直・治(読み)なおす

精選版 日本国語大辞典 「直・治」の意味・読み・例文・類語

なお・す なほす【直・治】

〘他サ五(四)〙 まっすぐにするの意から、正常な状態にする、もとにもどすなどの意を表わし、同じ動作を繰り返すことにもいう。
① 汚れ、よこしまなことをとり除いてただす。
※書紀(720)神代上(兼方本訓)「次に其の枉(まか)れるを矯(ナホサム)として」
② 人の性格などを改める。
※書紀(720)垂仁即位前(熱田本訓)「率性(ひととなり)真に任せて矯(ナヲシ)飾る所無し」
③ 間違った状態をただす。訂正する。修正する。また、添削する。
※観智院本三宝絵(984)下「経の文をたださしむれば口に誦して多くなをす」
④ 以前の状態にもどす。
(イ) 形をもとのように整える。つくろう。
※源氏(1001‐14頃)紅葉賀「詠はてて、袖うちなをし給へるに」
(ロ) 地位、身分などをもとにもどす。回復する。復帰させる。
※源氏(1001‐14頃)澪標「ものの報いありぬべく思しけるを、なをしたて給て、御心地すずしくなむ思しける」
(ハ) くずれた感情、気分をもとの状態にする。
※虎寛本狂言・鏡男(室町末‐近世初)「又機嫌を直いてうるはしい顔を見うと存る」
⑤ 物や人を適当な場所・位置におさめる。
(イ) 車や船の向き・進路を整える。
※源氏(1001‐14頃)鈴虫「人々の御車、次第のままに引きなをし」
(ロ) 器具、調度などを据える。置く。
※浮世草子・日本永代蔵(1688)四「おかしげなる藁人形を作りなして〈略〉松餝りの中になをして」
(ハ) 人をすわらせる。また、人をある地位にすえる。
※勝山記‐天文二一年(1552)「駿河義元の御息女様を甲州の晴信様の御息武田大郎殿様御前になをし被食候」
(ニ) 愛人、めかけ、後妻などを、本妻・正妻にする。
※雑俳・松の雨(1750か)「直されてより仏壇に向ひ初」
(ホ) 遊里や劇場などで、下等な場所から上等な場所に移る。
洒落本・禁現大福帳(1755)五「紅衣の寺へ橋本町から入院(ナヲシ)ても是ほどには有まじ
⑥ 具合の悪いところを繕って本来あるべき状態にする。
(イ) こわれたものを修繕する。
徒然草(1331頃)五一「とかくなほしけれども、終に廻らで、徒(いたづら)に立てりけり」
(ロ) (治) 病気やけがなどを治療して、もとの状態にもどす。
※蘇悉地羯羅経承保元年点(1074)下「体に瘢の跡無く由(ナヲシ)脹壊せ未」
(ハ) 取りなす。調停する。うまくつくろう。多く、他の動詞と複合して用いる。
※源氏(1001‐14頃)賢木「その罪にただ身づからあたり侍らむなど、聞えなをし給へど、殊に御気色もなほらず」
※平家(13C前)三「入道相国のさしも横紙を破(や)られつるも、この人のなをしなだめられつればこそ、世もおだしかりつれ」
⑦ 転換する。内容をほとんど改めずに、他の形式に変える。「カタカナの部分を漢字になおせ」「英語になおす」など。
⑧ 能の型で、相手役に向き、または横に向いた位置から、正面に向き直る。
浄瑠璃で、他の音曲から取り入れた節(謡・歌)を、本来の浄瑠璃節にもどしたり、二上りや三下りを本調子にもどす。正本の節章としては「ナヲス」と書く。また、「ノリ」や「コハリ」などの節を中止する節章としても用いる。
歌舞伎で、開幕前に拍子木を短い間で二つ打つ。これをきっかけに開幕の音楽が始まる。
⑪ 近世、遊里で一定の時間遊んだあと、さらに遊びの時間を延長する。
※洒落本・傾城買指南所(1778)「羽おりなりと男げいしゃ成と三四組もあげるがいいこれも、なおしてかう事だ」
⑫ 酒の燗(かん)をもう一度する。
※歌舞伎・宇都宮紅葉釣衾宇都宮釣天井)(1874)四幕「『燗が出来たら早く跡をくんなせえ』『〈略〉お温(ぬる)ければ直(ナホ)しませうわいな』」
⑬ 「切る」「むしる」の忌み詞
※叢書本謡曲・大木(1477頃)「此木を申しつけ直さばやと存じ候」
⑭ 近世、関西地方で、「しまう」ことをいう。
※洒落本・色深睡夢(1826)下「清さんから請取った五十両はなをしておゐて」
⑮ 船囲いのときや櫓を漕ぐときなど帆を使わない場合に、帆柱を倒して車立の上に横たえることをいう船方のことば
※廻船之図絵(18C後)「檣をねせるを なをすと云」
⑯ 動詞の連用形に付いて補助動詞的に用い、改めてその動作をする、再び注意を払って同じ動作を繰り返す意を添える。「しなおす」「見なおす」「書きなおす」「やりなおす」など。

