申込み承諾(読み)もうしこみしょうだく

改訂新版 世界大百科事典 「申込み承諾」の意味・わかりやすい解説

申込み・承諾 (もうしこみしょうだく)

申込みとは,相手方の承諾と合致して,特定の内容を有する契約成立させることを意図してなされる一方的かつ確定的な意思表示である。申込みに応じてこれと合して契約を成立させる意思表示を承諾という(なお,承認という語は,一定の事実の承認・同意を意味する場合もある--民法467条等)。

 申込みは特定人によってなされるが,申込者がだれであるか示す必要はない(例えば,自動販売機)。相手方は特定人でなくともよい(広告による申込み)。申込みは契約の内容を決定できるだけの事項を含むことを必要とするが,この事項は申込み自体の中に含まれている必要はなく,従来の取引関係その他諸般の事情から明らかになればよく,さらに一定の事項を相手方に決定させようとするものでもよい。申込みは相手方の承諾があれば契約が成立する確定した意思表示である点において,〈申込みの誘引〉と区別される。〈申込みの誘引〉は,相手方に申込みをさせようとする意思の通知であって,相手方がそれに応じて意思表示をしても(それが申込みとなる),まだ契約は成立せず,申込みの誘引をした者があらためて承諾をしてはじめて契約が成立する。両者の区別は実際上必ずしも明白でないが,その行為が契約の内容を明示していたか(明示していれば申込み,明示なきときは申込みの誘引。例えば,正札付きの商品の陳列は申込み),契約当事者がだれであってもよいか(当事者を重視するときは誘引。例えば,求人広告・貸家札は一般に申込みの誘引),その地方の取引慣習はどうかなどを基準に考えるべきである。

 申込みも意思表示の一つだから,特定人に対する申込みは相手方に到達したときから(97条1項),不特定人に対する申込みは不特定人に了知せられる状態におかれたときから効力が生ずる。ただし,申込者が申込みの発信後その到達前に死亡または能力を喪失したときは,申込者が反対の意思を表示するか,死亡・能力喪失という事実を相手方が知れば,申込みが到達しても,死亡の場合は効力を生ぜず,能力喪失の場合は無能力者の意思表示として取り消しうる(525条)。申込みの到達後にかつ承諾の発信前に申込者が死亡または能力喪失した場合には,民法525条は適用されず,意思表示の一般理論による。すなわち,この点につき申込者の特別の意思表示があるときはそれに従い,ないときは,申込みは到達によって効力を生ずるが,その後に申込者が死亡した場合は,申込みの内容が申込者の相続人において申込者たる地位を承継する性質のものかどうかで申込みの効力の存続の可否が決定される。申込到達時に相手方が無能力である場合は受領能力の問題となる(98条)。

申込みの到達によって,相手方が承諾すれば,契約を有効に成立せしめうる効力が生ずる。この効力を申込みの承諾適格(実質的効力)という。申込みの承諾適格の存続期間は,承諾をなしうる期間と同一であり,したがって承諾期間の定めのある申込みのときはその期間が承諾適格の存続期間であり,期間の定めのない申込みについては民法に規定がなく,取引慣行と信義則信義誠実の原則)に従い,相当期間の経過後は申込みは承諾適格を失うと一般に解されている(この点につき商法508条も同旨)。また,対話者間の申込みについては,ただちに承諾をしないかぎり,申込みの承諾適格は失われると解するのが一般的である(この点につき商法507条も同旨)。

 そして隔地者間における契約は一般に承諾の通知を発したときに効力を生ずる(民法526条1項)が,申込みで承諾期間を定めてあるときは,その期間内に承諾が到達しなければ契約は効力を生じない(521条2項。つまり,申込みに承諾適格がある間に承諾が到達しなければならない。ただし,522条参照)。

