翻訳|sclera
かつては鞏膜とも書いた。角膜とともに眼球の外壁を構成する強靱(きようじん)な膜。いわゆる白目は強膜の一部である。直径約24mmの球状で,前方は角膜に連なり,後方は視神経の被膜のうち,硬膜から続く層に連なる。厚さは視神経周囲で最も厚く1.0mmあるが,眼筋の付着部の筋肉下では0.3mmと薄い。組織学的には,角膜実質と同様コラーゲン繊維からなるが,その太さは300~3000Åと不ぞろいであり,走行も不整のため,透明性がない。強膜は,内側ではぶどう膜(脈絡膜,毛様体,虹彩)と接し,外側は,結膜,テノン組織,脂肪組織で滑らかに包まれる。このため,腱を介して付着する6本の外眼筋の作用によって,眼球は滑らかに各方向に回転することができる。強膜の後方では,視神経と網膜中心動静脈が,内側強膜からなる篩状板lamina cribrosaを貫き,脈絡膜への短毛様動脈が視神経の周囲で,また前方では,長毛様動脈が角膜輪部(強膜が角膜へ移行する部分)近くで強膜を貫く。ぶどう膜からの静脈(渦静脈)も赤道部付近を貫く。しかし強膜自体は,単純な構造からなる支持組織で,血管は乏しく,病気は比較的起こりにくい。
病気の主体は,先天的素因によるもの,膠原(こうげん)病性の炎症,外傷である。強膜には,眼内圧と均衡を保つべく,つねに張力がかかっている。先天的な異常によって強膜が薄く弱い場合は,強膜はしだいに引き伸ばされ,薄い強膜を通してぶどう膜が透見される。これが青色強膜blue scleraである。また強度近視でも,眼軸が伸ばされ,長円の眼球となって強膜は伸び,薄くなる。
強膜炎scleritisおよび強膜上の結合組織に起こる上強膜炎episcleritisは,強い充血とともに,疼痛,羞明(しゆうめい)(まぶしがること),流涙,異物感を伴う。結核,リウマチに関連するものも多いが,原因がわからないことも多い。病変組織内に単球,リンパ球の浸潤がみられ,またステロイド剤がよく効くことから,アレルギー要素の強い病気と考えられる。炎症が治癒しても,強膜が薄くなると,部分的に強膜が伸び,強膜ぶどう腫の状態となる。
→目/眼
執筆者:佐藤 孜
角膜の周囲の色素を欠く強膜は白目とよばれ,虹彩が透けてみえる角膜の部分,すなわち黒目と明瞭なコントラストを示す。ヒト以外の動物では,この部分の強膜は虹彩に近い色調に着色し,白目は存在しない。ヒトの白目は,視線の方向を明示し,〈気があれば,目も口ほどにものをいひ〉という江戸時代の川柳のように,繊細なコミュニケーションに役立っている。ヒト以外の動物に白目がないのは,他の個体や動物に視線の方向を知られることが生存に不利に働くからだと考えられる。いいかえれば,ヒトで白目が発達したのは,視線によって自分の注目の対象や意図を仲間に常時伝えることで得られる利益が不利益を上回るような,互恵的な社会をヒトがもつようになったからだと考えられる。また,対象によって異なるメッセージを伝える目配せや流し目など,ヒトが重層化した複雑な社会をもつようになったことと関係するコミュニケーション方法にも,白目の存在に依存しているものが多い。
執筆者:多賀谷 昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
眼球の外壁の大部分を占める白色不透明な膜で、いわゆる白目は透明な球結膜を通してこの膜がみえることによる。前方は透明な角膜に移行し、後方は視神経によって貫かれている。組織の大部分は膠原線維(こうげんせんい)からなり、間を埋める基質はコンドロイチン硫酸を含む。厚さは約1ミリメートルであるが、4本の直筋が付着する部分では約0.3ミリメートルと薄い。以前は鞏膜という字が使われた。
[内田幸男]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…角膜は透明であるため,外から見るとその奥にある虹彩irisが見え,中央が瞳孔となっている。角膜は周辺部では不透明となり強膜に続く(強膜への移行部を角膜輪部という)。強膜の曲率は角膜よりゆるく,眼球を輪切りにすれば,強膜の大きな円の一部に角膜が突出した形となる。…
…
[脊椎動物]
ヒトをも含めて,脊椎動物の側眼はほぼ球形の眼球とその前方にレンズを備えた形状から,カメラ眼と呼ばれる。眼球の壁は,外側から内側に向かって,強膜,脈絡膜,網膜という3層構造をなし,前方の強膜は透明になって少し突き出し,角膜となる。また脈絡膜の前縁は小さなひだ状の毛様体となり,透明な繊維でできたチン小体を介して水晶体に連なる。…
※「強膜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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