翻訳|mantle
地球の主要部分で,体積の83%を占め,固体よりなる。ただし,ごく一部分は部分溶融状態にある。密度の高い,マフィックなケイ酸塩よりなり,層構造をもつ。これは深部ほど圧力が増大し,相転移が起こるためと考えられている。
地球は上部より,地殻,マントル,核に分けられる。地殻とマントルとの境界面であるモホロビチッチ不連続面(略称モホ面)の深さは,大陸の地下で約35km,海洋下で約12km程度である。またマントルと核との境界面の深さは,およそ2900km(より正確には2880~2890km)である。
マントルは固体ではあるが,長期的に加わる力に対して流動することが知られている。たとえば,スカンジナビア半島では現在年間数mm~1cmの速度で土地が隆起している。これは,スカンジナビア半島をおおっていた氷床が約1万年前に溶け,氷床の加重がなくなった結果失われた,力の均衡(アイソスタシー)を取り戻すために,マントル内に流動が起きていることを示している。また,さまざまな地学的証拠から,マントル内には年間10cm程度の速度の対流(マントル対流)が起きていると考えられる。
おもに地震波の伝わり方の研究から,マントルの構造が調べられており,その概要は1940年ころまでに明らかにされている。マントル内の密度,圧力,重力,弾性定数の深さ分布は1940年ブレンK.E.Bullenによって推定された。彼による区分,B層(モホ面から深さ413kmまで),C層(深さ413~984km)およびD層(深さ984kmからマントル・核境界面まで)に従い,深さ400kmまでを上部マントル,400~900kmを遷移層,900km以深を下部マントルと呼ぶことが多い。なお,単に上部マントルと下部マントルに分け,その境界を深さ660km付近とすることもある。
上部マントルには,深さ100~200km付近に低速度層が存在する。その構造は地表の地学的特性(海洋,造山帯,楯状地など)に対応して地域性をもつ。低速度層の存在は,地震波の振幅の距離変化に基づき,1930年代末からグーテンベルクB.Gutenbergにより提唱された。その存在は,60年代の長周期表面波を用いた内部構造の研究により広く認められるようになった。低速度層内では,温度がマントル物質の融点に達し,数%以下の低融点成分が溶けた,部分溶融状態にあると考えられる。
遷移層は地震波速度が深さとともに急増する層を含み,地震波速度の変化は複雑である。これは組成(鉱物組成,化学組成)が一様でないことを示唆している。地震波速度の急増層では,マントル構成鉱物の相転移が起きていると考えられている。電気伝導度も深さ400~600kmで急増する。これも相転移に関連するのであろう。浅い地震のP波走時曲線が,震央距離20度付近で折れ曲がることは,バイアリーP.Byerlyにより1926年に見いだされ,20度不連続と呼ばれる。これは深さ400km付近で速度が急増することを示している。60年代の後半から,稠密な地震観測網を利用して測定された,走時曲線や,地震波パラメーターおよび振幅の震央距離による変化に基づき,地震波速度の微細構造が求められている。その結果,深さ約400kmと約660kmとで,地震波速度が数%急増していることがわかった。また,深さ500km前後にも速度の急増層が存在するらしい。
下部マントルの地震波速度は,深さとともに緩やかに増加し,ほぼ均質な組成をもつと考えられる。また,核との境界付近を除けば,構造の地域性も小さい。最近レイT.Layらにより,核との境界面から250~300km上にS波速度が3%弱急増する不連続面が見いだされた。
マントル内の温度,とくに深部の温度の推定は困難である。浅部の温度は深さとともに急に上昇し,深さ100kmで1000℃を超える。しかし,200km以深では地温勾配は緩く,相転移の研究から深さ500kmの温度は1500℃前後と推定されている。
地殻とマントルを含む地球の上層部を力学的性質や流動特性によって区分すると,上部よりリソスフェア,アセノスフェア,メソスフェアとなる。アセノスフェアは低速度層(あるいは低速度層と深さ約660kmまでの部分)に対応し,力学的に弱い層である。低速度層より上のリソスフェアは硬く力学的に強い層で,低速度層より下とはある程度独立に運動することができると考えられている。リソスフェアは各地域ごとに独立に運動する十数個の部分(プレートと呼ばれる)に分けられる。メソスフェアは深さ約660km以深の部分に対応している。
→プレートテクトニクス
中央海嶺や島弧下の異常な上部マントル構造は地震波を用いた研究により1960年代に明らかとなった。海洋下の最上部マントルには海底拡大の方向の地震波速度が速いという異方性が認められる。海洋地域の低速度層は明瞭で,低速度層の始まる深さ(プレートの厚さ)は海底の年代の平方根にほぼ比例する。中央海嶺下では深さ数kmの地殻下部から低速度層が始まる。古い海底(年齢1億~2億年)下のプレートの厚さは約100kmである。海洋の低速度層は200~250kmの深さまで及んでいる。島弧では,海溝から陸側へ傾く,地震波速度の速い層があり,この層内で深発地震が起きている。これは沈み込んだ海洋プレートに対応する。この上側の島弧の直下では,他の新しい造山帯と同様に,モホ面から低速度層が始まっていると考えられている。楯状地では低速度層は顕著でなく,プレートの厚さは約150~200km程度といわれる。
