改訂新版 世界大百科事典 「等角写像」の意味・わかりやすい解説
等角写像 (とうかくしゃぞう)
conformal mapping
平面領域の間の1対1写像fで,複素関数w=f(z)とみたときに正則関数となっているものを,等角写像という。解析写像,両正則写像ともいう。
元の意味は,曲面から曲面への写像で,各点における角と向きが,像においても同じであるようなもののことである。共形写像ともいう。プトレマイオスが天球を表すのに用いた立体射影,G.メルカトルが地図に用いた写像(1568)はこの意味の等角写像の例である。
正則関数fの定める写像は,f′(a)≠0のとき,点aを頂点とする角の大きさとその向きは,像においても同じである。そして,この性質は,fが1対1写像を定めるときは,正則性と同値である。これらのことはF.ガウス(1822),G.F.B.リーマン(1851)による結果である。このような理由から,現在では“角を保つ”ことには直接とらわれずに,通常,初めに述べたような定義が採用されている。
例えばw=(z-a)/(1-āz)(āはaの複素共役,ただし|a|<1)は単位円板|z|<1を単位円板|w|<1の上に等角に写像し,w=(z-1)/(z+1)は右半平面を単位円板|w|<1の上に等角写像する。
w=(z+z⁻1)/2は単位円板|z|<1をw平面から実軸上の閉区間[-1,1]を除いた部分の上に等角写像し,|z|<r(<1)を,w平面から±1に焦点をもつ楕円の外部の上へ等角写像する。
円板を楕円の内部の上へ等角写像するには,楕円関数が関与する。半平面を多角形の内部または外部の上に等角写像する関数を表すのに,シュワルツ=クリストッフェル公式がある。
リーマン(1851)は,二つ以上の境界点をもつ単連結領域は,つねに単位円板の上に等角写像できることを主張した(リーマンの写像定理Riemann's mapping theorem)。彼の証明には欠陥があったが,オズグッドW.Osgood(1900),H.ポアンカレ(1907)によって完全に証明された。
流体力学や電磁気学などの二次元問題においては,古くから等角写像が有用な手段として利用されてきている。
執筆者:及川 広太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報