胃がん(読み)いがん(その他表記)gastric cancer

翻訳|gastric cancer

日本大百科全書(ニッポニカ) 「胃がん」の意味・わかりやすい解説

胃がん
いがん
gastric cancer
stomach cancer

定義

胃に発生するがん(悪性腫瘍(しゅよう))。胃の粘膜を構成する腺(せん)上皮細胞から発生する腺がんがほとんどを占めており、分化度(細胞の成熟の度合い)や細胞形態に応じてさまざまな組織型がある。一般に高分化型は進行が緩やかで、未分化型は進行が速い傾向にある。特殊型として腺扁平(へんぺい)上皮がん、扁平上皮がん、内分泌細胞に由来するカルチノイド腫瘍や内分泌細胞がんなどが、ごくまれにみられる。通常、胃がんといえば原発性胃がんをさす。好発年齢は60歳代以降で、胃がんによる死亡と罹患(りかん)は男性に多く、男女比は2:1である。

 特殊なタイプの胃がんであるスキルス胃がん(硬がん)は、腺がんの一種で、がんの実質に対し間質結合組織の量が著しく多いため、きわめて硬いのが特徴である。胃壁の肥厚・硬化を特徴とするが、がん胞巣(ほうそう)が小さく、正常な粘膜に覆われることで胃粘膜の表面にはあまり現れず、胃壁の中をびまん浸潤性に増殖し、潰瘍(かいよう)も形成しにくいため、病巣と周辺粘膜との境界が不明瞭(ふめいりょう)で、内視鏡検査で発見するのがむずかしいことがある。低分化がんや印環細胞がんといった悪性度の高いがん細胞がみられることが多く、腹膜播種(はしゅ)やリンパ節転移の頻度が高いため、治癒切除が困難なことが多く、予後が悪い傾向にある。

[渡邊清高 2018年8月21日]

疫学・病因(危険因子)

統計

日本において2016年(平成28)に胃がんで死亡した人は4万5531例である。このうち男性2万9854例、女性1万5677例であり、それぞれがん死亡全体の13.5%、10.2%を占めている。部位別にみると肺がん、大腸がんに次いで第3位(男性第2位、女性第4位)の死亡数となっている。死亡数の年次推移は長らく横ばいであったが、2007年以降減少傾向にある。年齢階級別の死亡率をみると、40歳未満では男女差は小さいが、40歳からは加齢とともに増加し、男女差が大きくなっていく。

 2013年の胃がんの罹患数(全国推計値)は13万1893例である。男性9万0851例、女性4万1042例で、それぞれがん罹患全体の18.2%および11.2%を占めている。部位別の罹患数をみると、男性は第1位、女性は乳がん、大腸がんに次いで第3位となっている。罹患数の年次推移は、ほぼ横ばいであるが、わずかずつ増加傾向にある。年齢階級別罹患率は、死亡率と同様、40歳未満では男女差は小さく、40歳以降は加齢とともに増加して、男女差が大きくなる。

 経年的な推移をみるうえで、人口の高齢化の影響を除き、一定の年齢構成に調整した数値を比較する年齢調整死亡率の年次推移は、1960年代から男女ともに経時的に減少傾向にある。年齢調整罹患率も、一貫して減少傾向にある。

 がん診療連携拠点病院院内がん登録(2015年)における臨床病期(ステージstage)の分布をみると、TNM分類ステージ0とⅠを含めた早期がんの割合は63.2%で、五大がん(胃、大腸、肝、肺、乳房)のなかでもっとも高かった。これは、胃がんの半数以上は早期がんの状態で発見されていることを示している。

 胃がんの罹患率には地域性がみられ、東アジアや南アメリカで高く、アメリカの白人では低い。東アジアのなかでも、日本は高発症地域となっている。アメリカの日系、韓国系、中国系移民より、それぞれの本国に在住している人たちのほうが高い傾向にあり、このことは、遺伝的な要因より環境要因の関与が大きいことを示唆している。国内では、東北地方の日本海側で高く、南九州、沖縄で低い(データ出典:国立がん研究センターがん対策情報センター)。

[渡邊清高 2018年8月21日]

