日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会解体」の意味・わかりやすい解説
社会解体
しゃかいかいたい
social disorganization
旧来の社会構造が崩壊することによって、その社会の成員にとっての行為の基準となる価値や規範が維持できなくなり、社会の統制が不可能になった状態のこと。ある地域社会や社会集団が十分に機能するためには、その社会の成員に対して統制力をもつ家族や共同体などの集団が安定している必要がある。しかし、社会構造の崩壊に伴ってこれらの集団が不安定化し、社会解体の状態になると、個人や家族の生活の破綻(はたん)、犯罪や非行の増加といった問題が発生することになる。
社会解体は、アメリカのシカゴ学派とよばれる都市社会学の学派によって、1920年代から多く用いられるようになった概念である。社会解体について論じた研究としてとくに有名なものは、W・I・トマスとF・ズナニエツキによる『ヨーロッパとアメリカにおけるポーランド農民』(1918~1920)と、ショウClifford R. Shaw(1895―1957)とマッケイHenry D. McKay(1899―1980)による『少年非行と都市地域』(1942)があげられる。社会解体の要因となる社会構造の変化として、トマスとズナニエツキは、産業構造の変動、都市化、社会移動をあげており、ショウとマッケイは、貧困、民族や人種の混住、住民の流動性の高さ、都市化などをあげている。いずれにしても、社会解体は、産業化、都市化、社会移動といった急激な社会構造の変化を背景として発生するものとされている。
なお、社会解体は、現在ではあまり用いられなくなっている概念である。しかし、現在の研究においても、貧困層を生む社会構造の説明や、コミュニティにおける犯罪や非行の発生を説明するための概念として、着実に継承されている。
[赤羽由起夫]
『徳岡秀雄著『社会病理を考える』(1997・世界思想社)』▽『宝月誠著『逸脱とコントロールの社会学――社会病理学を超えて』(2004・有斐閣)』▽『松下武志・米川茂信・宝月誠編著『社会病理学の基礎理論』(2004・学文社)』