家庭医学館 の解説
ちょくちょうこうもんのしくみとはたらき【直腸、肛門のしくみとはたらき】
◎大腸のはたらき
◎肛門の構造とはたらき
◎排便のしくみ
◎直腸、肛門のおもな症状
◎便(べん)はどのようにつくられるか
大腸(だいちょう)は小腸(しょうちょう)から続いている臓器で、消化管の最後の部分に位置しており、小腸の外側を取り巻くように走っています。成人で約1.5mの長さがあります。
大腸は細かくみると盲腸(もうちょう)、結腸(けっちょう)、直腸(ちょくちょう)の3部分に分けることができ、結腸はさらに上行結腸(じょうこうけっちょう)、横行結腸(おうこうけっちょう)、下行結腸(かこうけっちょう)、S状結腸(エスじょうけっちょう)に分けられます(図「大腸の構造」)。
盲腸は右の下腹部にあります。よく「盲腸になった」といいますが、これは盲腸の下にある虫垂(ちゅうすい)が炎症をおこしたものです(虫垂炎)。
食物は、小腸で栄養分が吸収されるときには液状または流動物状ですが、盲腸と上行結腸でおもに水分が吸収され、少しずつかたくなってゆきます。また、大腸の中にいる細菌(腸内細菌(ちょうないさいきん))のはたらきでだんだん便らしくなり、かたさも増してゆき、横行結腸、下行結腸を経てS状結腸に達するころには、ふつうの便のかたさになります。S状結腸と直腸は便の貯蔵庫です。
大腸の運動は自律神経(じりつしんけい)によって制御されています。自律神経のなかの副交感神経(ふくこうかんしんけい)が活発にはたらくと大腸の運動がさかんになります。交感神経(こうかんしんけい)が活発にはたらく日中は、横行結腸、下行結腸に便はほとんどたまっていません。
大腸に便がたまっているかどうかは腹部のX線写真を撮ればわかります。ふだんから便秘がちの人や、S状結腸や直腸に病気があって腸が細くなってしまった人の場合は、横行結腸や下行結腸に便がみえることがあります。
直腸は結腸に比べるとやや太く、多くの便をためられるようになっています。とくに直腸膨大部(ちょくちょうぼうだいぶ)といって、直腸のなかでもさらに太くなった部分が便の貯蔵庫のはたらきをしています。直腸の末端部は肛門管へ続いています。
◎大腸のはたらき
大腸のおもなはたらきは、飲食物から水分を吸収して便を形成し、その便を貯留(ちょりゅう)、排泄(はいせつ)することです。
人間が1日に摂取(せっしゅ)する水分の量は約2ℓで、さらに消化管からもさまざまな消化液が分泌(ぶんぴつ)されます。しかし、この大部分は大腸で吸収されるため、便に含まれて排泄される水分は100mℓ程度です。
また、大腸には食物の繊維成分を分解したり、ミネラル類を吸収するはたらきもあります。このために重要な役割をはたしているのが腸内細菌です。
◎肛門の構造とはたらき
直腸から下方に続く部分は、ふつう肛門と呼ばれていますが、正確には肛門管(こうもんかん)といいます。たまった便を規則正しく体外へと送り出すという、非常にたいせつなはたらきをしています。
直腸と肛門管の境目は、粘膜(ねんまく)が歯のようにいりくんだ格好をしているため、歯状線(しじょうせん)と呼ばれています(図「肛門部の構造」)。
直腸は自律神経によって支配されているため、痛みを感じる神経はありません。そのため直腸になにか異常があっても、出血などがあるだけで、まったく痛みはありません。しかし、肛門管は皮膚の成分でできているため、痛みにはかなり敏感です。そのため、直腸側にできた内痔核(ないじかく)や腫瘍(しゅよう)ならば痛みがありませんが、肛門管にできた外痔核(がいじかく)や裂肛(れっこう)(切(き)れ痔(じ))、腫瘍には強い痛みがともなうことが多いのです。
肛門管は2種類の括約筋(かつやくきん)でその周囲を取り囲まれています。直腸の壁にある内輪筋が厚くなって肛門を取り囲んでいるものを内肛門括約筋(ないこうもんかつやくきん)といいます。この筋肉は意のままに動かせない不随意筋(ふずいいきん)(平滑筋(へいかつきん))で、自律神経によってその動きが調節されています。
一方、内肛門括約筋の外側を取り囲むようにある外肛門括約筋(がいこうもんかつやくきん)は、脊髄神経(せきずいしんけい)によって支配された随意筋(ずいいきん)(横紋筋(おうもんきん))で、自分の意思でしめたりゆるめたりすることができます。
内肛門括約筋は常に一定の緊張を保って肛門管を閉鎖(へいさ)しています。この筋肉のはたらきによって、ふだんまったく意識していなくても、便やガスがかってに外に漏(も)れてしまうことがないのです。しかし、ひどい下痢(げり)で便が水のようになったときは、肛門管をすり抜けてもれてしまうことがあります。
外肛門括約筋は、内肛門括約筋の緊張に打ち勝っておりてきた便を自分の意思でがまんするときに収縮します。
肛門括約筋の上には肛門挙筋(こうもんきょきん)という随意筋群があります。骨盤(こつばん)のいちばん底の部分にあるため、骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)と呼ばれています。肛門挙筋は肛門を固定したり、直腸を圧迫したりと、直腸肛門部を支持するはたらきをしています。
直腸と肛門の接合部にあたる歯状線には10~12個の肛門腺(こうもんせん)があります。この腺は粘液(ねんえき)を分泌するためのもので、粘液の出口を肛門陰窩(こうもんいんか)といいます。
