粉粒体を粉砕するための機械装置。比較的粗い粉砕,すなわち破砕に使われる粉砕機を破砕機またはクラッシャーcrusherと呼ぶことがある。また比較的細かな粉砕に使われる粉砕機を俗にミルmillと呼ぶ場合がある。
粉砕機はその作動時における主要な粉砕作用力が何であるかによって,表のように分類される。以下おもな粉砕機について簡単に説明する。
(1)ジョークラッシャーjaw crusher 岩石や鉱石の粗砕(一次破砕)に使われる装置で,固定した刃板とこれに対して小さな振幅で前後に往復動する刃板があり,両者の間に原料粒子をかみ込んで破砕する。駆動軸には大きなフライホイールが取り付けられており,運動エネルギーを蓄え,放出する役割を果たしている。駆動軸の偏心機構によってピットマンが上下し,その運動はさらにトグルプレートによって水平方向の動きに変えられ,可動刃に伝えられる。ジョークラッシャーにはトグルプレートを2枚つけたタイプのダブルトグルジョークラッシャーdouble-toggle jaw crusher(図1)のほかにトグルプレートが1枚しかないタイプのシングルトグルジョークラッシャーsingle-toggle jaw crusherがある。ダブルトグルジョークラッシャーはブレークジョークラッシャーBlake jaw crusherによって代表され,硬く,摩耗性の高い岩石や鉱石の粗砕に広く使われている。シングルトグルジョークラッシャーは石灰岩などの軟岩用に主として使われている。
(2)ジャイレートリークラッシャーgyratory crusher 裁頭円錐形のクラッシングヘッドをもつ軸(スピンドル)の旋回運動によって,クラッシングヘッドとこれを取り巻く逆円錐形のマントルとの間に原料粒子をかみ込んで破砕する破砕機である。中硬岩~軟岩用の一次破砕または二次破砕に広く使われている。ジョークラッシャーが装置寸法のわりに,大きな粒子(大塊)を粉砕する能力に優れているのに対し,ジャイレートリークラッシャーは処理能力が大きく,粉砕効率が高いという点に特徴がある。
(3)コーンクラッシャーcone crusher ジャイレートリークラッシャーよりも頂角の大きいクラッシングヘッドと円錐形のマントルとの間で,クラッシングヘッドの旋回運動によって原料粒子を粉砕する中砕~細砕用の破砕機である。クラッシングヘッドは通常球面すべり軸受によって支持されており,一方,マントルは多数の保護ばねを介して取り付けられている。粒子はクラッシングヘッドとマントルとの間で幾度か粉砕されながら,重力によって流下する。この過程で粒子が細かくなるに伴い,破砕面も末広がりに広がる形状となっているのがコーンクラッシャーの構造上の特徴である。
ハイドロコーンクラッシャーHydrocone crusherなどの商品名で知られている油圧式のコーンクラッシャーは,マントルを押さえるばねを廃し,球面軸受の代りに油圧制御装置によってクラッシングヘッドの位置を自動調節する機構になっている。
(4)ローラーミルroller mill 数個のローラーが重力,遠心力,ばねの力などによって回転するテーブルまたは鉢形の粉砕容器に対して押しつけられるような構造になっており,両者の間に挟まれた原料粒子を圧縮粉砕する。粉砕され,細かくなった粒子は気流によって排出されるようになっている。セメント工場における原料の粉砕や発電所における石炭の粉砕などに広く用いられている。
(1)インパクトクラッシャーimpact crusher 高速回転する円筒に取り付けられた衝撃刃と,これに向かいあう固定刃によって原料粒子に強い衝撃力を与え,粉砕する装置である(図2)。衝撃刃の運動速度は25~45m/s程度である。インパクトクラッシャーは構造が単純で機体も軽量であるが,摩耗性の高い岩石や鉱石の粉砕には刃の摩耗が早いため不向きとされている。骨材の製造過程において粒子の角を取り整形する目的にも広く使われている。
