筋萎縮性側索硬化症(読み)きんいしゅくせいそくさくこうかしょう(英語表記)amyotrophic lateral sclerosis; ALS

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

筋萎縮性側索硬化症
きんいしゅくせいそくさくこうかしょう
amyotrophic lateral sclerosis; ALS

進行性筋萎縮症の一型。運動神経ニューロンが上位と下位ともに広範囲にわたっておかされて変性(→細胞変性)し,その支配する筋肉萎縮を起こす病気で,原因は不明。50~60歳代の男性に多発し,指の筋肉の萎縮から始まって体幹に及ぶことが多く,末期には球麻痺を起こして発病後数年以内に死亡する。予後はきわめて悪く,治療対策も確立されていない。1869年フランスの神経学者ジャン=マルタン・シャルコーらが記載した。厚生労働省の定める指定難病の一つ。(→難病

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知恵蔵の解説

筋萎縮性側索硬化症

ALS」のページをご覧ください。

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

筋萎縮性側索硬化症

筋肉を動かす神経の障害で、全身の筋肉が少しずつ動かなくなる原因不明の難病。症状が進むにつれて呼吸や会話も困難になる一方知能聴力、内臓機能などは保たれる。厚生労働省や県によると、全国に約8500人、県内に約120人の患者がいるとされる。

(2012-11-30 朝日新聞 朝刊 山口全県 地域総合)

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デジタル大辞泉の解説

きんいしゅくせいそくさくこうか‐しょう〔キンヰシユクセイソクサクカウクワシヤウ〕【筋萎縮性側索硬化症】

神経線維が破壊されて筋肉が萎縮していく進行性の難病。特定疾患の一。脊髄や脳の運動神経が変性し脱落するために起こるとされるが、詳しい原因は不明。手足やのど・舌の筋肉が次第に弱まり、手が握れない、ものが飲み込みにくい、ろれつが回らないなどの症状がみられる。進行が速く、発症から2~5年で呼吸筋が麻痺し、自律呼吸ができなくなる場合が多い。眼球を動かす筋肉や知覚・感覚などに障害が及ぶことは少ない。ALSamyotrophic lateral sclerosis)。米国の野球選手ゲーリッグが罹患(りかん)したことから、ルーゲーリッグ病ともいう。

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百科事典マイペディアの解説

筋萎縮性側索硬化症【きんいしゅくせいそくさくこうかしょう】

筋肉を動かす運動神経細胞だけが死んでいくことによって,だんだんと身体を動かせなくなり,筋肉がやせて萎縮していく病気。厚生省指定の難病。1869年にフランスの神経科医J.M.シャルコーが発見した。英語でamyotrophic lateral sclerosisということから,ALSという略称で呼ばれる。 アメリカ大リーグのルー・ゲーリック選手(1903年−1941年)がこの病気で亡くなったため,ルー・ゲーリック病ともいう。世界的な宇宙物理学者で英国ケンブリッジ大学教授のホーキング博士も患者として知られている。 発症年齢は10代〜80代にわたるが,中年以降によくみられ,男女比は2対1で男性に多い。1年間に新たに発病する患者は10万人あたり1人程度で,全国に約5000人の患者がいる。 初期症状は手や指,脚などの筋萎縮から始まり,手足がやせて全身の筋力が低下する。病気の進行とともに,顔面,のど,舌の筋力が低下して言語障害を起こす。さらに呼吸筋がおとろえて呼吸困難になると,気管切開をして人工呼吸器を装着するため,話せなくなることがほとんど。食べ物をかんだり,飲み込む力も落ちて食事ができなくなると,鼻から胃まで管を通したり,腹壁から直接胃に管を入れて栄養をとる。 運動神経のみが侵され,感覚神経や自律神経系は障害を受けない。このため知能や意識は正常に働いているが,発症後3〜4年で死にいたる例が多い。 ただし病状の進行によっては,さまざまな器具を活用して生きる道も広がっている。ホーキング博士はオックスフォード大学3年のときに発病したが,頭や目の動きで文字入力して音声化もできるパソコンを使い,数多くの論文執筆や講演を行ってきた。 はっきりした病因がわからないため,根治治療法はないが,1993年に米マサチューセッツ総合病院のブラウン博士らは,家族性ALSの一部の家系で原因遺伝子をつきとめた。活性酸素から身体を守るSOD1(Cu/Zn superoxide dismutase)という酵素をつくる遺伝子がそれで,この異常によって神経細胞が変性する可能性があるが,詳しいメカニズムはまだわかっていない。 また,興奮性アミノ酸であるグルタミン酸の作用によって運動神経細胞が変性するという説もある。このため,グルタミン酸を抑制するリルゾールが最初の治療薬として登場したが,3ヵ月ほどの延命効果があるにとどまっている。→筋萎縮症進行性筋萎縮症
→関連項目希少疾病用医薬品

