精神衛生mental hygieneとは,広義には精神的健康mental healthを保ち増進すること,すなわち精神保健であるが,狭義には精神障害にならないように予防すること(第1次予防,発生予防),なった場合も早期発見,早期治療,再発予防をすること(第2次予防,有病率低下),そしてリハビリテーションを促進して精神的健康を回復すること(第3次予防,社会復帰)を指している。精神的健康とは精神障害がなく,個人が社会の中で良好な適応状態にあることであるが,社会文化的価値基準や個人的事情の違いによって相対的な面がある。
近世以降の精神衛生活動をみると,18世紀末フランスのピネルは,ビセートル病院の精神障害者を拘束から解放し人道的に扱う方向を開いた。このような狭義の精神衛生の実践はイギリスのコノリーJ.ConollyやドイツのジーモンH.Simonに受け継がれた。一方,精神保健の推進運動はアメリカで盛んであり,ビアーズはみずからの体験をもとに著書《わが魂に会うまで》(1908)を発行し,コネティカット精神衛生協会を設立した。A.マイヤーやW.ジェームズ,G.S.ホールらもこれを援助した。1930年にはワシントンで第1回国際精神衛生会議が開かれ,第2次大戦後の48年にはロンドンで世界精神衛生連盟の第1回総会が開かれ現在に至っている。世界保健機構の精神衛生部でも種々の国際的活動を行っている。
日本では11世紀末から京都の岩倉村で患者の共同生活が行われていたが(岩倉保養所),近代以降の活動としては1902年呉秀三が精神病者救治会をつくったのをはじめとして,26年には日本精神衛生会,52年には日本精神衛生連盟が結成された。国の施策では,1900年精神病者監護法により監護義務者を定め,19年精神病院法により精神病院と入院の規定をした。また50年には精神衛生法(現精神保健福祉法)により私宅監置を禁止し,措置入院,同意入院,精神衛生鑑定医などを制度化した。さらに65年の同法改正により,精神衛生センター設置や通院医療費公費負担制度を発足させた。
精神衛生の領域は人間生活の時期的・縦断的側面と状況的・横断的側面からとらえうる。前者では,(1)胎生・出生期の遺伝・先天性疾患や母体障害,妊娠・分娩,(2)乳幼児期の精神発達とその遅滞,育児・しつけなどの母子関係,(3)学童期と(4)思春期・青年期の発達,教育のことで,登校拒否,家庭内暴力,校内暴力,非行,摂食障害,性的発達,自殺,(5)成人期の婚姻・育児・家事や職業上の不適応,離婚,アルコール依存,(6)初老期の成人病,心身症,抑うつ状態,(7)老年期の生活設計,身体病,認知症などや世代隔差の問題などが注目される。後者には,(1)家庭での親子・夫婦・同胞関係,(2)学校での進学,勉学,課外活動,師弟関係,(3)職場での就職,適性,事故,欠勤,転勤,転職,定年,(4)地域社会での環境や近隣関係などの問題がある。
執筆者:浅井 昌弘
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