改訂新版 世界大百科事典 「移動平均法」の意味・わかりやすい解説
移動平均法 (いどうへいきんほう)
moving average method
時系列,あるいは定常過程の表現法の一つであって未来を予測するのに用いられる。時間の経過により新しいデータが得られると,以前の一定期間のデータと併せて逐次それらの代表値を更新していく平均方法である。もっとも簡単なのは同じウェイトで一定期間の相加平均をとる方法で単純移動平均法という。例えば6,7,8月と3ヵ月間の生産実績から9月の生産高を予測するのに,既知の3ヵ月間のデータの算術平均を用いる。そして9月の実績が知られたら,6月は捨てて7,8,9月のデータから10月を予測する。このほか,すぐ前の月は重視しそれ以前はウェイトを減らしていく方法があり,加重移動平均法と呼ばれる。上の例で,6,7,8月の量をそれぞれA1,A2,A3とするとき,例えば(3A3+2A2+A1)/6で9月を予測する。9月の実績が知られたら7,8,9月の量をそれぞれA1,A2,A3とすればよい。一般により多くの過去にさかのぼれば,また適切なウェイトをとれば,ゆらぎが平滑化され,よい予測が得られる。そこでのウェイトは時系列の構造によって決まる。これらの理論的根拠は時系列の移動平均表現にある。長期傾向や季節変動などを除いた平均値0の時系列{Xn;-∞<n<∞}があり,分散は有限だとする。もしそれが-∞の過去に初期情報のない純非決定的な時系列であれば,無相関な時系列{Yn;-∞<n<∞}(Ynの平均値は0,分散は1)と係数{an}があり,各Xnは,と表され,しかも各nについて{Xk;k≦n}の張る空間と{Yk;k≦n}の張る空間とが等しい。とくにガウス過程のときは両者の情報は一致する。そして{Xn}について時刻mまでの量{Xk;k≦m}が観測されたときXn(n>m)の最良な(線形)予測値はで与えられるが,それはまた上記の関係からXk(k≦m)の加重平均になるのである。ここで用いられる係数anは{Xn}の共分散関数から求められる。時間を連続にした定常過程の場合にも同様な理論がある。
執筆者:飛田 武幸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報