(2)ハンマーミルhammer mill インパクトクラッシャーに似た衝撃粉砕機であるが,衝撃刃がヒンジによって回転自在になっている点,ならびに産物の排出口に格子または網が取り付けられている点でインパクトクラッシャーと相違している。ハンマーミルはインパクトクラッシャーに比べて細かい産物粒度を対象とする場合が多い。
(3)ケージミルcage mill 多数の金属棒を円形に配列した大小2個の籠を同心軸上に重なるように配置し,これらを逆方向に高速回転させる構造の衝撃粉砕機である。軟岩の粉砕や解砕に使われている。
(4)その他の衝撃式粉砕機 微粉砕あるいは極微粉砕を目的とする衝撃式粉砕機にはひじょうに多くの機種があり,ミクロンミル,スーパーミクロンミル,ターボミル,アトマイザー(以上商品名),ピンミルなどの名称で知られている。これらのミルは原理的には上に述べた衝撃式粉砕機と同じであるが,高速回転体によって発生する気流を巧みに利用して,微細粒子を有効に粉砕するよう,それぞれにくふうが凝らされている。機種,運転条件,原料の性質などにもよるが,粉砕産物の粒度限界は3μm程度である。
(5)流体エネルギーミルfluid energy mill 高圧の空気,水蒸気などの気体を機体内に吹き込み,その高速気流によって粉体を微粉砕する装置である。ジェットミルjet millの名で呼ばれることもある。図3に流体エネルギーミルの形状と構造の一例を示す。流体エネルギーミルは条件によっては1μm以下の産物粒度を得ることができる乾式粉砕機であって,薬品,食品,工業原料などの小規模な極微粉砕に広く使われている。大量の高圧気体を必要とするため,莫大なエネルギーを消費することはやむをえない。高圧気体を機体に流入する際に断熱膨張によって機体内の温度が低下するので,熱可塑性の物質や高温で変質しやすい物質を粉砕するのにも適している。
金属,合成樹脂などは岩石などの脆性(ぜいせい)物質と異なり,通常の手段では粉砕することができない。そのためシュレッダー,カッターミルのように剪断(せんだん)力を使った種々の破砕・粉砕装置が開発され,廃棄物処理などに使われている(図4)。また衝撃力と剪断力を併用する形式の粉砕機も開発されている。これらの展延性物質のあるものは低温脆性を呈するので,液体窒素などを使って超低温にまで冷却したのち粉砕する方法も行われ,これには主として衝撃式の粉砕機が用いられる。
摩砕式の粉砕機は,いずれも粉砕容器内に装入された粉砕媒体の運動によって,それらと混在する原料粒子を粉砕する。
(1)ボールミルball mill このタイプの粉砕機の最も代表的なもので,鉱石類やセメント原料,セメントクリンカーなどの大量微粉砕をはじめ,窯業原料,化学工業原料などの微粉砕~極微粉砕に広く利用されている。ボールミルは,水平軸の周りに回転する円筒形容器にその容積の約1/3を満たす量の鉄球(ボール)を入れたものである(図5-a)。容器(シェルshell)を回転させるとそれに伴ってボールがある程度持ち上げられ,落下する。ボールの運動の様態はシェルの内張(ライニングlining)の形状,回転速度,粉砕媒体の充てん率などにより変化する(図5-b)。このようなボールの運動によってシェルに供給された原料粒子がくり返し粉砕作用をうけ,しだいに細かくなる。シェルの形状は長さ/直径比が1~1.5程度の標準的なもののほかに,直径に比べて数倍の長さをもつもの,裁頭円錐形のものなどがあり,それぞれチューブミルtube mill,コニカルミルconical millなどの名で呼ばれている。ボールとしては鍛造,鋳造による直径25~100mmの特殊鋼または炭素鋼が一般的であるが,セラミックス,ケイ石,鋼棒を切断したものなども利用されることがある。
