翻訳|conjunctiva
眼球とまぶたを結びつけ,まぶたの裏打ちをする粘膜。眼球運動やまばたきを滑らかに行わせる。強膜上の結膜を球結膜,まぶたの裏,瞼板上を覆っている部分を瞼結膜,両者の移行接続部を円蓋部結膜という。瞼結膜は瞼縁部で皮膚の上皮に移行し,球結膜は角膜輪部で角膜上皮に移行する。また瞼裂部を入口として,結膜と角膜でつくられる大きなくぼみを結膜囊 conjunctival sacという。主涙腺は上方円蓋部に,副涙腺は多くは上方,一部が下方円蓋部に開口し,涙を分泌する。結膜上皮は重層の扁平および円柱上皮からなり,その内側は結膜実質で結合組織からなる。結膜実質は,瞼結膜では瞼板に密着し,円蓋部結膜では眼窩(がんか)中隔にゆるくつながり,球結膜ではテノン組織へとつながる。結膜上皮の浅層には杯細胞(さかずきさいぼう)があり,粘液を産生する。角膜は,この粘液,涙液および瞼板マイボーム腺からの油液の3者で潤され,透明性を保つ。結膜の働きはこのように,それ自身が分泌機能をもちつつ,眼球を柔らかく包むことにある。したがって,この機能が失われると重篤な疾患となる。
(1)結膜乾燥症conjunctival xerosis 結膜の代表的な病気。原発性のものと続発性のものに分けられるが,原発性のものは,涙腺の萎縮により涙液の分泌が低下するために起こる。これは同時に唾液腺も萎縮するので口も渇く。さらにリウマチによる関節炎症状をも伴い,全身的にはシェーグレン症候群Sjögren syndromeと呼ばれ,眼科的には乾性角結膜炎keratoconjunctivitis siccaと呼ばれる。続発性の結膜乾燥症には,酸,アルカリ等による薬傷,トラコーマ後遺症としての結膜の瘢痕(はんこん)化によるもの,薬剤アレルギーによって発症するスティーブンズ=ジョンソン症候群Stevens-Johnson syndromeによるもの,あるいは,日本では少ないが,ビタミンA欠乏症によるものがある。いずれも乾燥感,痛み,視力低下を伴うが,各種治療によってもよくなりにくい厄介な病気である。
(2)結膜炎conjunctivitis 充血,目やに,かゆみを伴うポピュラーな疾患。原因によって一般細菌によるもの,ウイルスによるもの,アレルギーによるものに分類され,臨床経過によって急性,慢性に,病型によってカタル性,濾胞性,偽膜性などに分類される。これらの結膜炎のうち,伝染力の強い点から重要なのはウイルスによるものである。アデノウイルス8型の感染による流行性角結膜炎epidemic kerato-conjunctivitisは,俗に〈はやり目〉と呼ばれるもので,5~14日の潜伏期を経て発症し,強い充血,目やにをもたらし,耳前リンパ節がはれる。乳幼児では滲出物が白い偽膜をつくる。病変が角膜に及ぶと,角膜上皮下に小さな斑状の混濁が多発し,長期にわたり軽い視力障害を伴う。咽頭結膜熱pharyngo-conjunctival feverは,同じアデノウイルスの3型によるもので,学校やプールなどで流行性に発症するため〈プール熱〉とも呼ばれる。5~6日の潜伏期の後に風邪の症状とともに発症する。急性出血性結膜炎acute hemorrhagic conjunctivitisは,エンテロウイルス70によるきわめて強い伝染力をもつ疾患で,1971年以来日本にもみられる。1969年ガーナで大流行したが,その直前にアポロ11号の月への飛行が行われたことから,俗に〈アポロ病〉〈アポロ熱〉などともいわれる。潜伏期が約1日と短く,経過としても約1週間で治癒する。伝染力の強さと,ごくまれに四肢の麻痺をおこすことがあるので注意を要する。これらウイルスによる結膜炎では,現在ウイルスに対して有効な薬がないため,治療は対症療法にとどまり,基本的には体内にできる抗体による自然治癒に期待しているのが実情である。一般細菌による結膜炎は,抗生物質の発達とともに少なくなり,経過良好のものが多い。アレルギー性結膜炎は,花粉やダニによるものがあり,季節的発生をみる。鼻炎とともに強いかゆみを伴う。春季カタルvernal conjunctivitisは,アレルギーによる結膜疾患で,結膜面上に石垣状の増殖物(乳頭増殖)をつくる。6,7歳から20歳くらいにみられ,春から初秋に悪化する。軽症のものはかゆみ,目やに程度であるが,重症化したものは角膜潰瘍をつくり,難治となる。副腎皮質ホルモン剤は有効であるが,かえって重症化させることもあり,使い方には注意を要する。これらのほかに,結膜炎の代表的なものとして,かつてはトラコーマがあったが,日本では激減している。
(3)その他の病気 外的刺激によっておこる結膜疾患として翼状片pterygiumがある。おもに鼻側,ときに耳側からも結膜が角膜上にまで増殖するもので,海浜の住民や戸外での業務に従事する人などに多いことから,風にさらされるなどの外的要因が原因と推定される。視力を妨げるほどになることは少ないが,瞳孔に近づくようであれば切除しなければならない。
→目(眼)
執筆者:佐藤 孜
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
上下の眼瞼(がんけん)(まぶた)の裏側を覆い(瞼結膜)、奥で折れ返って眼球の強膜を覆う(球結膜)粘膜である。折れ返る部分を円蓋(えんがい)部という。眼瞼と眼球を結ぶ粘膜ということから名づけられた。結膜上皮は角膜上皮に連続しているが、角膜周囲付近は重層扁平(へんぺい)上皮、その他では円柱上皮である。角膜と結膜で袋状に囲まれたスペースを結膜嚢(のう)というが、ここには涙腺(るいせん)から涙が分泌され、いつも湿潤状態にある。球結膜の鼻側部分は厚い肉色をしたひだとなり、半月皺襞(しゅうへき)という。また、結膜上皮層には杯(さかずき)細胞という粘液を分泌する細胞がある。結膜下層の結合織を結膜下組織とよび、球結膜では角膜周囲を除いて粗であり、眼球運動を妨げないようになっている。
[内田幸男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…眼球の構成要素のうち,網膜,視神経,色素上皮,毛様体と虹彩の上皮は中枢神経の一部である眼胞optic vesicleがもとになって形成される。水晶体,角膜の上皮,結膜の上皮は外胚葉性の表皮由来であり,角膜の支質と内皮,強膜,脈絡膜,毛様体と虹彩の上皮以外の部分は中胚葉性の間充織由来である。眼胞は前脳胞の側壁の一部が外方にふくれ出したもので,頭部の表皮と接している。…
※「結膜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新