ガラスあるいは合成高分子でできた眼の形をしたもので,外傷や手術によって眼球を摘出したあとや,炎症などによって眼球が萎縮した場合,また,生まれつき眼球が異常に小さいときなどに用いる。したがって,視力とは関係がなく,義手や義足のように機能面に役立つことはなく,おもに見かけをよくするために使うものである。
使用する個人別に型や虹彩,強膜の色などを特別に調製する特殊義眼と,既製品の義眼である普通義眼とがある。普通義眼の場合には,すでにできている義眼の中から合うものを選ぶが,特殊義眼の場合には,眼の形ばかりでなく,よいほうの眼の色に合わせるなどするために自然な感じが得られる。近年,合成樹脂の発達により精巧なものができ,義眼を装用していることがわかりにくいものも多い。しかし,眼球を摘出してあると,義眼の動きが悪く,反対眼の眼の動きと一致しないために不自然にみえることがある。この欠点を除くものとして,可動性義眼がある。これは,眼球を摘出するときに義眼台を埋めこみ,義眼台と眼を動かす筋肉と連絡させて,義眼台の動きにともなって義眼が動くようにしたものである。義眼台に永久磁石を入れ,義眼にも磁石を入れると,義眼台を結膜で被ってしまっても,義眼の動きは得られる。眼球を摘出しないで,内容だけを除去したり,眼球が萎縮したまま保存されていれば,義眼の動きはある程度得られ自然な形となる。眼球の形があり,角膜の混濁が強いような場合には,コンタクト義眼といって,角膜上だけ,あるいはうすい強膜をつけた義眼が用いられる。そのほか,見かけをよくする以外の目的で用いられるものに,手術用義眼,燃える義眼,X線防護義眼,X線撮影用義眼などがある。手術用義眼は,眼球摘出などしたあと,義眼を入れるまで眼の形を保つ目的で使用するもので,結膜囊の萎縮を防ぐものである。燃える義眼は,角膜移植用に死体眼を摘出したあとに用いるものである。X線治療のときに眼球を保護するX線防護義眼は鉛が入っている。また,X線撮影用義眼は,眼球内の鉄などの異物の位置を測定するとき使用する。通常,義眼は,眼の周囲にとくに問題がない場合に用いられるもので,義眼を入れても眼瞼の開閉には支障がない。しかし眼瞼やその周囲の変形が著しい場合には外装義眼を使用することがある。外装義眼は眼球ばかりでなく,眼瞼もいっしょにやわらかい特殊なプラスチックでつくられており,くぼんだ眼窩(がんか)部に直接はめこんで使う。このため,眼球ばかりでなく眼瞼も動かすことができないが,外貌はかなり改善される。
現在の義眼にはほとんどほんとうの眼と区別がつかないものもあり,片眼が萎縮しているために就職がむずかしかった人が,義眼装用で無事就職が決まったというように,とくに片眼が正常な場合には,義眼を装用すればふつうの人となんら変わらない生活を送れるようになる。身体障害者の補装具として,義眼の購入には公的な補助金の交付が受けられるので積極的に義眼装用を行うことが望ましい。義眼を装用しないままにしておくと,目やにも多く出たり,見かけも悪く,眼窩もくぼんでくるので,とくに先天性の病気の場合や子どもでは,大きくなってから義眼を装用しようとしても入りにくくなるから,できるだけ早くから装用させたほうがよい。
ギリシア時代に彫像に用いられたという記載があるが,義眼自体が隠すために用いられるので,公式な記録は少ないといわれている。このギリシア時代のものは,象牙または石,金属製のもので,美術品としてつくられたといわれる。人間ではじめて義眼を使った記録としては,16世紀にフランスで用いられた例があり,金属製のものらしく,18世紀になってはじめてガラス製のものがつくられた。19世紀には義眼師なるものがあらわれたという。日本では後奈良天皇のころ(16世紀)にはじめてつくられたようであるが,本格的には1924年から研究が開始され,30年ころに義眼材料ガラスが完成された。その後合成樹脂の発達により,先にも述べたように精巧な義眼がつくられるようになった。
執筆者:久保田 伸枝
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悪性腫瘍(しゅよう)(網膜芽細胞腫など)のために眼球を摘出したり、各種の眼病(全眼球炎など)によって眼球が軟化縮小して失明する眼球癆(ろう)の状態になったときなどに、外観を整える目的で結膜嚢(のう)に入れる人工の目をいう。眼球の前半部に非常によく似ており、初期ではガラス製であったが、現在では大部分がプラスチック製である。眼球摘出後に挿入された義眼は通常動かないが、側方を見たときに目だつ健眼との眼位の差を緩和させるために可動性の義眼がくふうされた。眼筋のうちの四つの直筋のなかに、眼球の後半部に相当する容積をもった台を挿入し、これに眼筋が付着するようにして健眼とともに動かすわけである。この義眼台の動きを義眼に伝えるため、突起や磁石が利用されている。可動性義眼は自然の外観に、より近くなる利点がある反面、義眼が脱落したり、義眼後面と結膜の間に死腔(しくう)ができて感染をおこしやすいなどの理由から、あまり普及していない。
なお、眼球萎縮(いしゅく)時に眼球の上にかぶせて使用する一重義眼の動きはよい。また、ひどい角膜の白斑(はくはん)を覆い隠すために使用するコンタクト義眼もある。最近、オーダーメイドで健眼の虹彩(こうさい)や瞳孔(どうこう)とまったく同じ義眼の製作が可能になってきた。
[箕田健生]
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