私度(読み)シド

デジタル大辞泉 「私度」の意味・読み・例文・類語

し‐ど【私度】

古代官許を得ないで、得度して僧尼となること。自度。「私度僧」

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精選版 日本国語大辞典 「私度」の意味・読み・例文・類語

し‐ど【私度】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 仏語。公(おおやけ)許可度縁)を得ないで、ひそかに僧尼となること。自度。
    1. [初出の実例]「凡有私度。及冒名相代。并已判還俗」(出典令義解(718)僧尼)
  3. 令制で、過所(通行証)を持たないで関所を通ること。
    1. [初出の実例]「謂、无過所関門私度、止徒一年」(出典:律(718)衛禁)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「私度」の意味・わかりやすい解説

私度
しど

古代の法制用語。政府の許可を得ずに私的に人を得度(とくど)させる行為。対して、政府が人を得度させる行為は官度という。大宝律や養老律では、戸婚律私入道(ここんりつしにゅうどう)私度条で私度は禁じられ、私的に人を入道あるいは得度させた者に対しては、「杖(棒でたたく刑罰)一百」を科すと定められていた。これは唐の戸婚律の規定をそのまま継受したものである。私度によって僧となった者は、しばしば私度僧と呼ばれた。これまで、日本古代では私度僧は課役(かやく)を不正に逃れる者として厳しく取り締まられたと説かれてきた。しかし近年研究によれば、私度が実際に取り締まられた実例はなく、杖一百に処された者は1名も確認できない。その反対に、政府に禁圧されなかった私度、褒章を受けた私度、私度として公文書に署名した者が確認でき、追加法を見ても、私度は実際には容認されていたと考えられる。なお課役が免除されるのは官度で、私度は免除されない。空海・景戒(きょうかい)・円澄(えんちょう)などは最初私度として活動し、のち官度に転じた。

[吉田一彦]

『諸戸立雄著『中国仏教制度史の研究』(1990・平河出版社)』『吉田一彦著『日本古代社会と仏教』(1995・吉川弘文館)』『佐藤文子著「古代の得度に関する基本概念の再検討―官度・私度・自度を中心に―」(『日本仏教綜合研究』8・2010)』

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旺文社日本史事典 三訂版 「私度」の解説

私度
しど

政府の許可を得ず僧になること
律令では僧尼になるのに政府の許可を要し,私度を禁止したが,僧になると公民負担を免れるので,奈良時代になると勝手に僧になる者が現れた。これを私度僧という。

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世界大百科事典(旧版)内の私度の言及

【越度】より

…〈おちど〉ともいい,江戸時代には〈落度〉とも書いた。(1)律令用語としては,養老律の衛禁律(えごんりつ)に定められた関津以外の,通行禁止の場所を通過するのを越度といい,越度には私度(通行証なしに関津を通る)の罪に一等を加えるという規定があり,また越度未遂の罪,馬牛を率いて越度する罪なども定められた。(2)中世以降,過失犯の意となり,また転じて広く法律違反,有罪の意ともなったが,通じて量刑を明示しないで罪過を規定する場合に用いられたようである。…

【過所】より

…関においては通過者の過所が正しいものか否かを調べて,浮浪逃亡等の不法な交通を取り締まった。衛禁律によれば過所無しで関を越えた者は〈私度〉,他人の名をかたり,あるいは他人の過所を借りて関を越えた者は〈冒度〉の罪に問われた。715年(霊亀1)5月過所には発給国の国印をおすことが命じられ,過所は紙であることが必要となったが,これ以前,すなわち大宝令においては便宜的に竹木が用いられた。…

【私度僧】より

…剃髪・出家して仏道を修行し(入道),僧尼となることを得度(とくど)というが,律令時代には国家による一定の手続を要する許可制がとられていた。官の許可をえて得度したものを官度僧というのに対して,官の許可をえず私的に得度したものを私度僧という。〈戸婚律(ここんりつ)〉に〈私に入道し及び之を度する者は,杖(じよう)一百〉と私度を厳罰し,また〈僧尼令(そうにりよう)〉に私度にかかわった師主,三綱(さんごう)らを還俗(げんぞく)(僧尼身分の剝奪)に処することを規定しているのは,僧尼となれば課役免除の特典が与えられるので,人民が課役をのがれるため,勝手に得度することを防止しているのである。…

【僧尼令】より

…内容的には,僧尼身分の異動と,寺院以外での宗教活動とに厳しい制限を設けている。律令制下では官許を得ないで出家する私度(しど)を認めず,また僧尼が呪術を介して民衆に接触することをもっとも警戒したが,僧尼令は,私度および私度にかかわる不法行為を厳禁し,かつ民衆教化を禁じ,山林修行や乞食(こつじき)さえも届出を義務づけている。こうした僧尼令にもとづく律令国家の仏教統制に対して批判的な運動が,養老年間(717‐724)に勃興する行基らの民間伝道である。…

※「私度」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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