会社法が定める役員の一種。取締役らの職務執行を監視・検証し、必要に応じて改善を働きかけ、株主に監査結果を報告することが基本的な職務。大企業では設置が原則的に義務付けられている。担う役員は常勤か非常勤で、社内の人材のほか、別の企業の経営者や有識者が社外から就任するケースも多い。
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取締役(および会計参与)の職務執行を監査し、監査報告を作成する機関。原則として、業務監査および会計監査の権限を有する。
[福原紀彦 2017年12月12日]
1950年(昭和25)改正商法により、日本の株式会社では取締役会と監査役が必置機関とされ、以後、不祥事を防止して業務執行の適正を確保するために、監査役制度を中心に法改正が重ねられてきた。とりわけ平成期の商法(会社法)改正では、機関設計の柔軟化と取締役会の監督機能強化により、株式会社の監査にも多様な仕組みが用意されている。
現行会社法上、監査役を置く株式会社(その監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがあるものを除く)または会社法により監査役を置かなければならない株式会社を「監査役設置会社」という(会社法2条9号。以下の条文番号はすべて会社法をさす)。監査役会設置会社および会計監査人設置会社を除き、公開会社でない株式会社(非公開会社=全部株式譲渡制限会社)では、監査役の権限を、会計監査に限定する旨を定款で定めることができ(389条)、このような定めを置いた会社は、監査役を置いていたとしても、会社法上の「監査役設置会社」には該当しない(2条9号)。
業務監査権限を有する監査役または監査委員を置いていない会社では、次のような点で株主の監督権限が強化されている。
(1)取締役会の議事録閲覧につき裁判所の許可不要(371条2項)、
(2)取締役会の招集請求・招集・出席と意見陳述(367条1項・3項・4項)、
(3)定款規定による取締役(取締役会)による責任の免除の排除(426条1項)、
(4)取締役の報告義務(357条)、
(5)取締役の違法行為差止請求権の要件緩和(360条)。
株式会社は、定款の定めによって、監査役または監査役会を置くことができるとされるが(326条2項)、会計監査人設置会社は監査役を置かなければならず、また、取締役会設置会社では原則として監査役を置く必要がある。しかし、取締役会設置会社であっても非公開会社(会計監査人設置会社または監査役会設置会社を除く)では、会計参与を設置することにより監査役を設けないことも認められる。指名委員会等設置会社では、監査役を置くことはできない(327条2~4項)。会計監査人が設置されている場合には、監査役は、会計監査人から報告を受け(397条)、会計監査人の選任・報酬の決定などに関与し(340条、344条、399条)、会計監査人と連携して職務を執行することが予定されている(327条3項、389条1項)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
監査役は、原則として、取締役(および会計参与)の職務執行を監査する権限を有し、その権限は、会計監査を含む会社の業務全般の監査に及ぶ(381条1項)。その業務監査権限の範囲は、業務執行の適法性監査に限定され、取締役会のもつ妥当性監査にまでは及ばない(多数説)。ただし、不当と認められる業務執行に対しては、「著しく不当」として監査の対象となり得る(382条)。
監査役はその職務を執行するため、次のような種々の権限を有する。
(1)取締役・会計参与・支配人その他の使用人に対する事業報告徴収権および業務財産状況調査権(381条2項)、
(2)子会社に対する事業報告徴収権および業務財産状況調査権(381条3項)、
(3)取締役会への出席・意見陳述(383条1項本文)、
(4)取締役に違法行為がある場合の取締役(取締役会)への報告義務(382条)と取締役会招集請求権・招集権(383条2項・3項)、
(5)株主総会提出書類の調査・意見報告義務(384条)、
(6)取締役の違法行為差止請求権(385条)、
(7)会社と取締役間の訴訟における会社代表権(386条)、
(8)各種訴訟提起権(828条、831条)、
(9)各種手続開始申立権(511条、522条)。
特別取締役による取締役会(373条)の出席については、監査役の互選によって出席する監査役を定めてもよい(383条1項但書)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
監査役は、取締役と同様、自然人に限られ、一定の欠格事由が法定され、また、公開会社では定款による資格限定に制限がある(335条1項、331条1項・2項)。監査役は、株式会社・その子会社の取締役・執行役・支配人その他の使用人を兼務することができず(335条2項)、また、株式会社・その子会社の会計参与を兼務することができない(333条2項・3項1号、335条2項)。
弁護士資格を有する監査役が特定の訴訟事件につき会社の訴訟代理人になることは監査役の兼任禁止規定(2005年改正前商法276条)に反しないとした判例がある。
[福原紀彦 2017年12月12日]
