絶対者(読み)ゼッタイシャ(その他表記)the Absolute

デジタル大辞泉 「絶対者」の意味・読み・例文・類語

ぜったい‐しゃ【絶対者】

哲学で、他の何ものにも依存せず、無制約的にそれ自身において存在する最高の超越的実在。絶対的なもの。無制約者

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精選版 日本国語大辞典 「絶対者」の意味・読み・例文・類語

ぜったい‐しゃ【絶対者】

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] the Absolute の訳語 ) 哲学で、あらゆる有限の差別対立・制約を離れ、感性的現象の世界を越えてそれ自体で存在し、しかも、世界を根底において成り立たせているもの。絶対的なもの。たとえば、神・実体スコラ哲学ライプニッツスピノザなど)、あるいは絶対我(フィヒテ)、あるいは絶対精神ヘーゲル)、あるいは意志(ショーペンハウアー)など。
    1. [初出の実例]「絶対者は自然及精神として発現す。従て哲学は自然哲学と精神哲学との二に分る」(出典:西洋哲学史要(1901)〈波多野精一〉近世哲学史)

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改訂新版 世界大百科事典 「絶対者」の意味・わかりやすい解説

絶対者 (ぜったいしゃ)
the Absolute

他のものに依存せず,自立的・自発的で自在であり,条件や制約による制限を知らず,完全で究極的な存在をいう。古代以来のフュシスコスモスとしての宇宙,善のイデア等の実体,一者(ト・ヘンto hen),中世以来の神などは,人間を超越する勝義の絶対者である。近世以降では,精神,理性,自我性,人間性,さらには人間に無条件の服従と承認を迫る理念,知・信念などが,人間界における絶対者として登場する。〈絶対absolutus〉とは元来〈解き離された〉を意味し,ここから独立的・自存的の意味となり,明治10年代以来〈絶待〉とも訳された。これが〈相対・相待relativus〉と対比されるのは,古代ローマ人以降のことである。また,神が絶対者と等置されるのはニコラウス・クサヌスを初めとする。絶対者の認識は,それ自身によって知性的に把握されるとするか,有限な相対者の規定を上昇的に否定することによるか,悟性的知性による分析・判断・言表を高次の理性的直覚によって断ち切るか,突発的な覚醒によるかである。無限なもの,永遠なものと等置された絶対者を,歴史の過程を通してみずからを実現し自覚してゆく絶対者としたのはヘーゲルの功績である。また,ヘーゲルでは個物すなわち有限者が把握されぬとし,個物の相互限定の場所として絶対者の働きを見ようとしたのが,西田幾多郎の場所的弁証法の試みであった。一般に,西洋の絶対者は自然と人間との対立を支配する世界根拠としての超越的存在と考えられ,日本では絶対者は人間を包越する自然に内在する原理として,これを心の奥底への沈潜において無ないし空として観照する傾向があったと言えよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「絶対者」の意味・わかりやすい解説

絶対者
ぜったいしゃ
absolute 英語
absolu フランス語
Absolute ドイツ語

相対者の反対概念。それ自身において存立し、他の何ものによっても制約されず、限界づけられないものをいい、「無制約者」das Unbedingteともよばれる。シェリングにおいて、絶対者は精神と自然の両者の根底に存する無差別的な同一者として、有限な世界を限りなく超越したところに求められた。これに反し、ヘーゲルは、有限者に対立するものは絶対者ではなく、それ自身一種の有限者にすぎない、真の絶対者はあらゆる差別を含んだ同一者、有限者を含んだ無限者であると考える。彼において絶対者は、発展的に歴史的世界において自己を実現してゆくものであり、いわば精神として把握されていたのである。

[伊藤勝彦]

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世界大百科事典(旧版)内の絶対者の言及

【神秘主義】より


【定義と特質】
 英語のmysticismなど〈神秘主義〉と訳される西欧近代語は,語源的には,〈(目あるいは口を)閉じる〉という意味のギリシア語myeinに由来するといわれる。それによってすでに通常の表現を許さない経験が示唆されているが,神秘主義とは,神,最高実在,宇宙の究極的根拠などと考えられる絶対者を,その絶対性のままに人間が自己の内面で直接に体験しようとする立場をいい,さまざまなバリエーションをもって広く宗教史のうちにあらわれている。 神秘主義の根本特質は,術語的に〈神秘的合一(ウニオ・ミュスティカunio mystica)〉といわれる絶対者と自己との合一体験にある。…

【仏教】より

…真理が絶対で,ブッダを通じて開顕されるということは,真理がキリスト教などの〈神〉の地位に代わるものであることを示す。しかし,仲介者,教主としてのブッダはキリスト同様一人であるとしても,覚者たることが万人に開かれているのは,絶対者が非人格的な真理である点とともに,仏教の特色である。ここでいう釈迦が悟った真理を仏教ではダルマ(法)と呼び,仏の教えはその真理を内容とするので,同じくダルマ,あるいは法と呼ばれる。…

※「絶対者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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