人形浄瑠璃。時代物。10段。1789年(寛政1)2月大坂大西芝居初演。若竹笛躬(わかたけふえみ),近松余七,並木宗輔(千柳)の合作。余七は十返舎一九。太閤記物の一つ。実録小説《真書太閤記》や読本《絵本太閤記》などで知られた秀吉一代記のうち,今川義元の桶狭間(おけはざま)の戦を背景に,美濃の斎藤竜興の軍師竹中官兵衛(史実の半兵衛)と,小田春永(織田信長)の軍師此下当吉(このしたとうきち)(木下藤吉郎)との知略比べや,盗賊石川五右衛門の活動などを取り合わせたもの。日吉丸(のちに当吉)と友市(のちに五右衛門)の2人は,少年時代,犀が崖の来作(らいさく)という盗賊のもとで過ごした。十数年後,当吉は尾張の小田家に仕えた。小田方の左枝犬清(さえだいぬきよ)(前田犬千代)は,敵の竹中官兵衛の娘千里と契り,勘当を受けるが,これは官兵衛を味方につける計略だった。しかし,官兵衛の攻撃を受け,犬清は自害するが,当吉の知略で小田方の勝利となる。五右衛門が助けた義妹小冬は,あやまって父治右衛門に殺される。五右衛門は,大望を抱き足利館に乗りこむが,当吉に見破られる。五段目の〈来作住家〉,七段目の〈竹中砦(とりで)〉,九段目の〈壬生村〉などが知られている。同年9月から10月にかけ,大坂中山福蔵座(角の芝居)で歌舞伎に移された。江戸の初演は,遅れて1805年(文化2)9月の市村座。のちには,五右衛門の件だけ演じられることも多くなった。桶狭間の戦を扱ったものに河竹黙阿弥作《狭間軍記鳴海録(なるみのききがき)》がある。
執筆者:佐藤 彰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…《時代織室町錦繡》は8段物の技巧作で,81年2月初演。寛政・享和期(1789‐1804)に多く作られ,89年《木下蔭狭間合戦(このしたかげはざまがつせん)》,91年《彫刻左小刀》,93年《蝶花形名歌島台》,94年《唐錦艶書功(からにしきえんしよのいさおし)》《日本賢女鑑》,96年《鬼上宦漢土日記(おにしやがんもろこしにつき)》,99年《絵本太功記》《太功後編の旗颺(たいこうごにちのはたあげ)》,1801年《日吉丸稚桜(わかきのさくら)》など16作があり,この時期は太閤記物の最盛期であり,注目作の《木下蔭狭間合戦》と代表作の《絵本太功記》とで終始した。前者は桶狭間(おけはざま)の合戦を背景としたもので歌舞伎においてもくり返し上演された。…
※「木下蔭狭間合戦」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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