なお・る なほる【直・治】

〘自ラ五(四)〙
① まっすぐになる。
※源氏(1001‐14頃)柏木「宮す所ゐざり出で給ふけはひすれば、やをらゐなおり給ひぬ」
② 間違った、また、不十分な状態が改まる。修正される。また、添削されてよくなる。
紫式部日記(1010頃か)消息文「そのならひなをりがたく」
③ 以前の状態にもどる。
(イ) 地位、身分などがもとにもどる。復帰する。
※源氏(1001‐14頃)宿木「ながらふればなほるやうもあるを、あぢきなくおぼししみけんこそ」
(ロ) 正常なさま、望ましい状態にもどる。
※石山寺本法華経玄賛平安中期点(950頃)六「宅の中に周匝して障有り。屈曲ともごよひて堪(ナホルコト)難し」
※源氏(1001‐14頃)帚木「今日は日の気色もなをれり」
(ハ) くずれた気分や感情がもとにもどる。
※くれの廿八日(1898)〈内田魯庵〉三「今日が日まで猶(ま)だ機嫌が復(ナホ)らんのは」
(ニ) 取引所で、相場が立ち直る。〔新時代用語辞典(1930)〕
(イ) すわるべき場所、または地位に着座する。位置を占める。位置を移る。
※虎明本狂言・横座(室町末‐近世初)「畜類なれども、くほうしゃの所にうまれたれば、上座になをる程に」
(ロ) 特に、定められた場所にきちんとすわる。正座する。
※源平盛衰記(14C前)三四「座席になをりて畏り」
(ハ) 主人のあとを継ぐ。また、めかけ、愛人などが本妻になる。
※そめちがへ(1897)〈森鴎外〉「中屋の家督に松太郎が直(ナホ)りし時」
⑤ 形式が変わる。
※和英語林集成(初版)(1867)「ニッポンノ コトバニ naoru(ナオル) カ」
⑥ (治) 具合の悪い所がよくなる。病気や怪我などが治癒する。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「心地よくなをり給なば参り給へかし」
⑦ 死ぬことをいう斎宮の忌み詞。
※延喜式(927)五「凡忌詞。〈略〉外七言、死称奈保留

なおり なほり【直・治】

〘名〙 (動詞「なおる(直)」の連用形の名詞化)
① (治) 病気などがなおること。なおったこと。回復。
※改正増補和英語林集成(1886)「Naori(ナオリ)ガ ハヤイ」
② 身分の高い人が来ること。「おなおり」の形で用いられる。
※歌舞伎・筑紫巷談浪白縫(黒田騒動)(1875)序幕「当寺へ肥前の国より尊き法師のお直(ナホ)りに」
③ 遊里・劇場・寄席などで、下等な店や席から上等なところへ移ること。
※洒落本・交代盤栄記(1754)「盛久〈略〉きん山とのの座敷へ御直りお手からお手から」
④ 鉱床のなかで、特に鉱石の多く含まれている部分をいう。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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