安土桃山時代の盗賊の頭目。豊臣政権に反発する義賊というのは江戸時代の浄瑠璃や歌舞伎において粉飾された説で,《言経卿記》《豊臣秀吉譜》,アビラ・ヒロン《日本王国記》などによれば凶悪な窃盗である。1594年8月23日親子党類ともに京都三条河原で極刑に処された。出身地には諸説があり一定しないが,河内・丹後・伊賀などの説が有力のようである。
執筆者:岩沢 愿彦 石川五右衛門の実在は疑えないところであるが,〈義賊五右衛門〉の名と人間像が広く定着するにいたったについては,江戸時代の大衆芸能の影響が大きいとされる。浄瑠璃では元禄以前に早くも五段構成の《石川五右衛門》ができており,その後,歌舞伎や浄瑠璃には《釜淵双級巴(かまがふちふたつどもえ)》《金門五山桐》など〈五右衛門物〉と通称される,おびただしい作品群が形成されていった。これをもってしても,歌舞伎や浄瑠璃の舞台で五右衛門の人間像が育成された事実が了解されよう。歌舞伎・浄瑠璃における〈五右衛門物〉は,当初,史実として確認される釜煎りの刑を最終場面に据えて,お家騒動に巻き込まれ義賊に身をやつした五右衛門の苦心を描く構成を基本としたが,やがて歌舞伎の役柄でいう国崩し,つまり天下国家の転覆を狙うスケールの大きな悪人のキャラクターが与えられ,義賊という性格を越えて,より怪奇で魅力的な大盗賊へと変貌した。この場合,豊臣秀吉が五右衛門に対抗する役回りを演じることになるが,いわゆるひきたて役の域をでない。舞台では五右衛門の奇怪さを強調するため,〈からくり〉や〈ケレン〉を駆使した奔放な演出が施された。江戸時代の舞台芸能は,多彩な悪役を活躍させたのを特色とするとされるが,五右衛門という人物は,江戸時代の舞台芸能がそだてるにかっこうの悪役だったのであり,それゆえに精彩を放つ独特の人間像を確立しえたものといえる。
執筆者:守屋 毅
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(鶴見俊輔)
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生没年不詳。安土(あづち)桃山時代の大盗賊。その伝記は明確でないが、一説に遠州(静岡県)浜松の生まれで、初め真田(さなだ)八郎といい、1594年(文禄3)37歳のとき捕らえられ、京都・三条河原で一子とともに釜茹(かまゆで)の刑に処せられたという。盗賊ながら、この空前絶後の極刑に、太閤(たいこう)豊臣(とよとみ)秀吉の命をねらったという巷説(こうせつ)が付加されて有名となり、浄瑠璃(じょうるり)、歌舞伎(かぶき)脚本に数多く脚色され、一大系統になった。劇化の最初といわれるのは貞享(じょうきょう)(1684~1688)ごろ松本治太夫(じだゆう)の語った『石川五右衛門』で、浄瑠璃では近松門左衛門作『傾城吉岡染(けいせいよしおかぞめ)』(1712)、並木宗輔(そうすけ)作『釜淵双級巴(かまがふちふたつどもえ)』(1737)、並木正三作『石川五右衛門一代噺(ばなし)』(1767)、若竹笛躬(ふえみ)ら作『木下蔭狭間合戦(このしたかげはざまのかっせん)』(1789)、歌舞伎では並木五瓶(ごへい)作『金門五山桐(きんもんごさんのきり)』(1778)をはじめ、『艶競(はでくらべ)石川染』『けいせい稚児淵(ちごがふち)』などがおもな作品である。有名なのは「山門の五右衛門」で知られる『五山桐』で、これを女に書き替えたものに『けいせい浜真砂(はまのまさご)』がある。また『双級巴』と『狭間合戦』をつき混ぜ『増補(ぞうほ)双級巴』の外題で上演されることがある。明治以後も小説や戯曲に多く扱われている。
[松井俊諭]
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?~1594.8.23
織豊期の盗賊。1594年(文禄3)に京三条河原で極刑に処された。江戸時代になると歌舞伎や人形浄瑠璃の題材にとりあげられ,それらを通じて五右衛門の虚像が拡大・定着していった。一連の作品は五右衛門物と総称され,義賊あるいは天下国家を狙う大盗賊として描きだされた。代表的な作品に「金門五山桐(きんもんごさんのきり)」(1778初演)がある。
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…1737年(元文2)7月大坂豊竹座初演。大盗石川五右衛門を主人公とした松本治太夫の正本《石川五右衛門》(貞享ころか)や近松門左衛門作《傾城吉岡染》(1712)の先行諸作をふまえる。河内国枚方で鹿狩のそれ矢を拾った五右衛門は,その矢で傷ついたと称して乞食婆を母に仕立て,五十両をかたりとり,島原に遊ぶ。…
…1737年(元文2)7月大坂豊竹座初演。大盗石川五右衛門を主人公とした松本治太夫の正本《石川五右衛門》(貞享ころか)や近松門左衛門作《傾城吉岡染》(1712)の先行諸作をふまえる。河内国枚方で鹿狩のそれ矢を拾った五右衛門は,その矢で傷ついたと称して乞食婆を母に仕立て,五十両をかたりとり,島原に遊ぶ。…
…今日では《楼門五三桐》の名題で上演されることが多い。戦国時代の盗賊石川五右衛門を主人公とし,豊臣秀吉の朝鮮出兵を背景として描く。五右衛門の正体を,真柴久吉(秀吉のこと)に滅ぼされた竹地(明智のこと)光秀に養育された惟任左馬五郎とし,その左馬五郎がさらに久吉に恨みをもつ大明の宋蘇卿(そうそけい)の子であったという,18世紀中葉の大坂で流行した謀反人劇仕立ての構想をもつ。…
…悪党,海賊(衆),野武士などの武装集団による盗賊行為もしばしば見られた。近世初期の有名な盗賊石川五右衛門は文禄(1592‐96)のころ,三条河原で釜煎の刑に処せられたと記録されているが,その辞世の歌と称するものは後人の仮託である。 江戸時代にも,とくに幕藩体制の諸矛盾が深刻となる後半期には,農村から大都市へ流出する無宿の増加と並行して,盗犯の数が増大した。…
※「石川五右衛門」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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