企業内の各職務の価値を評価し、格づけする方法・手続。職務ごとの賃率の決定過程でそれらの間のバランスをとるために利用されるが、賃率の水準(高さ)自体を決めるものではない。職務評価に基づく賃金支払形態は、日本では職務給とよばれている。
まず各職務の内容や性質が職務分析によって確定され、職務記述書にまとめられたのち、必要とされる知識・技能、精神的・肉体的負荷、責任、作業条件などの要素に基づいて、各職務の「相対的な価値」が評価される。その評価方法としては、非定量的方法として序列法、分類法があり、定量的方法として点数法(得点要素法)、要素比較法がある。そのうちもっとも普及しているのは、点数法である。
序列法は、各職務をそのままで相互に比較して序列を決めていき、分類法は、あらかじめ重要度や困難度などにより等級表をつくり、これに全職務を分類するものである。点数法は、職務の各要素について採点し、その総合点で評価する。要素比較法は、その企業の基準職務の各要素ごとの序列を決め、現行賃率をもとにそれぞれ金額で表示し、そこに各職務を要素ごとに格づけしてその要素の金額の合計で評価する。
職務評価という手法は第一次世界大戦後のアメリカで開発されたが、その一般的な普及は第二次世界大戦以降のことである。日本へは1950年代から1960年代にかけて鉄鋼、電機の大企業などで職務給制度とともに導入された。
職務評価はまた、女性や非正規労働者の賃金差別是正のために利用できる手法として注目されている。ILO(国際労働機関)の「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」(第100号、1951年採択。日本は1967年批准)は、この原則の実施に有効な場合には職務評価の利用を推奨し、2008年にはガイドブックも刊行された。実際、カナダなどではこのガイドブックが活用されている。日本の厚生労働省も2007年(平成19)パート労働法改正時の国会附帯決議に基づき、パートタイマーの「均等・均衡待遇の確保」のため、事業主の支援施策として「職務分析・職務評価実施マニュアル」などを作成し提供している。
[浪江 巖]
2020年(令和2)4月にはパート労働法の改正法である「パートタイム・有期雇用労働法」が施行され、有期雇用労働者も同法の対象に含まれることとなった。
[編集部 2021年3月22日]
『笹島芳雄著『アメリカの賃金・評価システム』(2001・日経連出版部)』
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…もともと1930年代以降アメリカの大企業や官公庁など,多数の職種をかかえた経営体で採用されるようになった賃率設定のための技術である。まず(1)経営体のなかのさまざまな職務について,仕事の質・量,内容,方法,作業を遂行するのに必要な資格条件,作業条件を記述し,作業の範囲,量,資格条件などを確定すること(職務分析),(2)その結果を各職務に必要な責任,努力,教育・訓練の程度,生理的・心理的条件・環境などの評価要素により,相対的に評定し,職務を分類すること(職務評価・職務分類),(3)それに基づいて職務等級に格付けし,賃率を結び付ける賃金表を作成すること,(4)各職務に従業員を配置するための昇進試験,人事考課の諸制度をつくり昇給・昇進管理のルールを設定すること,である。 日本では,職務給は十条製紙が1952年に導入したのが最初である。…
…とはいえ,普通一般に行われている職務分析は差異よりも共通点のほうが多い。 分析目的に関しては,(1)合理的な分業・協業を可能にする組織管理への利用,(2)定員管理への利用,(3)従業員の採用・配置・異動・昇進など雇用管理への利用,(4)教育必要点の発見,(5)実績考課や能力・適性考課の要素・基準の決定など人事考課への利用,(6)企業内の個々の職務の価値の相対的序列を決定し,それに基づく賃金配分の合理的な基準を確立する職務評価への利用,などがある。アメリカの労働省は,職業指導・職業紹介業務の原典である《職業辞典》を世界に先駆けて作成したが,その際第1次大戦から第2次大戦にかけてのさまざまな職務分析の発展と経験の成果を取り入れ,《職務分析手引Training and sekaidaihyakka_reference Manual for Job Analysis》(1944)を発表し,その中で職務分析を次のように定義している。…
※「職務評価」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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