設立時監査役の選任は、設立時取締役の選任と同様である。また、取締役の選任と同様に、監査役は、原則として、株主総会の決議によって選任され(329条1項)、株式譲渡制限会社では定款の定めにより種類株主の総会で選任できる(108条1項9号・2項9号、347条2項)。もっとも、取締役選任の際に認められる累積投票の制度はない。
監査役は、選任にあたり、株主総会で意見を述べることができる(345条4項・1項)。さらに、監査役の選任に関する議案が株主総会に提出される際には、監査役の過半数(監査役会)の同意が必要とされ、逆に監査役(監査役会)のほうから取締役に対して監査役選任議案の提出も認められている(343条1項・3項)。これらの選任議案への同意権や選任議題議案提案権等により、監査役の地位が強化されている。なお、監査役を置く旨と監査役の氏名、権限を会計監査に限定する場合には、その旨は登記事項である(911条3項)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結のときまでであり(336条1項)、非公開会社では、定款によって、その任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結のときまで伸長することができる(同条2項)。また、定款により、任期の満了前に退任した監査役の補欠として選任された監査役の任期を、退任した監査役の任期の満了するときまでとして、補欠監査役の任期を退任監査役の残任期間満了まで短縮することができる(同条3項)。
以上にかかわらず、次に掲げる定款の変更をした場合には、監査役の任期は、当該定款の変更の効力が生じたときに満了する。
(1)監査役を置く旨の定款の定めを廃止する定款変更、
(2)委員会を置く旨の定款変更、
(3)監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めを廃止する定款変更、
(4)株式譲渡制限会社である旨の定款の定めを廃止する定款変更(同条4項)。
このほか、委任契約の終了に伴う終任事由については、取締役と同様である。原則として、株主総会の特別決議によりいつでも監査役を解任できる(339条、309条2項7号)。補欠監査役等の選任については、補欠取締役と同様である(329条3項)。監査役は、解任・辞任につき、株主総会で意見を述べることができる(345条1項・4項)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
会社と監査役との関係は、委任に関する規定に従うので、監査役は、その職務を行うにあたって、会社に対して善管注意義務を負う。ただし、監査役は、取締役と異なり、会社の業務執行にあたらないので、忠実義務を負わず、競業避止義務や利益相反取引の事前規制には服さない。
監査役の報酬等については、定款または株主総会の決議で、取締役の報酬等とは別に定められる(387条)。監査役が2人以上いる場合、各監査役の報酬等について、定款・株主総会の決議で定められていなければ、定款・総会決議の範囲内で、監査役の協議によって定める(同条2項)。監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることもできる(同条3項)。また、職務執行に関する費用につき、特別の規定が置かれている(388条)。これらは、監査役の地位の独立性と職務執行の公正を確保するためである。
[福原紀彦 2017年12月12日]
監査役は、任務懈怠(けたい)により会社に対して責任を負い(423条1項)、職務の執行につき悪意または重過失があれば、第三者に対しても責任を負う(429条)。社外取締役に準じて、株主総会の決議または定款規定による取締役の過半数の同意(取締役会の決議)により、会社に対する責任の一部免除が認められ(425条、426条)、社外監査役については、責任限定契約も認められる(427条)。監査役の責任は、株主代表訴訟の対象になる(847条)。
[福原紀彦 2017年12月12日]
『鳥山恭一・福原紀彦・甘利公人・山本爲三郎・布井千博著『会社法』第2次改訂版(2015・学陽書房)』▽『江頭憲治郎著『株式会社法』第6版(2015・有斐閣)』▽『神田秀樹著『法律学講座双書 会社法』第19版(2017・弘文堂)』▽『福原紀彦著『企業法要綱3 企業組織法――会社法等』(2017・文眞堂)』
株式会社および有限会社において,会社の経営が適法に行われているかどうかを監視するために置かれる機関。ただし,有限会社ではこれを設けることは強制されない(有限会社法33条1項)。会社の各機関を国のそれに対応させ三権分立になぞらえると,監査役はさしずめ司法機関ということになる。株主みずから取締役の職務執行を常時監視することが不可能なため,株主に代わってそれを行う機関としてこの制度は出発した。しかし,監査役の要否を含め制度の内容は,国により時代により著しく異なる。監査役制度はおもにヨーロッパ大陸で発達したものである。イギリス,アメリカでは,取締役会が業務監査を行い,会計監査は外部の会計専門家に行わせ,とくに監査役という制度は発達させてこなかった。しかし最近は,アメリカでも取締役会内部に外部取締役で構成する監査委員会を設けるようになり,またイギリスもEC加盟に伴い事情が変わりつつある。ドイツの監査役会は取締役の選任・解任を含む広い権限をもつが,これは従業員の代表が株主の代表と同人数構成員となり,いわゆる経営参加の場となっている。
