皮膚・軟部組織感染症

内科学 第10版 「皮膚・軟部組織感染症」の解説

皮膚・軟部組織感染症(臓器別感染症)

定義・概念
 表皮や真皮といった皮膚,毛包,皮下組織や筋膜,筋などの軟部組織に,Gram陽性球菌などの微生物が感染して生じる疾患.
分類
 感染の起こる部位や所見によって,分類されている.
原因・病因
 原因菌としては,ブドウ球菌,連鎖球菌などのGram陽性球菌が主である. 糖尿病足病変が感染を起こしたときにしばしば問題となるのは,慢性化した感染性の潰瘍を認める場合や,壊死した組織や悪臭を認める場合である.前者ではGram陽性球菌に加えて腸内細菌科による感染も起きている可能性がある.後者ではさらに嫌気性菌も原因の1つとなることもある.足部の感染と起因菌の関係を表4-2-2
にまとめた.
臨床症状(表4-2-2)
 発赤,圧痛,腫脹,熱感といった炎症徴候が認められるのが典型的である.発熱は,毛包炎,癤,癕では認められないのが一般的である.滲出液や膿が認められることもある.壊死性軟部組織感染症では,紫斑や壊死,血圧低下なども認められることがある(図4-2-2).
検査成績
 白血球数増加などの炎症反応がみられることが典型的である.滲出液や膿があればGram染色をすると細菌や白血球が認められることが多い.そして,培養ならびに薬剤感受性検査で菌種の同定や抗菌薬の感受性がわかる.難治性病変や重症感のある場合は,CTを施行すると膿瘍,ガス像,軟部組織の炎症の波及範囲などが観察でき,評価の一助となる.
鑑別診断
 鑑別疾患としては,ウイルス性疾患,静脈うっ滞,薬疹などがあげられる.
合併症・経過・予後
 病変が進行すると,膿瘍形成や骨髄炎の発症が認められる.また,壊死性軟部組織感染症の場合には,早急に外科的治療を行わなければ容易に多臓器不全をきたし死に至る.
治療
 表4-2-3にあげた起因菌やGram染色で認められた菌を参考に,想定する菌に効果のある抗菌薬を開始する(経験的治療empiric therapy).黄色ブドウ球菌と連鎖球菌に対しては,第1世代セフェム系薬がよく用いられる.Gram陰性桿菌を想定する場合,市中感染ではふつう緑膿菌までカバーする必要はなく,第3世代セフェム系薬のセフトリアキソン,嫌気性菌までカバーするならばアンピシリンスルバクタムなどを考慮する.それ以外では,緑膿菌などの耐性度の高いGram陰性桿菌をカバーするために第4世代セフェム系薬のセフェピムや嫌気性菌までカバーするピペラシリン・タゾバクタムなどを考慮する. 培養や薬剤感受性検査の結果が出たら,必要に応じて最適な抗菌薬へと変更する(最適治療defenitive therapy).
 大きな膿瘍,壊死,ガス像などが認められた場合には,抗菌薬という化学的な手段だけで起因菌を排除することは難しく,ドレナージ,デブリドマン,患肢の切断などを積極的に行い,物理的に起因菌ならびに感染巣を排除していくことが大切である.
予防
 糖尿病患者の場合には皮膚・軟部組織感染症の罹患リスクは高い.特に足病変には注意が必要となる.血糖コントロール,定期的なフットケア,禁煙などが予防として大切である.[松永直久]
■文献
Lipsky BA, Berendt AR, et al: Diagnosis and treatment of diabetic foot infections. Clin Infect Dis, 39: 885-910, 2004.
Stevens DL, Bisno AL, et al: Practice guidelines for the diagnosis and management of skin and soft-tissue infections. Clin Infect Dis, 41: 1373-1406, 2005 (errata: Clin Infect Dis, 41: 1830, 2005. Clin Infect Dis, 42: 1219, 2006).

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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