胎児期または周産期におこる母から子への感染を総称する。感染経路としては経卵感染、経胎盤感染、産道感染、母乳感染があるが、ヒトの場合はおもに産道感染で、経卵感染の例はまだ知られていない。
産道感染は、分娩(ぶんべん)時に新生児が産道で細菌やウイルスに接触感染するもので、細菌では淋(りん)病に罹患(りかん)している産婦から出産時に感染する新生児の淋菌性結膜炎が古くから知られており、ウイルスでは次の三つが知られている。
(1)単純ヘルペスウイルスは、妊産婦がこのウイルスによる性器ヘルペスに罹患している場合に垂直感染する。
(2)サイトメガロウイルスは、潜伏感染している女性が妊娠した場合、子宮頸管(けいかん)分泌物中に排泄(はいせつ)されるようになり、垂直感染する。これに感染した新生児や乳児は無症状であるが、潜伏感染してそのままウイルスを保持し、女児の場合は成熟して妊娠すると、また母から子への垂直感染を繰り返す。
(3)B型肝炎(HB)ウイルスは、これに感染した母体血を浴びることにより新生児の粘膜や皮膚の損傷部位から非経口的に感染し、HBウイルスのキャリアになる。そしてキャリア女性が妊娠すると、また垂直感染がおこる。
経胎盤感染は子宮内感染ともよばれ、母体内の梅毒トレポネーマが胎盤を通して胎児に感染し先天梅毒児が生まれることがよく知られているが、ウイルスでは風疹(ふうしん)ウイルスやサイトメガロウイルスが代表的である。いずれも妊婦がたまたま流行中のウイルスに水平感染したことによりおこるもので、産道感染の単純ヘルペスウイルスの場合と同様に偶発的な1回限りの垂直感染である。
[柳下徳雄]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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