マントルに由来する海洋島や中央海嶺の玄武岩の地球化学的研究からも,上部マントルの組成の不均質性が明らかにされている。
マントル物質である捕獲岩や隕石の研究,さらに高温高圧実験で測定される各種岩石,鉱物の地震波速度および密度の値とマントル中の値との比較から,マントル物質が推定されている。上部マントルはおもにカンラン岩よりなると考えられ,カンラン石,斜方輝石を多く含むパイロライト(カンラン岩と玄武岩を7:3で混合)説が有力である。しかし単斜輝石,ザクロ石を多く含むエクロジャイト説もある。深さ400kmの地震波速度急増層はカンラン石(Fe,Mg)SiO4の変型スピネル構造(β相)への相転移によると推定されている。深さ500kmの急増層はβ相からγ相(スピネル構造)への相転移に対応するらしい。γ相はさらに高圧で,ペロブスカイト構造の(Mg,Fe)SiO3と岩塩構造の(Mg,Fe)Oに分解する。斜方輝石(Mg,Fe)SiO3もまた,同程度の圧力でイルメナイト構造からペロブスカイト構造,(Mg,Fe)OおよびSiO2(スティショバイト)に分解する。深さ660kmの速度急増層はペロブスカイト構造の生成に関連しているらしい。上部マントルと下部マントルでは化学組成が異なるとする考えもある。
執筆者:島崎 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
地球内部の核と地殻に挟まれた部分。地球の内部には地震波の速度が急激に変化する不連続面がいくつかあり、それらをもとに、中心から核、マントル、地殻に分けられている。マントルは地球体積の83%、質量では68%を占めている。マントルと核の境界は、アメリカの地震学者グーテンベルクにちなみ「グーテンベルクの不連続面」とよばれ、深さ2900キロメートルにあり、地殻とマントルの境界であるモホ面は大陸の下で30キロ~60キロメートル、海洋の下で5キロ~10キロメートルの深さにある。深さ400キロ~1000キロメートルの上部マントルでは、地震波速度や密度が急激に増加し遷移層とよばれることがある。なかでも670キロメートル付近の深さにある地震波の速度の不連続面は顕著で、この面を境にマントルは、上部マントルと下部マントルに分けられている。そして、深さ70キロ~250キロメートルには地震波速度の低下する層(低速度層)がある。ここではマントルを構成する物質が部分溶融している。このことから深さ100キロメートル付近のマントルの温度は1000℃以上であると考えられる。また、マントルと核の境界における温度は3000~5000℃であろうと推定されている。
マントルを力学的性質からみると、低速度層より上の部分は低速度層に比べ粘性率は高く、粘性率ηを、SI単位パスカル秒(Pa・s)で表すと
η=1022~1025Pa・s
となり、剛体的な硬い層なのでリソスフェアとよばれ、その下のマントルは流動しやすく
η=1021Pa・s
となり、アセノスフェアとよばれている。リソスフェアはプレートともよばれ、マントル対流によってアセノスフェアの上を漂移し、大陸移動や海洋底拡大などプレートテクトニクスに大きくかかわっている。
マントル最上部を構成する岩石は、キンバレー岩などのアルカリ岩を噴出する火成活動の際に捕獲岩として地表に運ばれるので、直接分析することができる。モホ面から深さ250キロメートルまでは、おもに橄欖(かんらん)石(オリビン)や輝石からなる橄欖岩でできている。マントル深部の化学組成や鉱物組成は直接推定することができないため、さまざまな説が唱えられている。従来は、深部マントルを構成する始源物質が分化して海洋地殻(玄武岩質)と最上部マントル(橄欖岩質)が形成されたと考え、深部マントルは橄欖岩と玄武岩を3対1の割合で混成した、仮想的な岩石パイロライトpyroliteからなっていると考えられていた。しかし、最近では地球形成期にマントルは溶融分化したため、下部マントルは上部マントルに比べてシリコンに富んでいるという説も注目されるようになってきた。この説によると670キロメートルの不連続面は、化学組成と鉱物組成の境界面である。いずれの説でも深さ450キロメートルと670キロメートル付近の地震波速度の急激な増加は、橄欖石→スピネル型Mg2SiO4→ペロブスカイト型MgSiO3+マグネシオウスタイトという圧力増加に伴う相転移に起因していると考えられる。大局的にはマントルの主要元素組成は橄欖岩質であると考えてよいであろう。
[水谷 仁]
アメリカのプロ野球選手(右投左右打)。大リーグ(メジャー・リーグ)のニューヨーク・ヤンキースでおもに外野手としてプレー。三冠王を獲得してヤンキースの黄金時代を支え、驚異的な飛距離のホームランでもファンを魅了し、「史上最高のスイッチ・ヒッター」といわれた。