直腸や肛門管は血管が非常に豊富な場所で、とくに歯状線のすぐ上には細い静脈が網の目のように走っており、静脈叢(じょうみゃくそう)をつくっています。
◎排便のしくみ
食事をとって4~6時間たつと、小腸で栄養分を吸収された食物は流動物状になって大腸に到達します。そして、大腸の中をゆっくりと移動する間にさらに水分が吸収されて適度なかたさになり、便の状態に近づいていきます。
この段階で胃に再び食物が入ってくると、横行結腸からS状結腸に強い蠕動運動(ぜんどううんどう)がおこり、便が直腸へ送られます。すると、直腸の内圧が高まり、直腸の壁にある知覚神経が刺激されて大脳に伝わります。これが便意(べんい)です。ただし、この状態ではまだ肛門括約筋は収縮を続けており、すぐに便が出ないように調節されています。
便意をおぼえてトイレに入り、いきむと腹圧が上がります。すると、まず内肛門括約筋が広がり、ついで自分の意思で動かすことができる外肛門括約筋がゆるみ、便が体外へと排出されます。これが排便のしくみです。
以上から、規則正しい排便のためにはきちんと食事をとることが重要であることがわかります。朝に排便がない場合、たまった便はずっと大腸に残ったままになり、直腸肛門の静脈がうっ血(けつ)(血液がたまること)をおこします。これが痔核(じかく)の原因になるのです。
このような状態が長く続くと、便からさらに水分が吸収されて便がかたくなってしまい、つぎに排便するときに肛門の粘膜を傷つけ、裂肛(れっこう)(切(き)れ痔(じ))を生じてしまいます。
いつも排便をがまんしていると、それが習慣になって、直腸に便がたまっても刺激が大脳に到達せず、便意を感じなくなり、さらに便秘が進みます。
したがって、規則正しい排便習慣をつけるには、まず食事をしっかり食べることです。そして便意を感じたら、あまり長時間がまんせず、トイレに行くことです。
◎直腸、肛門のおもな症状
大腸、直腸、肛門に異常がある場合、さまざまな症状が生じます。出血、痛み、便秘や下痢などの排便習慣の変化、肛門からの脱出がおもな症状です。
以下に、自分のからだにおきた異常の原因が何であるか、ある程度見当をつけられるように、症状からみた病気の種類を簡単に解説しておきますが、これらはあくまでも目安です。症状に気づいたら、自己判断にとどめず、大腸・肛門科を受診しましょう。
●出血
肛門部にまったく何の痛みもないのに出血することがあります。これは肛門ではなく、大腸の異常と考えてまちがいありません。
排便時に真っ赤な血が便器に落ちたりするのは、たいていは痔核からの出血です。出血が何度も続くと貧血(ひんけつ)の原因になります。ただし、潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)のように、肛門に近い直腸の粘膜に炎症がある場合も出血があります。
便に赤い血がまじっている場合は、大腸の病気と考えてよいといえます。原因としては、ポリープ、憩室(けいしつ)(大腸の壁が袋状に外側にふくらむ病気)、炎症、がんなどが考えられます。
以上のように、出血があった場合、たいていは痔であることが多いのですが、なかには重大な病気の症状である場合もあります。痔だろうと自己判断せず、必ず大腸・肛門科医の診察を受けましょう。
●痛み
肛門管は皮膚の成分でできているので、この部分に異常があると痛みが生じてきます。痔核が大きくなって肛門管まで押し寄せてきたり、外痔核ができたり、裂肛(れっこう)で肛門管が傷ついたりすると、排便のたびに肛門部が痛みます。
排便と関係なく肛門のわきが腫(は)れて痛む場合は、肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)が考えられます。ただし、肛門管にがんができたときにも痛むことがありますから、専門医による鑑別診断が必要です。
●排便習慣の変化(便秘と下痢)
痔核が大きくなって肛門をふさいだり、裂肛で肛門が狭くなると、便秘になります。排便時の痛みが強くてトイレに行くのを恐れると、さらにひどい便秘になるという悪循環が生じます。
また、大腸をふさぐような病気(ポリープ、がんなど)がある場合も、便が通りにくくなって便秘になることがあります。ひどくなると腸閉塞(ちょうへいそく)をおこしてしまうため、注意が必要です。
下痢は、腸に炎症があるため、さらにポリープやがんのために腸が細くなり、狭い部分を便が通過することでおこることがあります。
●肛門からの脱出
肛門から病変が飛び出す病気のうち、もっとも多いのは痔核です。トイレでいきむと痔核がうっ血し、排便とともに肛門の外に脱出するのです。排便後に元に戻るうちはよいのですが、ひどくなると嵌頓痔核(かんとんじかく)といって脱出したままになり、激しく痛みます。
また、直腸脱(ちょくちょうだつ)といって、直腸そのものが肛門から脱出する場合もあります。これは、直腸を支持する組織が弱いためにおこるといわれています。さらに、直腸や肛門のポリープや腫瘍が排便のたびに肛門の外へ飛び出すこともあります。
以上のように、直腸、肛門の病気の種類は多く、同じような症状でもまったくちがう病気であることも少なくありません。したがって、痔だと決めつけてしまうのはとても危険です。なにか肛門に異常を感じたら、恥ずかしがらずに、病院にいきましょう。
肛門の病気は、一般外科でもよいのですが、なるべく大腸・肛門の専門医を受診することをお勧めします。