肛門の外傷といえる病気です。硬い便により肛門が切れて生じます(図13)。
排便に痛みが伴いますが、出血はわずかです。女性に多くみられ、肛門の病気としては女性では
硬い便の排出で、肛門をおおっている肛門上皮という、伸展性がなく傷つきやすいデリケートな部分が切れます。とくに裂肛の好発部位である肛門後方は血流が乏しいことで知られていて、切れやすい部分といえます。
切れると痛みを強く感じ、痛みを感じた瞬間に肛門を囲んでいる
このようなことからトイレへ行くのが嫌になり、したがって便秘が悪化し、便がさらに硬くなり、肛門をより深く傷つける結果となります。肛門が深く切れると肛門を常に締めている内括約筋に炎症が及び、肛門が狭いままで固まってしまうようになります(肛門狭窄(きょうさく))。
そのためにますます便秘になり、肛門が切れやすくなるということを繰り返し、病気が進行していきます。
特徴的なのは痛みです。排便の時、かなり強い鋭い痛みを感じ、排便するのが嫌になるほどです。排便後もジーンとした痛みが、内括約筋がけいれんしている間は続きます。
出血はきれいな赤い血で、概して紙に付く程度のわずかなことが多いのですが、時にポタポタとかなり量が多いこともあります。
裂肛が慢性化すると肛門
潰瘍部分に絶えず汚物がたまる状態となるために、炎症性に潰瘍部分の口側には肛門ポリープが、肛門側には皮膚の突起した見張りイボ(
裂肛が新しく、慢性化していない時期では、保存的に治療します。
排便時の痛みがひどく、薬を使っていてもなかなか治らなかったり、いったん治っても裂肛を繰り返す場合は、狭くなった部分を解除する内括約筋側方切開を行います(図15)。
これは肛門狭窄部を解除することで裂肛の痛みを和らげたり、肛門を切れにくくする方法です。肛門のまわりの皮膚から細いメスを挿入して、狭くなった内括約筋の一部を切開するもので、外来で1~2分程度のわずかな時間で行えます。
裂肛が完全に慢性化し、肛門ポリープや皮膚痔を伴って狭窄がひどい場合は、入院して手術を行います。手術は肛門ポリープや皮膚痔を切除後、狭くなった部分を切開して広げ、そのあとに粘膜皮膚縫合を行い、皮膚を肛門内に移動しカバーする方法(皮膚弁移動術)が一般的に行われています。
そのほか、最近試みられるようになった治療として、括約筋を手術的に切開するのではなく、内括約筋を一時的に
裂肛の痛みを和らげるために便通を整えます。便秘で硬い便にしなければ、肛門は切れることもなく、また裂肛が進むこともありません。食事は繊維を多く含んだものを食べるようにし、水分も十分にとります。便が軟らかすぎて下痢であっても、よくありません。軟らかすぎると裂肛部分に汚物が付着しやすくなり、傷の治りが遅れます。暴飲、暴食を避け、規則正しい生活を送るようにします。
排便後の肛門衛生にも留意します。裂肛部分に汚物が付着したままでは痛みが続きますし、治りも悪くします。排便後はきれいに温湯で洗います。
坐薬、軟膏などの外用薬、緩下剤などの内服薬も効果があります。生活上の注意で治らない場合は、薬の使用を考えるべきです。
裂肛が慢性化し、便が出にくくなっているならば外来処置を受けるべきです。肛門外に脱出する肛門ポリープや、皮膚痔を伴い狭窄がひどいようならば入院手術がすすめられます。
岩垂 純一
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
肛門管(直腸下部から肛門縁にかけての部分)に縦方向の亀裂が入った状態をいう。俗に〈きれ痔〉とも称するが,医学的には〈痔疾〉とは別の病気である。原因は明らかではないが,硬便による過剰な肛門の伸展,慢性下痢,下剤の長期連用や分娩時の外傷などがあげられる。通常は肛門後壁中央部に発生するが,前壁中央部にも発生する。症状は疼痛と出血である。疼痛はきわめて強く,切られるような,裂けるような,あるいは焼けるような痛みである。出血は鮮紅色で量は少なく,一般にトイレットペーパーにつく程度である。これらは排便時に起こり,疼痛は排便後に軽減するのが普通であるが,その後に肛門括約筋の痙攣(けいれん)が起こると,いっそう強い疼痛が残ることがある。このため排便に対する恐怖心も加わり,規則的な排便習慣が乱されることになる。裂肛は慢性化する傾向があり,長年にわたって悪化と軽快を繰り返し,その結果,楕円形の潰瘍を形成するようになる。これが肛門潰瘍anal ulcerである。治療は必要に応じて温座浴を行い,麻酔作用のある軟膏を用いる。加えて適切な食事と規則正しい排便習慣をつくることがたいせつである。肛門潰瘍では潰瘍を切除した後,正常粘膜でこれをおおう手術が行われる。
→痔
執筆者:立川 勲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
…西洋では,フランスの聖フィアクルSaint Fiacreが諸病とくに痔の守護聖人として有名で,ルイ14世も治癒祈願をしたといわれる。 痔には俗にいういぼ痔(痔核)hemorrhoids,piles,きれ痔(痔裂,裂肛)anal fissure,あな痔(痔瘻(じろう))anal fistulaなどが含まれるが,医学上これらはまったく別個の疾患である。また狭義には痔は痔核の同意語として用いられることが多いので,ここでは痔核について記述し,他の二つはそれぞれの項目にゆずる。…
…皮膚の表層だけが伸展によって亀裂を生じたときは伸展創と呼び,交通事故の際などに主として鼠径部(そけいぶ)付近にみられる。肛門にみられる裂肛は硬くて大きい便が排出されるときに,肛門の過度の伸展により生じた裂創である。吐血,下血を主訴とするマロリー=ワイス症候群Mallory‐Weiss syndromeは,頻回の嘔吐を繰り返すことによる胃内圧亢進のために食道下端部から胃の噴門部の粘膜に生じた裂創である。…
…西洋では,フランスの聖フィアクルSaint Fiacreが諸病とくに痔の守護聖人として有名で,ルイ14世も治癒祈願をしたといわれる。 痔には俗にいういぼ痔(痔核)hemorrhoids,piles,きれ痔(痔裂,裂肛)anal fissure,あな痔(痔瘻(じろう))anal fistulaなどが含まれるが,医学上これらはまったく別個の疾患である。また狭義には痔は痔核の同意語として用いられることが多いので,ここでは痔核について記述し,他の二つはそれぞれの項目にゆずる。…
※「裂肛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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