改訂新版 世界大百科事典 「特別市」の意味・わかりやすい解説
特別市 (とくべつし)
大部分の国の地方制度は,二階層制を採用し,府県等の広域的自治体ないし国の行政区域の下に,基礎的な自治団体がおかれている。しかし,都市自治権の歴史的沿革や大都市であることの特異性を理由として,基礎的自治団体に行財政上の特例が設けられ,広域的自治団体に包括されないことがある。〈特別市〉とは,国によって一様でないが,通常は上記のような広域的自治団体なみの権限をもつ市をさして使われる。特別市の制度が一般化しているのは,ドイツ連邦共和国(旧,西ドイツ)である。この国は連邦制国家で州ごとに地方制度に差異があるが,概括すると,州政府-州政府管轄区Regierungspräsident-郡Kreis-自治団体Gemeindeとなっており,郡は州政府の下級官庁として国政事務を担っている。この行政系列下にあって特別市Kreisfreie Stadtは,一般市と異なり地域共同社会の自治事務に加えて,郡役所の処理する行政事務を処理しているばかりか,州政府から旅券,営業免訴,自動車免許などの許認可権を委任されている。また,郡への分担金を原則として負担しない。特別市はかつてプロイセンの人口2万人以上の市が,郡への分担金支払を拒否して自治権を宣言したことに始まるといわれるが,今日では各州の法律に規定される。1979年で91市を数えた。なお,ドイツ統一前の西ベルリンやハンブルク,ブレーメンの3都市は,自治都市Gemeindeであるが,州Staatとして連邦を構成しており,特別市ではない。同様に隣接するオーストリアにも8州の主権国家の下に15の特別市が存在し,それらは州の下級行政庁たる郡の権能をあわせもっている。また,首都ウィーンは州と自治都市の地位をあわせもつ。韓国ではソウル特別市と釜山・大邱・仁川・光州・大田・蔚山の6広域市(もとは直轄市)があり,かつては自治権をもたなかったが,1991年以降地方自治に移行している。
日本でも,明治末以来,東京,大阪,京都など5大市によって府県から独立した特別市の制定運動が展開された。第2次世界大戦後,地方自治法は府県と市の二重監督,二重行政の弊を排除するために,府県と同等の権限をもつ特別市を規定し,〈特別市は,都道府県の区域外とする。特別市は人口50万以上の市につき,法律でこれを指定する〉(265条)と定めた。しかし,府県側の反対にあって5大市を特別市に指定する法律は制定されず,地方自治法からも当該条項が1956年に削除され,代わって政令指定都市制度が法定された(252条の19,20)。政令指定都市は特別市の一種といえなくもないが,府県の区域内に存し,多くの行政分野において指揮監督を受けており,地方自治法が当初規定した特別市の趣旨からは,ほど遠い状態にある。なお,23特別区の存する区域における東京都制,大ロンドン議会Greater London Council(1986年廃止)の下のロンドン市とロンドン・バラが特別市との関連で大都市制度として論じられるが,これらは基礎自治体たる特別区ないしバラの自治権が強化される傾向にあり,二層制型自治制度の一種というべきである。
→政令指定都市
執筆者:新藤 宗幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報