狂言の曲名。脇(わき)狂言、果報物。「末広」と書いても「すえひろがり」と読む。大果報者(だいかほうもの)(大金持ち。シテ)が、供応の引出物(ひきでもの)に末広がり(扇の一種)を進上しようと、太郎冠者(かじゃ)を都へ求めにやる。末広がりとはどういう物か聞いてこなかった冠者は、「末広がり、買おう」と都を呼び歩く。すっぱ(詐欺師(さぎし))が呼び止め、古傘(ふるからかさ)を末広がりだといい、「地紙(じかみ)良(よ)う……」などという注文にもうまくあわせ、高価で売りつける。冠者は喜んで帰宅するが、主人はあきれ怒って冠者を追い出す。そこで冠者は、すっぱから教えられた、主人の機嫌を直す囃子物(はやしもの)(リズミカルな謡)を「かさをさすなる春日山(かすがやま)。……げにもさあり、やようがりもそうよの」と謡っているうちに、主人はしだいに浮かれだし、ついに冠者を呼び入れ、シャギリの笛にのってめでたく終曲する。主人が囃子物のリズムに浮き立っていくところに、めでたい和やかな笑いが漂う。脇狂言の代表曲といえる。
本曲に拠(よ)った邦楽には、通称「末広がり」で知られる長唄(ながうた)(本名題(ほんなだい)『稚美鳥末広(わかみどりすえひろがり)』、3世桜田治助(じすけ)作詞、10世杵屋(きねや)六左衛門作曲、1854年江戸・中村座初演)があり、ほかに、明治前期につくられた常磐津(ときわず)『寿末広(ことぶきすえひろ)』と一中節(いっちゅうぶし)『末広(すえひろ)』などがある。
[小林 責]
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…歌詞は曲中の人物が即興的に思いついた形のもので,舞踊的な所作をともなう。《末広がり》など脇狂言の果報者物に用いられるが,太郎冠者が主人の機嫌をとるなどの設定で謡われ,小鼓,大鼓,太鼓が伴奏し,シャギリ留めに連結する。また,《煎物(せんじもの)》《鈍太郎(どんだろう)》などでも,神事の山車(だし),手車などの囃子に用いられている。…
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