改訂新版 世界大百科事典 「目玉模様」の意味・わかりやすい解説
目玉模様 (めだまもよう)
eyespot pattern
眼状紋ともいう。フクロウチョウやクジャクチョウなどのチョウの仲間や,ヤママユガやクスサンなどのガの仲間,さらに魚類やイカやカエルなどさまざまな動物がもっている,脊椎動物の目によく似た模様。チョウやガは成虫だけでなく,幼虫にも目玉模様をもったものが多くいる。このような模様がなぜあるのか,古くから人々の関心が寄せられてきた。一般的には,これらの動物は,目玉模様をもっていることで,捕食者(主として鳥)から身を守っているのだと解釈されてきた。目玉模様の生物学的な意味を近代科学の実証的な方法で最初に明らかにしようとしたのは,ブレストA.D.Blestである。彼は広範な実験と観察データから,チョウやガのもつ目玉模様の生物学的意味について,〈大きな目玉模様には捕食者を驚かす効果があり,ジャノメチョウやチョウチョウウオなどの体の周辺にある小さな目玉模様には,そこに攻撃を向けさせ,致命的な部位から攻撃をそらさせる効果がある〉と考えた。城田は,直径2.5mmから2cmまで大きさを変えた目玉模様を1対つけたカイコを鳥に与え,目玉模様の大きさと防御効果の関係を調べた。また目玉模様をつけたカイコと,や△や□の模様をカイコにつけたものを同時に鳥に与え,どの模様が最も避けられるかも調べた。これらの結果から鳥は大きな目玉模様を避けることが判明し,ブレストの仮説の正しいことが検証された。さらにさまざまな品種のカイコをかけあわすことで,目玉模様をつくり出すことにも成功した。
チョウやガの翅の目玉模様が,発生学的にどのようにしてできるのかというモデルは,ナイハウトH.F.Nijhoutによって提出されており,カイコの目玉模様も彼のモデルで説明ができる。また目玉模様は捕食者から身を守るためだけのものではなく,オヤニラミ(淡水魚)のように攻撃性が高まれば目玉模様をくっきり表し,同種内の個体間で攻撃性の強弱を伝える手段として用いているものもある。目玉模様の起源と進化を現代の進化学説,すなわちネオ・ダーウィニズム的に説明すると次のようになる。最初,目玉模様をもっていなかった集団中に,突然変異で目にあまり似ていない〈目玉模様〉をもったものが出現した。その模様をもったことで,その個体が他の個体に比べ生存確率を高めることができ,目玉模様を支配している遺伝子が集団中にひろがった。選択の過程で最初あまり目に似ていなかった模様が,その効果を高めるために,しだいに脊椎動物の目に似るように進化してきたというものである。
目玉模様をムクドリやハトやカラスなどの鳥が恐れて避けることから,これを利用して鳥をある地域から駆除する試みもなされていて,巨大な目玉模様をバルーンにつけ,モモやブドウの果樹園に上げることで,非常に高い防鳥効果が得られている。
執筆者:城田 安幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報