 なお,延着した承諾は,一般に申込者においてこれを新たな申込みとみなすことができる(523条)。また一度拒絶された申込みは承諾適格を失う。

 申込みの相手方が,申込みに条件を付すなど変更を加えて承諾した場合は,その申込みを拒絶して新たな申込みをしたものとみなされる(528条)。

申込みが相手方に到達すると申込者はかってに撤回できない(521条1項,524条)。申込者に生ずるこの効力を,申込みの拘束力(形式的効力)という。隔地者または対話者(意思表示が即時に到達する場合が対話者,そうでない場合が隔地者であり,距離的に離れていても電話でのときは対話者)に対する承諾期間の定めのある申込み(521条1項)と隔地者に対する承諾期間の定めのない申込み(524条)にかぎり拘束力がある。対話者に対する承諾期間の定めのない申込みは,特別の規定がないため拘束力がなく,申込者はいつでも撤回できる。隔地者に対する承諾期間の定めのない申込みは,申込みの撤回が許されない相当期間が経過した後に撤回すれば,申込みの効力は消滅するが(524条),この申込みの撤回は,相手方に到達してから効力が生ずるので(97条1項),承諾の発信前に相手方に到達する必要がある(ただし,527条2項参照)。

なお,AがBにある物を100万円で売ると申し込み,この申込みの受領前に偶然にBがAにその物を100万円で買うとの申込みをした場合のように,契約当事者が偶然に同一内容を有する申込みを相互にした場合を交叉申込みという。交叉申込みでは,申込みとそれに対する承諾という関係での二つの意思表示はないから契約の成立は認められないわけであるが,相互に相手方の承諾があれば契約を成立させようとする意思の合致が存在し,その内容においても合致していることから,契約の成立を認めてよいと解されている。ただし,この場合には2個の申込みがあるにすぎないから,契約成立の時期について,承諾による契約成立に関する規定の準用はなく,2個の申込みがどちらも相手方に到達したときに契約が成立する。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「申込み承諾」の意味・わかりやすい解説

申込み・承諾
もうしこみしょうだく

合意によって契約を成立させる意思表示のこと。契約は原則として申込みと承諾によって成立する。申込みおよび承諾の法律的性質は契約の成立に向けてなされる意思表示である。申込みに対して承諾があると契約が成立する。求人広告や店頭での客寄せなどは、客に申込みをさせるための申込みの誘引といわれ、申込みとは区別される。

 申込みはそれ自体で権利・義務の変動を生ずるものではないが、契約の申込みは自由に撤回できない(これを申込みの拘束力という)。承諾期間を定めた申込みはその期間内撤回ができない。承諾期間内に申込者が承諾の通知を受けなければ申込みは効力を失うが、延着した承諾の通知が、通常であれば承諾期間内に到達するように発送したと認められるときは、申込者は遅滞なく延着の通知を発しないと、承諾は延着しなかったとみなされて契約は成立する。隔地者間では承諾の通知を発したときに契約は成立する。変更を加えた承諾は申込みを拒絶し新たな申込みをしたものとみなされる(民法521条~528条)。

 申込みが拘束力をもつという原則に対する例外が、消費者保護等、民法の特別法に規定されているクーリング・オフ制度である。熟慮期間とか、冷却期間などと訳されている。セールスマンが突然家庭に訪ねてきたときなどは、購入者は必要な買い物かどうか、よい商品かどうかを判断する何の準備もないままに、割賦弁済や信販会社の立替払いなどで安易に購入してしまい、また、販売方法も往々にして攻撃的なことが多い。そこでこのような場合の消費者(購入者、購入の申込者)を保護するために、割賦販売や訪問販売などの場合に、一定期間内は無条件に申込みの撤回(および契約の解除)を認めることとした(割賦販売法35条の3の10、11、12、特定商取引法9条・24条・40条・48条・58条、宅地建物取引業法37条の2など)。たとえば割賦販売など多くは8日、連鎖販売取引、すなわちマルチ商法などでは20日。なお、訪問販売で通常必要とされる量を著しく超えた契約をしたときは、特別に必要な事情があったときを除いて1年としている。

[伊藤高義]

『内田貴著『民法Ⅱ 第2版 債権各論』(2007・東京大学出版会)』

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