(2)ロッドミルrod mill ボールの代りに円筒形シェルの長さよりも少し短い特殊鋼または炭素鋼の棒(ロッド)を粉砕媒体として使用する粉砕機である。ロッドの直径は75mm前後が一般的である。ロッドミルはボールミルに比べて粗めの粉砕作業に適している。ロッドミル,ボールミルは以下に述べるようなタイプの自生粉砕ミルなどと合わせて回転ミルあるいは転動ミルtumbling millと総称される場合がある。
(3)自生粉砕ミルautogenous mill 粉砕媒体としてボールの代りに粉砕原料の塊粒子を利用する粉砕機である。通常のボールミルとほぼ同じ設計のシェルを用いた自生粉砕ミルはペブルミルと呼ばれている。粉砕媒体としての原料粒子は鉄鋼ボールに比べて概して比重が小さいため,ボールよりも大きめの塊を用いるのが普通であるが,それでも十分な粉砕力が得られがたいため,種々の自生粉砕専用の特殊ミルが開発されている。エーロフォールミルAerofall mill,カスケードミルCascade mill,ロックシルミルRockcyl millなどはその代表的なものである。これらのミルはいずれも一般のボールミルに比べて短胴・長径の外形をしており,また粉砕媒体粒子を高く持ち上げ,落下時の衝撃力を高めるためのくふうがなされている。自生粉砕ミルの粉砕効率は概してボールミルに劣るが,粉砕系統を簡単化できるなどの利点があるため,日本ではあまり使われていないが,外国では金,銅,ウラン,鉄などの鉱石やセメント原料などを対象とした大規模粉砕に広く利用されている。
(4)振動ミルvibration mill ボールミルやロッドミルなどの回転ミルと異なり,粉砕容器を高速に振動させることにより,容器内に充てんされた粉砕媒体の作用によって粉砕を行う装置である。粉砕容器の形状にはいろいろあるが,ボールミルなどと同様,水平の中心軸をもつ円筒形が最も一般的である。振動の形態もいろいろであるが,ふつうは軸中心の円運動である(図6-a)。振動の振幅は0.5~15mm,振動速度(周波数)は800~3000rpm,振動加速度は重力加速度の8~12倍程度となっている。シェルの内部はふつう70~85%ほどまで粉砕媒体で満たされる。シェル自体はふつう回転しないが,粉砕媒体および粉砕物は振動により,振動と逆の方向にゆるやかに循環する。振動ミルはボールミルに比べて粉砕速度が大きい。またボールミルよりも一般に細かな粉砕媒体(ボール)を用い,小規模・極微粉砕用に用いられる場合が多い。
(5)遊星ミルplanetary mill 図6-bに示すように,ボールミルと同様に自転する粉砕容器をさらに公転させる構造の粉砕機である。公転によって生ずる遠心力のため,重力利用のボールミルに比べて大きな粉砕力が得られるのが特徴である。しかし機構が複雑なため,その利用は実験室用試料粉砕装置などの特殊用途に限られている。図6-cに示した遠心ミルcentrifugal millは,構造上は振動ミルに近いが,粉砕機構上はむしろ遊星ミルの一種といえる粉砕機である。このミルは大規模粉砕を目標として開発されたもので,振動ミルよりは大きな振幅で,それだけゆっくりとした速度で粉砕容器を振動させる機構になっている。遠心加速度は重力加速度の8~12倍,あるいはそれ以上である。粉砕容器は自転させないのがふつうであるが,粉砕媒体および粉砕物の運動は遊星ミルのそれに近い。遠心ミルの特徴は遊星ミルや振動ミルと同様に単位容積当りの粉砕能力が高く,またそれらとは異なって大型化が可能な点にある。