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大辞林 第三版の解説

きんいしゅくせいそくさくこうかしょう【筋萎縮性側索硬化症】

筋肉が次第に萎縮し、不随意な攣縮れんしゆくが起こる疾患。脊髄中にある運動神経繊維の進行性変性によるが、原因は不明。 ALS 。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

筋萎縮性側索硬化症
きんいしゅくせいそくさくこうかしょう

筋肉の随意運動に関係する神経系統が選択的に冒される原因不明の変性疾患で、特定疾患(難病)の一つに指定されている。病名の欧文表記であるAmyotrophic Lateral Sclerosisの頭文字をとってALSと略称される。1869年フランスの神経学者J・M・シャルコーらにより初めて記載された疾患。運動ニューロン疾患(MND)の代表的なもので、上位運動ニューロン(錐体路(すいたいろ)や皮質延髄路)と下位運動ニューロン(脊髄(せきずい)前角細胞や脳幹の運動神経核)がともに障害される。おもに40~60歳代に発症し、2対1の割合で男性に多く、罹患(りかん)率は人口10万につき1.4とされている。一般に地域および人種間で罹患率に著しい差はないが、日本では紀伊半島に多発する地域がある。また、この亜型とみられる疾患がグアム島のチャモロ人に高頻度にみられた。
 主要な症状は筋肉の萎縮と筋力低下で、四肢とくに片方の手の小さい筋肉に始まることが多く、しだいに全身に進行する。四肢や体部の筋肉がぴくぴく収縮(線維束性れん縮)し、患者は自分で感じたり見たりすることもあるが、多くは指摘されるまで気づかない。また、痙性麻痺(けいせいまひ)が通常下肢に現れ、歩行が困難となる。末期には舌も萎縮し、舌の線維束性れん縮が現れ、舌の筋肉が絶えずミノムシの袋のように動き、言語障害や嚥下(えんげ)障害(球麻痺症状)も現れる。ときにはこのような球麻痺症状で発症することもある。
 この病気はつねに進行性で、呼吸筋の麻痺や肺炎などで3~5年で死亡することが多いが、10年以上生存する例もある。特別な治療法はまだないが、ALSの進行を遅らせる治療薬が開発されている。[海老原進一郎]

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内科学 第10版の解説

筋萎縮性側索硬化症(運動ニューロン疾患)

