今日では市民と同義に用いられることが多い。現代社会の構成員として、政治ないし公務に積極的、能動的に参加するという地位、資格、活動の側面を強調していうことば。しかし古くは、公民は律令(りつりょう)制度のもとで貢納の義務を負う農民や、わが国の明治憲法下の旧市制・町村制において公務に参与する一定の限られた資格を有する住民をさした。日本国憲法下でもこのことばは法律用語として用いられている(労働基準法7条、教育基本法8条など)。したがってこのことばは、明治憲法下では臣民として参政権を有する立場を表すものであり、最近では、「公民科」「公民館」「公民権」などの用法にみられるように、政府や役所の側から参政権をみた場合に用いられるニュアンスがある。しかし、アメリカの黒人解放運動の一環として「公民権civil rights運動」という訳語が用いられている場合の公民は、市民とまったく同義である。同じことばが国連の国際人権規約の場合には「市民的権利」と訳されているからである。
[飯坂良明]
古訓はオオミタカラ。古代の身分用語。当時の平民・百姓などの語とほぼ同義とされる。律令制下では課役を負担した一般庶民をさす用語で,皇族・官人や奴婢などの賤民,雑戸・品部(しなべ)などとは区別された。しかし史料によっては皇族・官人層を含む用例もあり,公民の語が常に一定の意味で用いられたかは疑問。なお律令制以前,推古朝の頃には臣・連・伴造・国造・百八十部と連記され,大和朝廷の支配に連なる人民として公民の語が用いられていた。
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…すべての土地と人民は朝廷に属するとし,豪族の私地私民に対立する概念。大化改新によって私地私民を廃止し,公地公民の政策が打ち出され,約半世紀後の大宝律令の施行によって公地公民制が確立したというのが通説である。しかし,すでに中田薫が指摘しているように,律令においては,口分田(くぶんでん)は私田とされていた。…
…公民ということばは,きわめて日本的で,日本社会の特異性からきており,もともと市民(英語citizen,フランス語citoyen,ドイツ語Staatsbürger)といったほうがよい。市民を意識的に育成することによって,社会の秩序の維持と発展をめざす教育を公民教育とよぶ。…
…ほぼ18世紀前半まで,それらは人間の公的=政治的な存在様式にかかわる言葉として,語源的に古代都市国家や中世都市に由来する伝統的な意味を保っていた。citoyenはポリスpolisのpolitai,キウィタスcivitasのcivesと同様に政治的共同体を構成する〈公民〉を,またBürgerは〈政治的体制の中で生活する人々〉を指し,civilやbürgerlichも公共的な政治生活との意味上の関連を失わなかったからである。したがって18世紀前半までは,société civile,bürgerliche Gesellschaft,civil societyは,アリストテレスのコイノニア・ポリティケkoinōnia politikē,キケロのソキエタス・キウィリスsocietas civilis以来の伝統を引きずっており,端的に権力関係をうちに含む政治社会,あるいは人的共同体としての国家を意味する概念であった。…
…授業開始は1947年9月。戦前の修身,公民,地理,歴史のたんなる融合ではなく,つぎのような目的をもった教科として成立した。(1)自主的,建設的で,しかも批判的な能力の育成,(2)社会生活を総合的,連関的に理解し,社会の諸問題を事実に即した知識をもって合理的に解決する能力の育成,(3)知識と生活を密着させ,それらの学習を通じての社会にとって好ましい態度や習慣の育成。…
…(1)古代律令制下で位階官職をもたない一般人民をさした語。百姓,公民,良民と同様な意味で用いられた身分呼称であった。《令義解(りようのぎげ)》で〈家人(けにん),奴婢(ぬひ)〉について〈すでに平民に非ず〉といわれているように,賤民である家人や奴婢は平民身分から除外された。…
※「公民」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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