との厳しい二元的対立を統合する課題は『判断力批判』にゆだねられる。本書は道徳哲学の最高傑作の一つとして不滅の価値をもつものである。

[藤澤賢一郎]

『『実践理性批判』(波多野精一・宮本和吉訳・岩波文庫/豊川昇訳・角川文庫)』『深作守文訳『実践理性批判』(『カント全集 第7巻』所収・1965・理想社)』『樫山欽四郎訳「実践理性批判」(『世界の大思想 第11巻 カント』所収・1965・河出書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「実践理性批判」の意味・わかりやすい解説

実践理性批判
じっせんりせいひはん
Kritik der praktischen Vernunft

ドイツの哲学者カントの道徳哲学に関する主著。三批判書の一つで,第二批判ともいわれる。予備学『道徳形而上学の基礎づけ』 (1785) のあとに,1788年刊行された。第一批判 (理論理性の領域) では理性の諸理念 (霊魂の不滅,自由,神の存在) は消極的なものにとどまったが,実践の領域では理性の諸理念は道徳の対象となり,理性により積極的に要請される。本書は
から成り,原理論が本書の大半を占める。分析論では純粋理性による意志の決定の可能性が考察され,意志が実践 (道徳) 的原理に従うことが論証される。すなわち行為者の意志を規定する実践的原理は行為者の主観にのみ妥当する主観的原理すなわち格率にすぎず,したがって普遍的必然的に妥当する原理が考えられなければならず,それが道徳的法則である。道徳的法則は仮言的命法ではなく,絶対的に従うことを命令する定言的命法であり,それに従うときに意志の自律としての自由が成立するとされ,行為の道徳性は義務のためにのみ義務を果すことによってしか成立しないとされた。かくて道徳的法則は自由の認識根拠であり,自由は道徳的法則の存在根拠であり,弁証論では徳と幸福との一致としての最高善を目指す無限の前進のために,霊魂の不滅と自由と,道徳と幸福との一致を保証する神の存在が実践理性の要請の形で積極的に説かれるのである。

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旺文社世界史事典 三訂版 「実践理性批判」の解説

実践理性批判
じっせんりせいひはん
Kritik der praktischen Vernunft

ドイツの哲学者カントの三大批判書の第2書
1788年刊。主観的な観念論の立場に立って,人間の倫理と行為を論じた。『純粋理性批判』『判断力批判』とともに三大批判書と呼ばれ,カントの代表的な著作である。

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世界大百科事典(旧版)内の実践理性批判の言及

【カント】より

…81年,10年の沈黙ののちに主著《純粋理性批判》刊行。さらに,88年の《実践理性批判》,90年の《判断力批判》と三つの批判書が出そろい,いわゆる〈批判哲学〉の体系が完結を見る。ほかに主要著作として,《プロレゴメナ》(1783),《人倫の形而上学の基礎》(1785),《自然科学の形而上学的原理》(1786),《たんなる理性の限界内における宗教》(1793),《人倫の形而上学》(1797)などがある。…

※「実践理性批判」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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