改訂新版 世界大百科事典 「楕円関数」の意味・わかりやすい解説
楕円関数 (だえんかんすう)
elliptic function
複素平面Cで有理型な二重周期関数の別名である。すなわち,ω1とω2を,0と異なる複素数でIm(ω1/ω2)>0を満たすものとしたとき,Cで有理型な関数fで,任意のz∈Cと,任意の整数m,nに対して,
f(z+2mω1+2nω2)=f(z)
を満たすものを,2ω1と2ω2を基本周期とする楕円関数という(ω1,ω2を採らず2ω1,2ω2を用いるのは,種々の利点があり,慣用となっている)。4点0,2ω1,2ω2,2ω1+2ω2を頂点とする平行四辺形を基本周期平行四辺形という。
歴史的には,楕円関数の研究は,楕円積分に源をもつ。積分,
のようにの有理関数の積分のことを楕円積分という(楕円の周長を求める際に現れるのでこの名がついた)。この積分の研究は,18世紀から19世紀にかけてL.オイラー,A.ルジャンドルらによって研究されてきた。なお,後者は今日の慣用と異なって楕円積分のことを楕円関数と呼んだ。
楕円積分の研究に革命を与えたのは,19世紀初期のN.アーベルとC.ヤコビである。それは楕円積分u=u(x)の逆関数x=x(u)を考えるという発想であった。ちょうど,
の逆関数がx=sinuであるように,ヤコビは(1)式の逆関数をx=snuと表して,新しい関数を導入した。同様にcnu,dnuを導入し,複素関数として扱い,これらの二重周期性や加法公式,
を証明した。
やや遅れて,K.ワイヤーシュトラスはペー関数,(ただしΩmn=2mω1+2nω2で,Σ′はすべての(m,n)≠(0,0)に対する和)を導入した。これは基本周期2ω1,2ω2の楕円関数であり,積分,
の逆関数である。また,加法公式,
が成り立つ。以上の諸関数と関連して,ワイヤーシュトラスによるζ関数,σ関数,コシグマ関数,ヤコビによる関数などが導入され,数多くの関係式が知られている。
ヤコビの楕円関数と,ワイヤーシュトラスのそれの関係は,簡単な公式で与えられている。また,任意の楕円関数は,同じ基本周期をもつと′の有理式で表すことができる。同じ基本周期の二つの楕円関数の間には代数的関係が成り立つ。
楕円関数は,数多くの公式によって,広く応用されている。一方,理論的立場からみれば,まず歴史的に複素関数論の一般論の発達を促し,さらに一般化することによって20世紀のリーマン面,代数幾何学の発展を促した。
執筆者:及川 広太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報