日本大百科全書(ニッポニカ) 「オヤニラミ」の意味・わかりやすい解説
オヤニラミ
おやにらみ / 親睨
spotear brook perch
[学] Coreoperca kawamebari
硬骨魚綱スズキ目ケツギョ科に属する淡水魚。京都府桂川(かつらがわ)水系の保津(ほづ)川および由良(ゆら)川以西の本州、四国北東部、北九州および朝鮮半島南部の河川に分布する。和名は雄親が卵や子供を守る習性に由来する。体は長楕円(ちょうだえん)形で側扁(そくへん)する。口はすこし上向きで、大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の中央下に達する。上下両顎歯は絨毛(じゅうもう)状の歯帯で、犬歯を欠く。主鰓蓋骨(しゅさいがいこつ)の後端に2本の平たい棘(きょく)がある。体は大きな円鱗(えんりん)に覆われている。側線は鰓孔の上端から尾びれの基底中央部にかけて緩く湾曲する。背びれには深い欠刻(切れ込み)がない。腹びれは胸びれの基底下から始まる。尾びれの後端は丸い。体は緑色を帯びた黄褐色で、腹側でいくぶん淡い。吻端(ふんたん)から背びれ起部までの体の背面を顕著な白色帯が走る。体側には7~8本の黒紫色の横帯がある。また、目の周囲から約5本の黒褐色~朱色の放射帯が出る。鰓蓋の2棘の間に目と同大の金色の線で縁どられた濃青色の眼状斑(はん)があり、一見4個の目があるようにみえるので、ヨツメとよぶ地方もある。河川の中流または上流域の流れの緩やかな清流の砂底や砂礫(されき)底を好むが、まれに感潮域や汽水域でとれることがある。攻撃性が強いために群れをなさず、橋脚、石積み、流木、水生植物などの付近に1匹ずつすみ、昆虫類、エビ類、小魚などを食べるが、逆にナマズ、カムルチー、カワセミなどに捕食される。5~6月に水深1メートル以浅の水草を雄が口や腹面を使って清掃して、ひれや鰓蓋を広げて雌を誘い、1回に80個ほどの卵を2~3列に産みつける。雄は来訪する雌に次々に産卵させ、1卵塊は250~500粒からなる。沈性付着卵で、卵径は2.2~2.4ミリメートル。雄は胸びれを使って新鮮な水を送って卵を世話し、孵化(ふか)した仔魚(しぎょ)(全長5.2~5.8ミリメートル)を守る。この習性を利用して、コイ科のムギツクが托卵(たくらん)することが報告されている。普通は6~8センチメートルであるが、全長12センチメートルに達するものもいる。河川改修や外来種の侵入などによる生息環境の悪化によって生息数が減少したことから、環境省は絶滅危惧(きぐ)ⅠB類に指定している。また、徳島県桑野川では県の、島根県吉賀(よしか)川(高津川の上流部の名称)では鹿足(かのあし)郡吉賀町の天然記念物にしている。食用にはされないが、観賞用として飼育される。飼育魚や養殖魚が逃げ出して東京都、愛知県、岐阜県、滋賀県、奈良県、和歌山県、宮崎県などに定着している。
[片山正夫・尼岡邦夫 2020年12月11日]