(1)筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)
定義・概念
 筋萎縮性側索硬化症は,上位運動ニューロンおよび下位運動ニューロンの両者がほぼ選択的に障害され,全身の筋萎縮,筋力低下を進行性にきたす神経変性疾患である.おもに中年以降に発症し,平均3年ほどの経過で死亡もしくは永続的な人工換気導入に至る.約90%以上が孤発性で,一部の患者は家族歴を有する.
原因・病因
 孤発性ALSについて,現在のところ確定的な病因は判明していない.想定される病因としてグルタミン酸による興奮毒性,ミトコンドリア異常,軸索輸送障害,酸化ストレス,細胞骨格異常,神経栄養因子異常などがあげられている.5~10%で家族歴があり,SOD1,FUS,TDP-43,C9ORF72,optineurin,UBQLN2などの原因遺伝子が同定されている.
疫学
 ALSの有病率は人口10万人あたり1.6~8.5人,発生率は人口10万人あたり0.6~2.6人/年と報告されており,世界各地でほぼ一定であると考えられている.ただしグアム島,日本の紀伊半島南部などに発症率の高い地域がある.男女比は約3:2で男性が多い.発症は成人の全年齢層で可能性があるが,40歳未満はまれであり60歳代から70歳代が最も多く,60歳代後半に発症のピークがある.
病理
 大脳皮質では運動野第5層のBetz細胞および大型錐体細胞の変性脱落,脳幹では眼筋支配以外の脳幹運動神経核の変性脱落,脊髄では側索と前索の錐体路に線維脱落(図15-6-33)とグリオーシス,前角の扁平化と大型前角細胞の変性・脱落を認める.残存する前角細胞に,胞体内のエオジン好性封入体であるBunina小体(図15-6-34)やskein-like inclusionなど種々の形態のユビキチン陽性封入体を認め,ALSに特徴的である.抗TDP-43抗体での免疫組織染色では,通常,核に認められる染色が認められず,細胞質の封入体が染まることが特徴(図15-6-35)である.前頭側頭葉変性症の一部でも大脳に幅広く特徴的なTDP-43陽性封入体を認め,ほかにもFUSなど,共通に関連する分子が見いだされていることから,ALSと前頭側頭葉変性症の一部は病態を共有している可能性が指摘されている.
臨床症状・所見
 進行性の上位運動ニューロン変性による症状・所見として,全身の腱反射亢進,痙縮,Babinski徴候,Chaddock反射,強制泣き・笑いなどを認める.下位運動ニューロン変性の症状・所見として,四肢・体幹の筋萎縮,筋力低下,構音障害・嚥下障害などの球症状,舌萎縮,呼吸筋力低下,全身の骨格筋の線維束性収縮(fasciculation)をきたす(図15-6-36).下位運動ニューロン症候が相対的に強い場合には痙縮は目立たず,腱反射はむしろ低下する.全身の筋萎縮の進行に伴い,体重減少が目立つ.初発症状,主症状によって球麻痺型,上肢型(普通型),下肢型(偽多発神経炎型)などに病型分類されることがある.その他呼吸筋麻痺が初発症状としてみられる例や首下がり症状で発症する例がある.高齢発症例では球麻痺型の割合が高くなる.
 眼球運動障害,感覚障害,膀胱直腸障害はALSでは通常認めないため,診断において重要である.また褥瘡は生じにくく,合わせて4大陰性症状とされることがある.しかし人工呼吸器を装着した例など長期経過例において,これらがまれならず認められることが経験されるようになった.従来,認知機能障害は認めないとされてきたが,前頭側頭葉変性症の合併が一部にあることがわかってきた.認知機能低下は筋力低下に先行する場合と,後から顕在化する場合がある.
検査成績
 針筋電図では高振幅電位(high amplitude potential),多相性電位(polyphasic potential),線維束性収縮電位(fasciculation potential),陽性鋭波(positive sharp wave)など慢性および進行性脱神経所見を認める.これらは下位運動ニューロン変性を反映し,診断において重要である.所見は萎縮筋のみならず,萎縮の明確でない筋でも認められることがある.髄液検査は多くの場合正常であるが,蛋白は上昇することがある.血清クレアチンキナーゼ(CK)は一部の例で上昇がみられる.磁気刺激装置による運動誘発電位(MEP)を用いて測定した中枢運動神経伝導時間(CMCT)の延長を認める場合がある.
診断・鑑別診断
 診断には十分な病歴聴取と診察により,上位運動ニューロン症候および下位運動ニューロン症候を認め,症状が進行性であり,他疾患の除外ができることが必要である.検査所見としては針筋電図所見が特に重要である.ALSと鑑別を要する疾患は,頸椎症,後縦靱帯骨化症,多発限局性運動性末梢神経炎(multifocal motor neuropathy:MMN),単クローン性高ガンマグロブリン血症(monoclonal gammopathy),リンパ腫など悪性腫瘍に伴う運動ニューロン障害,多発性筋炎,封入体筋炎,ヘキソサミニダーゼ欠損症,球脊髄性筋萎縮症,甲状腺機能亢進症,脳幹・脊髄などの腫瘍,脊髄空洞症,若年性一側上肢筋萎縮症(平山病),ポストポリオ症候群,糖尿病性筋萎縮症などがあげられる.
経過・予後
 症状は常に進行性であり,人工換気を行わない場合,発症から死亡までの期間は平均3~4年程度である.死因は呼吸筋力低下による換気不全や嚥下性肺炎が多い.進行速度,進展様式は患者ごとのばらつきがかなりある.人工呼吸器装着により,長期生存が可能となる場合がある.呼吸器装着後にALSの進行により,眼球運動を含め全身が動かなくなる状態(totally locked-in state)になる例もある一方で,コンピューター機器などを用いたコミュニケーションを維持し,社会とのかかわりを保ち続ける患者もいる.
治療
 治療薬としては唯一グルタミン酸拮抗薬であるリルゾールが承認されており,3カ月程度ALS患者の生存期間を延長する効果が認められている.嚥下障害による栄養障害に対しては,嚥下訓練,指導,胃瘻などによる経管栄養などの方法で積極的な対応を行う.球麻痺,上肢機能障害の進行により意思表出困難となるので,コンピューター,文字盤などを用いたコミュニケーション支援機器の導入を行う.呼吸筋麻痺症状に対して非侵襲的陽圧換気(non-invasive positive pressure ventilation:NPPV),気管切開,人工呼吸器装着の導入を考慮する.ただし,侵襲的な処置を行うにあたっては十分なインフォームドコンセントが重要であり,特に気管切開は実施の選択をしない患者も多く存在する.[祖父江 元]
■文献
Andersen PM, Abrahams S, et al: EFNS guidelines on the Clinical Management of Amyotrophic Lateral Sclerosis (MALS)-revised report of an EFNS task force. Eur J Neurol, 19: 360-375, 2012.
日本神経学会治療ガイドラインAd Hoc委員会:ALS治療ガイドライン2002.臨床神経学,42: 669-719, 2002.

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世界大百科事典内の筋萎縮性側索硬化症の言及

【運動ニューロン疾患】より

…随意運動を営む骨格筋を支配する脊髄前角および脳幹の脳神経運動核の下位運動ニューロンと大脳皮質運動野からこれらのニューロンに支配を及ぼす皮質脊髄路(錐体路)や皮質核路の起始をなす上位運動ニューロン(ベッツ巨大錐体細胞)が選択的に変性され,しだいにその数を減じていく原因不明の疾患の総称。この中には種々の異なった疾患が含まれるが,そのうち頻度の高いものは筋萎縮性側索硬化症と脊髄性進行性筋萎縮症である。
[筋萎縮性側索硬化症amyotrophic lateral sclerosis(ALS)]
 難病の一つ。…

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