改訂新版 世界大百科事典 「職場委員」の意味・わかりやすい解説
職場委員 (しょくばいいん)
労働組合役員のうち,みずからも就業しながら一般組合員と日常的に接して活動しているものの呼名。名称は組合によってさまざまであり,役割も組合組織の構造によって異なっている。イギリスのショップ・スチュワードshop steward,アメリカの苦情処理委員会の委員committeemanなどがこれに相当する。
イギリスで労働組合がクラフト・ユニオン(職業別組合)として組織されていた時代には,組合員が多くの事業所に分散していて,組合業務は地域組織ごとに遂行されていたので,組合費の徴収や加入の勧誘あるいは労働条件の監視など,職場の活動は一般組合員の中の有志が行っており,これがショップ・スチュワード(組織によってはfather of the chapel,checkweigherなど)と呼ばれた。労働組合組織が熟練・不熟練の区別なく全従業員を組織する産業別組合になると,組合の活動は企業を単位とすることになるため,職場代表の役割が重要となり,正規の組合役員として職場委員に相当するものが置かれ,従来の活動に加えて争議の指導や協約の適用・解釈をめぐる使用者との折衝・協議を担当することになった。近年では企業や職場単位で労働条件の改善の交渉を行うようになっている。他の欧米諸国でもほぼ同様の展開を遂げているが,イギリスでショップ・スチュワードが全国組織の指示から離れて独自の活動をすすめる傾向が強いのに対して,アメリカでは上部機関の代行者としての性格が強く,任免権も上部機関が掌握しているという違いがある。
ドイツでは,労使関係が労働組合と使用者の交渉関係を中心とする制度と,経営評議会を通じての従業員の経営参加制度を中心とする制度とに二分されており,企業内は主として経営評議会が問題解決の主体であるため,職場委員は労働組合役員ではなく従業員代表であり,経営評議会委員として選出されている。職域ごとに選挙され,協議に参加するとともに,その代表が会社の意思決定機関である監査役会に従業員代表として参加する。しかし近年は労働組合が職場交渉を重視し,経営評議会への浸透をはかっており,法制上も制限が緩められたので,経営評議会委員は労働組合員代表である傾向が強くなっている。
日本の労働組合は企業別組合であるので,広い意味では単位組合の役員はすべて欧米の労働組合の職場委員に相当する。しかし一般には,執行委員と区別し,各部署ごとの組合活動や意見集約を任務とする組合員代表を職場委員と呼んでいる。機構上は組合の意思決定機関である中央委員会,代議員会などの委員を兼ねる場合も多く,執行部と一般組合員の橋渡し的役割を帯びている。現場協議制がある場合には,使用者側と折衝・協議して具体的な労働条件の決定に参与する例もみられる。一般に無給であるが,就業時間上の特権を認められている例も少なくない。
執筆者:栗田 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報