船首部の水面下にこぶのような球状の膨らみをもたせ、これを少し前方へ突き出した船首。球状に膨らんだ部分をバルブbulbといい、この船首をバルバスバウbulbous bowともいう。
船が進むときの水の抵抗には、船体と水との摩擦により生ずる摩擦抵抗と、波をつくることにより生ずる造波抵抗とがある。適当な大きさと形のバルブを選ぶと、バルブがつくる波と船首付近の船体がつくる波とが干渉して、その結果ほとんど波がたたないようにすることができる。船がつくる波は、船首波のほかに、船首から中央部にかけて船体が急に太くなる部分、中央部から船尾にかけて急にやせる部分、および船尾部分がつくる波がある。球状船首と船体形状をうまく設計すると、船首波のみならず、船体中央部から前方でおこる波全体が小さくなり造波抵抗をかなり少なくすることができる。この形の船首が船体の抵抗減少に効果があることは1920年(大正9)ごろから実験的に知られており、日本では戦艦大和(やまと)、武蔵(むさし)にも採用されていた。しかしこの作用が理論的に研究、解明されたのは第二次世界大戦後であり、日本では東京大学の乾崇夫(いぬいたかお)(1920―2012)が精力的に研究を進め、1961年(昭和36)、別府航路の客船くれない丸(2928総トン)に球状船首をつけて実験を行い、この船首が理論どおりに有効であることを実証した。以後、造波抵抗を減少させるための各種球状船首が研究、開発され、船の全抵抗のうち造波抵抗の占める割合が大きい高速船にこの船首が採用された。さらに、その後の研究により、造波抵抗の占める割合があまり大きくないタンカーやばら積貨物船にあっても、球状船首と船体形状を適切に設計すれば抵抗を減少させる効果があることがわかり、最近では球状船首が各種の船型に広く採用されるようになった。
[森田知治]
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…これは船体の各部から発生した波が干渉しあうためで,この干渉をうまく利用して波の山と谷とが重なるようにすれば,造波抵抗を低減させることができる。船首を球状にした球状船首(バルバスバウbulbous bow)は,船の起こす波と球の起こす波とを干渉させてこの効果を得るものであり,同様の働きをするものに船尾端バルブなどがある。船のつくる波は船から十分離れた位置ではケルビン波と呼ばれる線形分散波であるが,船の近くでは非線形な波であって,波崩れなども伴い,散逸的な特性ももっている。…
…その結果,造波抵抗と速度の関係は,4乗に比例する平均線のまわりに大きく変動する。この性質は船型設計上重要で,船首にバルブをつけて(球状船首という)船首波と逆位相の波を発生させることによる造波抵抗の低減が広く行われている。また最近では船の各部から発生する波を互いにうまく干渉させ,計画した速力において造波抵抗を極端に小さくさせる手法も確立されている。…
※「球状船首」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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