発疹・皮膚色素沈着

内科学 第10版の解説

発疹・皮膚色素沈着(症候学)

視診の対象となる重要な皮疹とその定義を図2-2-1のフローチャートに示し下記に解説した.視診とは,たとえば赤い皮疹を,膨疹か紅斑か紫斑かを診断することであり,単に見たままに記載することではない.そのためには,皮疹を見るだけでなく,触り,押し,湿らせ,剝がし,ときに破ったりする必要がある.多くの場合,下記に説明する皮疹は重層して共存しており,すべての皮疹の有無を意識しないと見逃してしまう.さらに分布を含めた全体像から,炎症か腫瘍か,局所性・外因性か全身性・内因性かを考え,個疹の性状から,表皮性病変か真皮性病変かを考える(図2-2-2).皮疹は経過により異なる皮疹に変化するかもしれない.一見多彩にみえても,皮疹どうしの関係が理解できていれば,その連続性,同一性を認識できるだけでなく,重症度や病勢の正しい評価が可能となる(図2-2-3).
(1)数時間で消退するもの:膨疹(wheal)
 形はさまざまで,わずかに隆起することが多いが平坦なこともある.色は赤いことが多いが白いこともあり,つまり形態からは定義できない.かゆみのないこともある.ヒスタミンなどによる真皮の浮腫を表す.数時間で局所的には消失する.このとき,表皮や血管の破壊を伴わないので,色素沈着や鱗屑,紫斑など,その痕跡を残さない.
(2)平坦なもの:斑(macule)
 皮膚の色を構成する赤血球のヘモグロビン(赤色)と色素細胞が合成するメラニン(黒色)の2つの色素の増減による色調の変化として認識される平坦な皮疹.
a.紅斑(erythema)
 赤い斑.真皮に存在する血管は表皮下で血管網を形成し,そこから真皮乳頭に毛細血管が係蹄状にループを形成する.これらの血管が拡張し局所の血流が増加することにより境界明瞭な紅斑を形成する.この紅斑は,皮膚を上から圧することにより,血管内赤血球を圧排し消退させることができる.真皮脂肪織境界あたりにも血管網が存在し,ここの血流増加では,境界不明瞭な紅斑となる.上下2つの血管網の間には真皮内を垂直に走る穿通枝が均等に分布している.この血管に障害が起こると,表皮下血管網の血流がうっ滞し,網目状の紅斑が形成される.これをリベド(網状皮斑)とよぶ.水疱,膿疱の周囲を取り囲む紅斑は紅暈,血管がうっ血し肉眼的に線状にみえるときは毛細血管拡張という.浮腫を伴う浮腫性紅斑や,円形で中央に強い浮腫を伴い同心円状にみえる滲出性紅斑はわずかに隆起する.
b.紫斑(purpura)
 血管の外に漏出(出血)した赤血球によりできる斑.紫斑の色は時間とともにヘモグロビンの赤色から暗赤色,そしてヘモジデリンの黄色と変化して消退する.正常な血管から赤血球が管外に出ることはない.小さな紫斑である点状紫斑は血小板の異常や血管内圧の上昇で起こる.血管炎では炎症細胞浸潤のため触診で浸潤(硬さ)を触れる紫斑を形成する.大きな紫斑である斑状紫斑は皮下にある大きな血管の障害や凝固因子異常,真皮血管支持組織の脆弱化による広範な出血を表す.出血が貯留したものは血腫とよぶ.
c.色素斑(pigmentation)
 大部分がメラニン色素による色調の変化である.表皮内基底層に存在する色素細胞が合成したメラニンは,正常では基底層の角化細胞(基底細胞)に取り込まれる.メラニンによる色素増強は,メラニンの合成亢進,色素細胞の増殖,炎症後の真皮へのメラニンの滴落,真皮での色素細胞の増殖などが原因となる.メラニンの存在部位が深くなるほど境界が不明瞭となるのは紅斑と同様である.色調により黒色斑,褐色斑などとよぶ.深いものは境界が不明瞭となるだけでなく,やや青色調となる.境界がなくびまん性のものは色素沈着とよぶ.白斑・脱色素斑は,表皮メラノサイトの消失や減少,メラニンの合成障害を表す.
