特性X線(読み)トクセイエックスセン

デジタル大辞泉 「特性X線」の意味・読み・例文・類語

とくせい‐エックスせん【特性X線】

気体金属高エネルギー粒子を当てると、物質の構成原子の内殻電子がはねとばされて空所ができ、この空所に外殻電子がとび移るときに放出するX線。各原子固有の線スペクトルを示すことが多い。固有X線示性X線

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精選版 日本国語大辞典 「特性X線」の意味・読み・例文・類語

とくせい‐エックスせん【特性X線】

〘名〙 気体や金属に高エネルギーを当てると、物質の構成原子の内殻電子がはねとばされて空所ができ、その空所に外殻電子がとび移るときに放出するX線。〔電気工学ポケットブック(1928)〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「特性X線」の意味・わかりやすい解説

特性X線
とくせいえっくすせん

元素に固有な線スペクトルをもつX線で、固有X線ともいう。X線管などで高速の電子が陽極物質に衝突すると、特性X線と連続X線が放射される。特性X線は、物質内原子の内殻の電子が入射電子によりたたき出されてできた空孔に、外側の殻の電子が遷移して発生する。K殻に落ち込むときに放射されるX線の一群がK系列のスペクトルをつくる。同様にL系列、M系列などが続き、この順に波長が長くなる。L、M殻からK殻へ遷移するときはそれぞれKα線、Kβ線という。L、M殻などのエネルギー準位微細構造をもつので、スペクトルはさらに近接した線に分かれる。なおKα線の強度はスペクトル中でもっとも大きいので、X線回折の実験によく使われる。

 特性X線の振動数νは、その放射にかかわる準位間のエネルギー差ΔEとボーアの振動数条件hν=ΔEの関係がある。したがってKα線の波長λKαはK、L殻の電子の束縛エネルギーをWK、WLとすれば、hc=WK-WLで与えられる。またK系列のX線が放射されるためには、K殻の電子がたたき出されることが必要で、それに要する電子の最小の加速電圧VKはeVK=WKを満たし、励起電圧とよばれる。たとえば銅に対してはλ=1.54Å,VK=9.0kVである。特性X線のスペクトルは元素の原子番号に対して規則正しい関係(モーズリー法則)があり、同一系列の特性X線の波長は原子番号が大きくなるとともに短くなる。

 物質に電子のかわりにX線やイオンを照射してもX線が発生する。X線照射の場合、特性X線だけが得られ、とくに蛍光X線とよばれる。イオン照射の場合、イオンは電子に比べて重いため制動放射はおこりにくく、連続X線の成分は少なく、ほとんど特性X線だけが生ずる。

[菊田惺志]

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化学辞典 第2版 「特性X線」の解説

特性X線
トクセイエックスセン
characteristic X-rays

固有X線ともいう.加速電子を対陰極に当てて発生させたX線は,ある波長範囲にわたって連続的に分布した連続スペクトルと,対陰極物質の元素に固有の固有スペクトルとからなる.連続スペクトルは,高速電子が急激に対陰極によって阻止されたとき,そのエネルギーを電磁波エネルギーにかえる結果として現れる制動放射である.固有スペクトルは,加速電圧が対陰極物質の励起電圧を超えると現れる.これは各元素に特有の波長をもつ多数の線からなっているので,特性X線とよばれる.その波長は,対陰極物質の化合状態,管電圧,X線の発生方法によらない.また,物質をX線照射したときに出る二次X線中の特性X線は蛍光X線であり,これを用いて構成原子の分析を行うことができる([別用語参照]蛍光X線分析法).これらの特性X線をK,L,M,N,O系列に分ける.各元素の同系列に属する線の波長は,原子番号Zの2乗に逆比例し,モーズリーの法則に従う.その波数 は,

で表される.ここで,Rリュードベリ定数bしゃへい定数mnは整数である.特性X線の現れる機構はボーアの原子模型に従って説明される.つまり,どれかの準位にある電子が加速電子により原子の外に放出されると,その空位に,より高準位の電子が落ち込み,そのエネルギー準位の差に相当する特性X線が放出される.たとえば,K準位の空位にL準位の電子が遷移すれば Kα 線が出る.各系列の特性X線はさらに細分される.たとえば,Kα 線は二重線α1α2 からなる.L系列はK系列より複雑である.M系列は重元素に見いだされ,N系列はU,Th,Biに,またO系列はThに見いだされている.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「特性X線」の意味・わかりやすい解説

特性X線
とくせいエックスせん
characteristic X-ray

固有X線ともいう。X線を発する元素に特有な波長をもつX線。X線管から発生するX線は特性X線と連続X線とから成る。特性X線スペクトルには短波長側から順にK,L,M,…系列がある。各系列にはさらに α,β,… などの微細構造がある。銅では Kα1=0.154nm,Kβ2=0.138nm,Lα1=1.33nm,Lβ1=1.31nm である。特性X線の発生は原子スペクトルと同様で,高速電子の衝突によって原子の内殻電子 (エネルギー E1 ) が放出され,そこに外殻電子 (エネルギー E2 ) が落込むときに特性X線が生じる。その波長は hc/(E2E1) で与えられる ( h はプランク定数,c は光速度) 。

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