(6)かくはんミルagitation mill 最近,超微粉砕への産業界の強い要求により脚光を浴びるようになった粉砕機である。構造・原理はきわめて簡単で,ボールミルなどと同じように粉砕容器を粉砕媒体で満たし,かくはん装置によってそれを粉砕物とともに強くかくはんし,摩砕する(図7)。粉砕容器はふつう水平または垂直の円筒形である。粉砕媒体としては直径0.5~3mm程度のガラス,ナイロン,セラミックス,超硬合金などの球が用いられる。かくはん翼としては穴のあいた複数の円板,突起のある円筒などが一般的である。かくはんミルは機体容積のわりに大きなエネルギーを供給し,高速粉砕を行う性質上,大量の熱を発生するので,放熱のための機構を付属する場合が多い。タワーミルも原理的にはかくはんミルの一種であるが,構造は比較的大量の原料の微粉砕を目的とする設計である。
執筆者:井上 外志雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
固体を細かくして粒径の減少と固体の比表面積(粒子の単位体積当りの表面積)の増加を図る機械的単位操作の一種を粉砕grindingという。広い意味の粉砕には破砕、粗砕、中砕なども含めるが、狭義には1センチメートル程度以下の粒度を目的とするものに限ることが多い。英語でsize reductionというと液体の微粒化まで含めることもあり、固体の細分化に限る場合にはcomminutionを使うのが普通である。
[早川豊彦]
粉砕の目的は種々あるが、固体を細かくして取り扱いやすくし、多成分からなる固体の混合物の均一性を高めるなどであるが、より重要なのは、固体の比表面積を増加させて焼結や溶解などの反応や、物質移動速度を高めることである。とくに比表面積の大きい微粉、超微粉になると、物理的変化のみならず化学的変化も無視できなくなり、メカノケミストリーmechanochemistryとして単なる機械的単位操作の一種ではなくなってくる。
[早川豊彦]
粉砕する物質、粒径、条件がきわめて多種多様なので、粉砕機もまたその操作方法も多種多様である。湿式と乾式、回分、連続、閉回路粉砕などに分類される。
粉砕機は一台の機械で細かくしうる粒径の割合、すなわち粉砕比=粉砕する原料(砕料)の粒径/製品(砕製物の粒径)は、機械によって限度があり、多くの場合に幾種類かの粉砕機が直列に用いられる。
粉砕のため固体に加える外力としては圧縮、剪断(せんだん)、衝撃、摩擦の4種が用いられ、クルミ割り、鋏(はさみ)、金槌(かなづち)、やすりの作用がこの4種に対応している。圧縮は粗砕、中砕に、剪断は微粉砕、靭(じん)性材料の微細化に、衝撃は中間粉砕、微粉砕、超微粉砕に、摩擦は微粉砕、超微粉砕に用いられる。実際の個々の粒子の粉砕機構は複雑で、これらの幾種類かの力を同時に受ける場合がある。
[早川豊彦]
粉砕は普通には空気中で行う乾式粉砕であるが、ボールミルの若干の場合やコロイドミルのように液体中(水中が多い)で粉砕を行う湿式粉砕がある。湿式粉砕は最終製品が液体中のサスペンジョンの場合が望ましく、一般には乾式粉砕より粉砕の効率が高いといわれている。たいていの湿式粉砕機は乾式粉砕機としても用いられるが、逆に衝撃式粉砕機、破砕機、ジェット粉砕機のように機構上湿式で使えないものも多い。
[早川豊彦]
粉砕機は回分操作と連続操作で運転され、多くの場合連続操作である。ボールミルは回分と連続の両方に広く使われる。
連続粉砕はまた開回路粉砕と閉回路粉砕に分けられる。閉回路粉砕は連続粉砕機からの粉製物を分級機にかけ、一定粒径より大きい粒径のものを元に戻し(戻し粉という)、ふたたび粉砕機で粉砕を行い分級機の細粒側として取り出した製品分だけを新しい砕料として粉砕機に供給する方法である。閉回路粉砕は過粉砕を防ぎ、粒度分布を鋭くさせ、また粉砕の効率を増大させるといわれている。
[早川豊彦]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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