10月20日、オクラホマ州スパビナウで生まれる。1949年、ヤンキースに入団。1951年に大リーグ初昇格を果たした。この年は、ヤンキースのワールド・シリーズ5連覇の3年目にあたり、往年の大スター、ジョー・ディマジオの現役最後のシーズンでもあった。1955年に初の本塁打王を獲得、56年には打率3割5分3厘、ホームラン52本、打点130で三冠王となり、ワールド・シリーズ優勝にも貢献して最優秀選手(MVP)に選ばれた。1957年も、無冠ながらリーグ優勝に貢献してMVPを受賞。その後、1958年と60年にも本塁打王を獲得した。その1960年にロジャー・マリスが加入してきて、「MM砲」といわれた。2人は1961年、競うようにホームランを打ち、ベーブ・ルースのもつ60本塁打のシーズン記録(当時)に迫った。だが、マントルが故障で先にリタイアして54本に終わり、最終戦でマリスが61本を記録した。1962年も故障に悩まされたが、ワールド・シリーズ制覇に貢献して3回目のMVPを受賞した。その後も故障と戦いながらプレーを続けたが、1968年限りで引退した。
18年間の通算成績は、出場試合2401、安打2415、打率2割9分8厘、本塁打536、打点1509。獲得したおもなタイトルは、首位打者1回、本塁打王4回、打点王1回、MVP3回、ゴールドグラブ賞1回。1974年に野球殿堂入り。
[山下 健]
『ミッキー・マントル、ロバート・スミス共著、宮川毅訳『ミッキー・マントル自伝 大リーガーへの道』(1977・ベースボール・マガジン社)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
地球の層構造の名称の一つで,大陸部で地上より35~2900 km の深さの範囲をいい,地球の全体積の83% を占める.地殻と横波が伝搬しない核との中間に相当し,平均密度は約4.5 g cm-3 といわれている.地震波の速度は縦波で7.75~13.64 km s-1,横波で4.35~7.30 km s-1 に相当する.マントルの物質については,主として地震波の解析から得られる密度,剛性率や弾性率の値を満足するモデルが種々提出されている.たとえば,V.M. Goldschmidt(ゴルトシュミット)(1922年)は,上部マントルは玄武岩の高圧型であるエクロジャイトからなり,下部マントルは,酸化物,硫化物の混合物であるとした.L.H. Adamsら(1927年)は,地震波の解析からダナイトで代表されるとし,A.E. Ringwood(1958年)は,かんらん石が化学組成はそのままで,圧力による転移で結晶形をかえてスピネルに変化すると考えている.マントルを化学的に一様だとし,コンドライトで代表させる考えもある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…袖が無くケープのように肩から腕をおおう打合せのない外套(がいとう)を指す。正しくはマントーといい,英語のマントルmantleに当たる。長さはさまざまであるが,中世末期からは夜会や儀式用の裾を引く長い丈のものもあらわれた。…
…この現象は,地球深部にP波速度が急激に減少する境界があるために生ずると考えられた。この境界の内側が核であり,外側はマントルと呼ばれる。震源からマントル内を通過して伝搬したP波は,このマントル‐核境界を通過する際に,核内のP波速度が遅いために,地球の中心部の方へ屈折する。…
…この種のカンラン岩は,マグマ溜りのなかで,玄武岩質マグマの結晶分化作用によって早期に晶出したカンラン石,スピネル,輝石などの結晶が,マグマ溜りの底に沈積して形成されたものである(こうして形成された岩石を集積岩cumulateと呼ぶ)。 後の二つの産状を示すカンラン岩は,上部マントル(深さ35~900km)の上部を構成する岩石であり,地球の内部構造を研究する上で重要である。造山帯や構造帯に産するものはアルパイン型と呼ばれ,オフィオライト最下部を構成するハルツバージャイト・レルゾライト・グループと,高温型変成帯にレンズ状岩体として産するレルゾライト・グループに分けられる。…
…チャンドラー運動はおもに四季の気圧配置や海流の変化による。このほか南極の氷床の消長,大地震,地殻変動,地球の核とマントルとの間の電磁気的カップリングによっても自転速度に変化が生じる。海水と海底との間に生じる潮汐摩擦によって自転にブレーキがかかり,しだいに自転速度が減る現象を永年減速といい,1日の長さが100年間に約0.014秒ずつ長くなる。…
…地球のマントルに深部から表面近くまでに達する大規模な熱対流が存在すると仮定して,熱も物質も対流に乗って運ばれるとすると,地殻と上部マントルに起こっている諸現象をうまく説明することができる。熱せられた地球が表面から冷えていく段階で,その内部に熱対流が生じるだろうとは古くから指摘されていた。…
※「マントル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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