国民が1年間に保険診療の対象として使った病気やけがの治療の費用を集計した数値。医科、歯科の診療費に加え、薬の調剤費や訪問看護の費用、入院時の食事代や生活にかかった費用なども含まれる。国民医療費より1年早く公表されるのは概算医療費で、国民医療費の98%程度を速報として集計しているが、労災保険や全額自費によるものなどは含まれていない。
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国民が1年間に医療機関で保険診療の対象となりうる傷病の治療に要した費用を厚生労働省で推計したもの。この額には、医療保険における医科および歯科の診療費、薬局調剤医療費、入院時食事・生活療養費、訪問看護医療費・療養費のほか、医療保険が適用される移送費、柔道整復師・はり師等による治療費、補装具の費用が含まれるが、正常な妊娠・分娩(ぶんべん)、健康診断、予防接種、固定した身体障害のために必要な義眼・義肢等に要する費用、市販薬は含まれない。患者一部負担(窓口負担)と全額自費で支払った費用(自賠責保険による支払い、保険診療の対象となる治療の費用を全額自費で支払ったもの)は含まれるが、保険外併用療養費(評価療養、患者申出療養、選定療養)において保険診療に相当する部分の費用以外の患者負担となる費用は含まれない。また、生活保護法等による公費負担医療、労災保険法による医療費は含まれるが、介護保険法における訪問看護費や居宅・施設サービスなどの費用は含まれない。
国民医療費は、医療費の規模を示す代表的な指標で、1954年(昭和29)から毎年算出されている。マクロ経済的な指標として、対国民所得比や対国内総生産比がよく使われる。国民医療費の推移をみると、1960年度には4095億円(国民1人当り医療費4400円、対国民所得比3.03%)であったが、1980年度11兆9805億円(10万2300円、5.88%)、2000年度(平成12)30兆1418億円(23万7500円、7.73%)、2010年度37兆4202億円(29万2200円、10.26%)、2020年度(令和2)42兆9665億円(34万0600円、11.45%)と増加を続けている。国民医療費の増加要因としては、医療の高度化、人口の高齢化、制度改正および診療報酬改正の影響があげられるが、なかでも最近は医療の高度化(新しい薬剤、医療機器、医療技術等の開発。「医療の高度化を含む自然増」ともいわれる)によるところが大きい。
国民医療費を医療保険(被用者保険、国民健康保険)の給付分、後期高齢者医療による給付分、患者負担分(窓口負担分や自費診療分等)、公費負担医療給付分(生活保護等の公費で負担する医療分)に分けると、2014年度は被用者保険22.4%、国保23.8%、後期高齢者医療32.8%、患者負担12.4%、公費負担医療7.4%となっている。2020年度における同じ指標をみると、それぞれ24.0%、20.4%、35.6%、12.1%、7.3%となっており、被用者保険と後期高齢者医療の給付分が増加しているのが認められる。
また、2020年度の国民医療費の負担と内訳をみると、負担は保険料が49.5%(被保険者28.2%、事業主21.3%)、公費負担38.4%、その他12.1%(患者負担11.5%ほか)となっている。医療保険では患者負担が、義務教育就学後70歳未満3割、義務教育就学前2割、70歳以上75歳未満2割(ただし現役並みの所得者3割)、75歳以上1割(現役並み所得者3割)とされているが、高額療養費制度により大幅に軽減されていることがわかる。内訳については、入院38.0%、外来33.6%、歯科7.0%、薬局調剤17.8%となっている。これを費用構造でみると、医師・看護師・薬剤師など医療従事者の人件費が47.0%、医薬品・医療材料費が28.4%、光熱費・賃借料・委託費・その他が24.7%となっており、医療が労働集約的な特性を有していることを示している(2021年度予算ベース)。今後、国民医療費はさらに増加していくことが見込まれているが、世代間の負担の公平、現役世代の負担可能な水準、国庫負担のあり方、財源としての安定性などについて国民的合意を得ることが求められている。
[土田武史 2023年8月18日]
『二木立著『日本の医療費――国際比較の視角から』(1995・医学書院)』▽『井伊雅子「医療費の範囲と「国民医療費」」(橋本英樹・泉田信行編『医療経済学講義 補訂版』所収・2016・東京大学出版会)』▽『医学通信社編・刊『医療費の早わかりBOOK 2020-2021年版』(2020)』▽『厚生労働省編『国民医療費』各年版(厚生労働統計協会)』▽『健康保険組合連合会編『図表で見る医療保障』各年版(ぎょうせい)』▽『厚生労働統計協会編・刊『国民衛生の動向』各年版』
全国民が1年間に傷病治療のために支出する費用の総額をいう。これは日本の医療機関での傷病治療に対する支出であるため,診療報酬額,薬剤支給額のほか健康保険等で支給される看護費,移送費を含んでいる。したがって国民医療費は第1に国内での傷病治療費であるという意味で属地主義の概念であり,第2に傷病治療費に限られているため正常妊娠・分娩の費用や健康の維持増進を目的とした健康診断・予防接種等の予防的費用を含まず,第3に身体障害者用の義眼・義肢等の費用を含まず,第4に医療保険により治療を受ける入院患者が負担する室料差額分や歯科差額分など,保険給付の対象とならない費用も含んでいない。また推計方法の改正により,かつては含まれていた買薬・あんま等の費用が1973年の推計値以来除外されることになり,国民医療費の範囲はさらに狭いものになった。
日本の国民医療費は1961年の国民皆保険政策以来1981年までは5年ごとに倍増するペースで急増し,その後も5年ごとに20~30%の増加を示している。これは第1に医療保障の充実,第2に人口高齢化,第3に医療技術の進歩によるものであるが,今後はさらにいっそうの高齢化が予想されるため,予防等の保健部門を充実し,医療費の効率化を図るとともに,健康水準の上昇を推進していく必要がある。
→医療費
執筆者:地主 重美
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(梶本章 朝日新聞記者 / 2007年)
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…前者は個人や個人の家計が保健医療のために負担する費用であり,これには,一定期間の医療保険の一部負担,買薬費,医療器具・材料品費,全額自己負担医療費等の直接的費用のほかに,差額ベッド料金や付添看護料,医師・看護婦へのお礼の金品代等の間接的費用も含まれている。これに対して後者は国民医療費とよばれ,原則上,一定期間に一国全体で傷病の治療に支出された直接的費用の総額が含まれている。
[医療の特性と医療費]
医療サービスには他の一般商品とは異なるきわだった特性がある。…
※「国民医療費」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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