神経筋疾患(読み)しんけいきんしっかん(その他表記)(Neuromuscular Disease)

家庭医学館 「神経筋疾患」の解説

しんけいきんしっかん【神経筋疾患 (Neuromuscular Disease)】

◎神経原性(しんけいげんせい)と筋原性(きんげんせい)がある
 脊髄せきずい)の前角(ぜんかく)に存在するα(アルファ運動ニューロン(運動神経)、神経筋接合部(運動終板(うんどうしゅうばん)=運動神経と筋肉のつなぎ目)、筋肉細胞のいずれかの障害によっておこった病気を、神経筋疾患といいます。このうち、神経の側が障害されておこった神経原性疾患を筋萎縮症(きんいしゅくしょう)、神経以外の部位が障害されておこった筋原性疾患をミオパチーといいます。
 筋力の低下や筋肉がやせるなど症状が同じで、みた目には、神経原性の筋萎縮症なのかミオパチーなのか区別できません。そこで神経筋疾患としてまとめられているのですが、この2つはまったくちがう病気です。
■筋萎縮症
 神経の障害がもとになっておこるので神経原性筋萎縮症(しんけいげんせいきんいしゅくしょう)(運動ニューロン疾患)ともいい、たくさんの病気がありますが、その代表は、筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)です。
■ミオパチー
 ミオは「筋肉」、パチーは「病気」という意味です。したがって筋肉疾患という意味で、ミオパシーとも呼びます。ミオパチーにも多くの病気がありますが、筋(きん)ジストロフィーが患者数も多く、代表的です。
◎症状は、筋力低下と筋萎縮
 筋力低下(筋肉の力が弱くなる)のために手足がまひして、手足に力が入らなくなり、だらんとします。これを弛緩性(しかんせい)まひといいます。
 また、筋肉がやせてきます。これを俗に「筋萎縮」と呼びますが、医学的には、神経原性筋萎縮症のために筋肉がやせた場合をさします。筋肉自体の原因で筋肉がやせてきた場合は筋原性萎縮といい、神経障害による筋萎縮とは区別しています。神経原性筋萎縮とミオパチーのどちらにも、合併症として、高頻度に呼吸不全がみられます。
心臓の場合
 心臓には運動神経がないので、神経原性筋萎縮症では、心臓に障害がおこることはありません。一方、心臓も筋肉でできているので、ミオパチーでは手足の筋肉と同様、心臓にも障害がおこり、心筋症から左心不全(さしんふぜん)になることもあります。
先天性の場合
 赤ちゃんは、泣く力や母乳を吸う力が弱く、フロッピーベビー(フロッピーインファント)となります。しかし、フロッピーベビーのすべてが神経筋疾患というわけではなく、大部分中枢神経(ちゅうすうしんけい)の病気です。
◎各種検査で確実な診断を
 神経筋疾患の診断には、つぎのような検査が欠かせません。
①CT検査
 障害されている筋肉の分布を知るために行なわれます。
②血液検査
 血液中のCK(クレアチンキナーゼ(「CK(クレアチンキナーゼ)〔CPK(クレアチンホスホキナーゼ)〕」))の値を調べます。値が基準値よりも高い場合は、神経原性筋萎縮症ではなく、ミオパチーの疑いが濃くなります。
③筋電図検査
 障害のある部位が神経なのか神経筋接合部なのか、あるいは筋肉なのかを鑑別します。
 ここまでの検査で障害部位を決定できますが、どのように障害されているのかが明らかにならなければ病気の診断はできません。そこでつぎの検査が行なわれます。
④筋生検(きんせいけん)
 ミオパチーであれば筋肉を、神経原性筋萎縮症であれば神経をそれぞれ微量採取して、顕微鏡でみて調べます。筋原性筋萎縮症の診断には、筋生検はどうしても必要な検査です。筋原性筋萎縮症の分類が、顕微鏡でみた筋肉の所見で確立されているからです。
⑤遺伝子検査
 最近、行なわれるようになってきました。
 どの病気か確実に診断できるだけではなく、まだ発症していない患者さんや、異常遺伝子を保有していても発病しない保因者(ほいんしゃ)をも見つけることができます。また、胎児診断(たいじしんだん)も可能になっています。
 しかし、このために患者さんや家族が社会的・経済的な不利益をこうむる恐れがあります。この点について、倫理的なコンセンサスがまだ得られていないため、医療の側も対応に苦慮しているのが現状です。
◎治療は今のところ対症療法
 多くの神経筋疾患の本態がわかってきて、治療が可能な病気も増えてきました。神経筋疾患の多くは遺伝性なので、遺伝子治療が実現すれば根本的治癒(ちゆ)も期待できます。現在は、対症療法(症状を和らげる治療)しか治療法がないのが実情です。
 神経筋疾患のケアは、高頻度におこる呼吸不全に対しての人工呼吸との格闘といっても過言ではありません。
 また、筋力を現在以上に弱らせないこともたいせつです。
 筋肉は、使いすぎると壊れますが、使わなくても弱ります。使わないために筋力が落ちるのを廃用性萎縮(はいようせいいしゅく)といいますが、廃用性萎縮が進む速度は回復する速度の2倍です。弱くなるのに要した時間に比べ、回復するのには倍の時間が必要となります。
 筋力が弱っていても、日常生活はなるべく自力で行ない、廃用性萎縮を防止し、リハビリテーションにも積極的に取り組むことがたいせつです。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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