日本の監査役は,取締役の選任・解任の権限こそもたなかったが,業務・会計両面の監査を行う機関として出発した。1950年の商法改正により取締役会が制度化されると,業務監査はそちらにゆだねることとし,監査役の権限は会計監査だけに縮小された。しかし,取締役会の業務監査だけでは不十分なことが認識されるに至り,74年改正により,大株式会社・中株式会社の監査役には業務監査の権限も与えるとともに,監査役の独立性を強化するための措置が講じられた。81年および93年の改正はこの方向をさらに進めたが,資本金1億円以下の小株式会社および有限会社の監査役は,現在も会計監査の権限だけしかもたない(株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律(以下,商法特例法と略称)22,25条,有限会社法33条ノ2)。資本金5億円以上または負債総額200億円以上の大株式会社は,3人以上の監査役で構成する監査役会を置かねばならず,そのうち1人以上はいわゆる社外監査役でなければならないとともに,常勤監査役を互選する必要がある(商法特例法18条)。大会社には会計監査人が置かれるから,監査役会の監査報告書には,会計監査人の監査の方法または結果を相当でないと認めたときだけ,会計に関する監査意見を記載し,通常は主として業務監査に関する事項を記載する(14条)。上記以外の中株式会社の監査役は,監査報告書に業務・会計両面にわたる監査意見を必ず記載しなければならない(商法281条ノ3)。
これらのことを行うために,大会社および中会社の監査役は,取締役や使用人に営業の報告を求めたり,業務・財産状況を調査する権限をもつ(274条)。また,取締役会に出席して意見を述べることができるほか,取締役会が違法な行為をするときは,取締役会を招集したり,取締役の行為を差し止めることもできる(260条ノ3,275条ノ2)。会社と取締役の間の訴訟では監査役が会社を代表する(商法275条ノ4,商法特例法24条)。監査役を選任・解任する権限は株主総会または社員総会にある(商法280条1項,有限会社法34条1項等)。任期は原則として3年である(商法273条)。監査される立場の取締役や使用人,または子会社のそれらの者が,監査役を兼務することは許されない(商法276条,有限会社法34条1項)。
執筆者:龍田 節
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
(小山明宏 学習院大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 株式公開支援専門会社(株)イーコンサルタント株式公開用語辞典について 情報
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
… 会計監査は独立かつ公正な立場でなされなければならないから,会計記録に関与していない第三者によって行われなければならない。この第三者には企業内における第三者と企業外における第三者とがあり,前者には企業の内部監査課や監査役などがあり,後者には公認会計士と監査法人(5名以上の公認会計士によって共同で設立された法人。会計監査人は公認会計士・監査法人のいずれかでなければならない)がある。…
…50年の改正は,それまでドイツ法的な制度であった日本の株式会社制度を,占領軍司令部の要求もあって,アメリカ法的な制度に改め,企業資本の調達を機動的にするために授権資本制度および無額面株式制度をとり入れ,また,経営の技術革新に対応して所有と経営の分離を徹底化(株主総会の権限を限定)するとともに,それに伴う取締役会制度の導入および取締役の責任の強化を図ったものである。なお,その際,取締役の業務執行をコントロールする機関としてのヨーロッパ的な監査役制度は廃止され,以後監査役は単なる会計監査機関となった。取締役の業務執行についてのコントロールは,合議体の取締役会が業務執行を決定する過程で自律的に行うべきものとされたのである(自己監査制度)。…
…すなわち,48年に株金分割払込制度を廃止したのに続いて,50年にはアメリカの制度を広範にとり入れた大改正が行われた。それは,(1)授権資本制度等を採用することにより資金調達の便宜を図る,(2)株主総会の権限を縮小すると同時に取締役会制度・監査役制度を改正して会社運営機構を合理化する,(3)少数株主権の強化,取締役の責任の厳格化等により株主の地位の強化を図る,ことを主眼点とするものであった。その後の株式会社法の改正としては,62年の計算(企業会計)を中心とする商法改正,資本自由化を前にした66年の株式の譲渡制限・譲渡方法等に関する改正,粉飾決算にからむ大型倒産を機に監査役の地位強化と会計監査人制度の導入を柱とした74年改正等が行われたが,74年改正の直後から,会社法の全面的見直しおよび改正の作業が始まり,81年に改正が実現した。…
…株式会社および有限会社の業務執行(代表)機関の構成員。取締役と監査役を合わせて会社の役員と呼ぶことがあり(証券取引法5条1項など),俗にいう重役もこの両者をさすことが多い。株主や社員は数が多く,頻繁に会合することはできないうえ,経営の専門的知識も十分でないから,取締役に会社の経営をゆだねることが必要になる。…
※「監査役」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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