(3)隆起するもの
 正常皮膚面より隆起した皮疹として認識できるもので,内部に液体が存在するか充実性かでまず分ける.
a.水疱,血疱,膿疱
 液体が貯留する場合,液体の色により,透明な液体が入ったものは水疱(vesicle-bulla),赤色の液が入ったものは血疱(hemorrhagic bulla),白く濁る場合は膿疱(pustule)と区別する.基本的に表皮に存在する.表皮角化細胞の間の結合がはずれて,組織間液がたまり水疱ができる.裂隙の位置が浅く表皮顆粒層で起こると,有棘層でできた水疱に比べ壊れやすく,容易に次に示すびらんや痂皮となる.逆に表皮下にできた水疱は丈夫で緊満性水疱となる.水疱のなかに炎症細胞の浸潤が多いと液は濁り膿疱となる.好中球性膿疱は細菌感染を疑わせるが,膿疱症やBehçet病など無菌性膿疱を形成する疾患が存在することを忘れてはならない.水痘やヘルペスウイルス感染の水疱は,時間経過とともに膿疱となるが,浸潤細胞はリンパ球である.
b.丘疹,結節(papule,nodule)
 内容物が充実性である場合,大きさにより区別し,0.5 cm以下のものは丘疹,1 cm以上は結節とよぶ.0.5から1 cmまでの間はあいまいで,明確に規定することは実用的でない.むしろ具体的に大きさを表現することが重要である.炎症疾患では小さな丘疹を形成し多発することが多いが,腫瘍では単発で増大傾向のある大きな結節を形成することが多い.表皮由来の腫瘍では立ち上がりが急で境界が明瞭となり,表面の変化を伴う.
(4)付着するもの:鱗屑,痂皮(scale,crust)
 正常角化では,表皮顆粒層で角化した角層細胞は角層間脂質により強固にお互い接着し,体表を覆うバリア膜である角層を形成する.約2週間後,角層細胞間脂質は代謝され,角層細胞は煉瓦が崩れ落ちるように表層で細胞ひとつひとつが目にみえない大きさで脱落する.しかし,表皮内で何らかの異常が起こると,この正常な角化は障害され,その障害の程度,大きさに特異的な形で鱗屑を形成し,目にみえる大きさで付着,脱落する.鱗屑を剥離したその下には角層が存在するため,乾燥し空気を含み,光を白く乱反射してその下の観察を妨げる.その場合は酒精綿で湿らせると透明となる.一方,痂皮は,滲出液や血液が固まったものである.びらんでは角質細胞間を満たす透明な滲出液がしみ出し固まるので,透明感のある黄色調の塊が形成される.しかし,組織破壊が真皮に至り潰瘍が形成されると,出血や組織の壊死が起こり,黒色調の塊が形成される.つまり,透明な痂皮はびらんが,黒色調の痂皮は潰瘍がその下に存在する.また,点状もしくは円形の透明な痂皮やびらんはその前病変として水疱が存在した可能性がある(図2-2-3).
(5)陥凹するもの:びらん,潰瘍(erosion,ulcer)
 角層以下の欠損を表す.ただし,陥凹が肉眼的に認識できないほどわずかなときは湿潤した面として気づかれる.そのように欠損が浅く表皮内にとどまるものはびらん,欠損が真皮に達するものは潰瘍という.表皮内には血管は存在しないのでびらんでは出血を伴わない.どちらも角層が存在しないため,湿っているか,もしくは痂皮で覆われる.掻破によって形成される線状,または線状に並ぶ点状の血痂やびらん,ごく微細な潰瘍を掻破痕とよぶ.[村田 哲・大槻マミ太郎]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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