共同決定法(読み)きょうどうけっていほう(その他表記)Mitbestimmungsgesetz[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「共同決定法」の意味・わかりやすい解説

共同決定法 (きょうどうけっていほう)
Mitbestimmungsgesetz[ドイツ]

企業と職場における被傭者の決定参加のことを共同決定と呼んでいる。これは,この決定参加(経営参加)がとりもなおさずその範囲労資(使)の共同決定となるからである。共同決定は単なる労使協議制よりも大きな利害擁護機会を被傭者に与えることになるが,雇用者側としては被傭者に決定参加から生じる責任と自重を,ひいては産業平和への寄与を期待できないわけではない。この制度は経済において民主主義を実現するための一方途とみなされ,ワイマール時代以来ドイツを中心に発展してきた。また,産業別(横断的)労働組合による団体交渉では手の届きかねる個別企業内問題に対処するために,多くの国で設けられている企業内機関なかには,交渉方式ではなくて共同決定方式をとるものがなくはない。

 共同決定法というとき,概念的には被傭者の共同決定権を定めた法律一般を意味するが,ドイツ連邦共和国(旧,西ドイツ)にとくにこの名をもつ二つの法律があるため,これをさすのが普通である。鉱業鉄鋼業従業員1000名以上の企業を対象とする第一の共同決定法(1951成立)は,企業の最高管理機関として取締役任免権をもち,取締役の業務執行の監督にあたる監査役会において被傭者側に出資者側代表と同数の監査役(労資同権)を認め,さらに労務担当取締役の任免については被傭者側監査役の過半数の同意が必要であると規定している。だが,ほぼ全産業の小企業にまで適用される1952年制定の経営組織法では,被傭者は社会・人事・経済の諸事項について協議権のほかに共同決定権を保証されたものの,監査役会での共同決定については500名以上の企業で3分の1の監査役を認められたにすぎなかった。そして,この点は72年改正の新経営組織法でも変更されなかった。石炭や鉄鋼産業以外の労働者が長らく待ち望んできた共同決定法は,社会民主党自由党妥協がようやくなった76年に成立している。上記産業以外に適用されるこの新法は,しかしながら,その範囲を2000名以上の大企業に限定のうえ,管理職員代表1名を被傭者側監査役に含めたり,出資者側が座ることになっている監査役会議長に賛否同数の場合2票を与えている点で51年法よりも後退している。株主と雇用者団体は,この新法を所有権保障違反のかどで憲法裁判に訴えたが,連邦憲法裁判所は,会社機関を経由して利用される持分所有権の場合,従業員の決定参加を目的に所有権に一定の制限を課すことは合憲であると裁決した。なお,イギリスやイタリアを除くヨーロッパの多くの国では,法で経営協議会や工場委員会を定めて一定の共同決定を実施しているし,オーストリアはドイツと同様の経営組織法をもっている。
労働者管理
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「共同決定法」の意味・わかりやすい解説

共同決定法
きょうどうけっていほう
Mitbestimmungsgesetz ドイツ語

企業の意思決定への労働者の参加を定めたドイツの法律。沿革的には1920年の経営協議会法を先駆とするが、本格的なものとしては1951年の西ドイツ時代に、石炭・鉄鋼業についてモンタン共同決定法Montan-Mitbestimmungsgesetzが制定され、重役の任免、投資・生産計画などについての最高の意思決定機関である監査役会の構成を労使同数とした。その他の業種については、監査役会への労働者の参加比率は3分の1とされていた(1952年経営組織法)が、1976年に新法が制定され、従業員2000人以上の民間企業において前記比率は2分の1になった。しかし、可否同数の場合、経営者代表が選出する議長に二重投票を認めるなど、完全な対等参加とはいえない。また、従業員が2000人未満の企業では参加比率は3分の1のままである。

[吉田美喜夫]

『正井章筰著『共同決定法と会社法の交錯』(1990・成文堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「共同決定法」の意味・わかりやすい解説

共同決定法
きょうどうけっていほう

労働者代表が経営者とともに,取締役会や監査役会などの企業の最高意思決定機関に参加する共同決定制度を法的,公的に制度化したもの。 1951年西ドイツで制定された共同決定法 Mitbestimmungsgesetz が最も有名で,その源流を第1次世界大戦後に求めることができるほど長い歴史をもっており,株式法,労働協約法,共同決定法,経営組織法,職員代表法といった各種の法律にまたがって規定されている。その後 72年の経営組織法の改正を経て,76年には拡大共同決定法が施行された。これにより,2000人以上の労働者を擁する経営体は労使同数の代表を監査役会に送り込むことが規定されたので,労働者の権利は大幅に伸長したといわれる。しかしドイツの場合,確かに労働者代表は企業経営の最高機関にあたる監査役会に参加しているが,監査役会の実質的職能は重役会の任免にすぎず,かつビジネス・リーダーシップは重役会が握っているので,日本やアメリカの取締役会と同様に考えることはできない。

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世界大百科事典(旧版)内の共同決定法の言及

【経営参加】より

…〉
[事業所レベルの労働者参加]
 これの進行についても多様な形態と関係主体による多様な意義づけを指摘しうるが,同時に,それらの根底における共通な時代の潮流の存在が注目される。形態と意義の多様性についてみれば,西ドイツにおける工場委員会の共同決定権の強化(1976),スウェーデンにおける事業所レベルでの協議権と交渉権の強化を意図した共同決定法の制定(1977),オランダでの同様な主旨の工場委員会法の制定(1971),フランス,イタリア,イギリスにおける事業所レベルでの,実態としての協議権と交渉権の強化の動き,アメリカでの伝統的な団体交渉中心主義的な労使関係システムへの労使協議制の導入の動き,日本での1960年代以降の労使協議制の普及などのごとくである。事業所レベルでの労働者参加の進行の形態と意義の多様性ならびに根底における共通項は,企業レベルでの労働者参加の進行についてと共通するところが多い。…

【労働組合】より

…彼らは官僚化した組合幹部に対し一般組合員の草の根民主主義を代弁する役割を担っているが,他方その主張がごく限られた職場や,あまりにもセクト的観点に依拠し,しばしば全体としての力の結集に欠ける面があることも否めない。 それに対し西ドイツでは共同決定法,経営組織法などの法律によって,ほぼすべての経営で経営評議会Betriebsratの設置が義務づけられ,それに経営レベルでの被用者の利害を独占的に代表し,経営側と協議する広範な権限を与えている。経営評議会は当該企業の全従業員によって選出される,労働組合とは法的にはまったく別個な組織である。…

※「共同決定法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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