日本大百科全書(ニッポニカ) 「監査報告書」の意味・わかりやすい解説
監査報告書
かんさほうこくしょ
audit report
監査人(公認会計士または監査法人)が、実施した監査の対象、監査の概要、監査の結果についての意見を述べた書類。この報告書には、長文式監査報告書と短文式監査報告書があるが、一般投資家や株主に対しては、監査の概要や結論のみを記載した短文式監査報告書が用いられる。長文式監査報告書は、監査の過程で発見された問題点や改善点などを述べたもので、経営者に提出され、外部には公表されない。金融商品取引法および会社法における公認会計士監査においては、財務諸表の適正性に関する意見が表明される。この適正性についての総合意見には、無限定適正意見(なんら問題点なしとするもの)、限定付適正意見(一部問題点はあるが、全体としては適正とするもの)、不適正意見(著しく不適切なものがあり、財務諸表が全体として虚偽の表示にあたると判断するもの)がある。また、会計帳簿の不備などで監査が実施できなかった場合は、監査の概要にその旨を明らかにし、監査意見は表明できないとして、意見不表明となる。
なお、2002年(平成14)の監査基準の改訂で、継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)に重要な疑義を抱かせる事象や状況が存在し、それらの事象の解消や改善に重要な不確実性が残る場合には、その疑義にかかわる事項が財務諸表において適切に開示されているかどうかについて、監査意見において表明することになった。これは、投資家等にとって、企業が将来にわたって事業活動を継続するかどうかは重要な情報であり、バブル経済崩壊後、企業破綻(はたん)の事例が相次ぎ、監査人に対する社会の強い期待が生じてきたためである。
なお、これまでの監査報告書においては、財務諸表の適正性について監査結果のみが記載されていたが、監査において検討された項目についてはなんら記載がなかった。しかし、複雑化した企業経営においては、多くの企業で検討すべき項目はあるはずであり、また監査において検討した項目を記載することにより、監査における透明性を高め、監査報告書の情報伝達手段としての価値も向上させることになると考えられる。したがって、2018年に監査基準の改訂があり、2021年(令和3)3月期の上場会社からこれらの項目を監査報告書に記載することになった。記載すべき項目とは、「監査上の主要な検討事項」(Key Audit Matters:KAM)といい、財務諸表の監査において監査人が職業的専門家としてとくに重要であると判断した項目である。
[長谷川哲嘉・中村義人 2022年11月17日]
『蟹江章著『監査報告書の読み方』5訂版(2013・創成社)』