要因

国際がん研究機関(IARC)は、1994年にピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)感染が胃がんの危険因子であることを認定している。その後の複数の疫学研究でも、胃がんとの強い相関関係が示されている。さらに2014年には、ヘリコバクター・ピロリにより胃粘膜の異形成や胃がん発症リスクが約80%上昇する一方で、除菌によって胃がん発症を30~40%減らすことができ、コストを含めた保健衛生政策上受け入れられるという追加報告がIARCからなされた。ヘリコバクター・ピロリに感染した人がすべて胃がんを発症するわけではないが、ヘリコバクター・ピロリ感染に伴う慢性胃炎、長期間にわたる持続的な炎症状態が胃粘膜細胞の萎縮(いしゅく)をもたらし、これが胃発がんの背景になっていると考えられる。感染者には除菌療法(プロトンポンプ阻害薬、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤併用、7日間服用)が推奨されている。約7~8割で除菌に成功するが、除菌不成功の場合には2次除菌としてクラリスロマイシンのかわりにメトロニダゾールを用いた3剤併用療法が行われる。また除菌後も、継続的・定期的な胃の検診が勧められる。

 ヘリコバクター・ピロリの持続感染のほかに、喫煙、食塩および高塩分食品、野菜・果物不足が胃がんのリスクを高めることは、多くの疫学研究で示されている。また、噴門部での胃がんのリスクが飲酒によって上昇するという報告が、とくに欧米でなされている。

 一方、予防因子としては、野菜や果物の摂取によるリスクの低下の可能性があると考えられている。また、女性において、緑茶を多く摂取する場合に胃がんリスクが低下する可能性を示す報告がなされている。

[渡邊清高 2018年8月21日]

分類

病理組織学的分類

日本においては、胃がんの組織学的分類として、日本胃癌(がん)学会の「胃癌取扱い規約」を用いることが多い。胃がんは進行するにつれ多様な組織型の混在となっていくが、日本では量的に優勢な組織像に従うのに対し、欧米ではより低い分化度を組織型として分類する点が異なっている。このため、近年では国際間の診断基準の統一化に向けた議論が進められてきている。

 胃がんはその多くが腺がんであることから、腺がんを一般型、その他を特殊型と二つに大別している。一般型は、さらに分化型と未分化型に分けられる。分化型は高分化型管状腺がん、中分化型管状腺がん、乳頭腺がんに、未分化型は低分化腺がん、印環細胞がん、粘液がんに細分類されている。特殊型には腺がん以外が分類され、おもなものとしてはカルチノイド腫瘍や内分泌細胞がん(内分泌細胞に由来する)、腺扁平上皮がん、扁平上皮がん、胎児消化管類似がん、未分化がんなどがある。

 日本胃癌学会の2009年全国集計における胃切除例での検討では、高分化型管状腺がん20.6%、中分化型管状腺がん28.9%、低分化腺がん33.3%、印環細胞がん11.4%であった。

[渡邊清高 2018年8月21日]

浸潤・転移様式

胃壁は層状構造をしており、内側から粘膜上皮、粘膜筋板、粘膜下層、筋層(固有筋層)、漿膜(しょうまく)下層、漿膜とよぶ。粘膜に発生した腫瘍は胃壁の構造を破壊しながらしだいに増大し、漿膜を突き破り周辺臓器に浸潤していく。転移の様式はリンパの流れにのるリンパ行性転移と、血液の流れにのる血行性転移がある。増大した腫瘍が腹膜に表出すると、がん細胞が腹腔(ふくくう)内に散らばり腹膜播種を起こす。

 分化型がんの多くは膨張性に発育していき、肉眼形態は境界が明瞭な限局型が多い。進行すると血行性転移がみられることが多い。血行性転移のおもな転移臓器は肝臓であり、肺、骨がこれに続く。一方、未分化型がんは、びまん性に浸潤していき、肉眼的には境界が不明瞭なものが多い。転移様式としては、リンパ行性転移や播種性転移が多く、原発病変が比較的小さい、あるいは原発部位が不明の状態で転移をきたすことも少なくない。

[渡邊清高 2018年8月21日]

症状・症候

胃がんの自覚症状は原発巣・転移巣の部位や病期によってさまざまである。早期の胃がんは一般に無症状のことが多く、胃がん検診で異常を指摘されたり、何らかの腹部症状をきっかけに上部消化管内視鏡検査を受けて発見されたりすることが診断の契機となる。

 おもな症状には、上腹部痛、腹部の不快感・違和感、食欲不振、吐き気・嘔吐(おうと)、体重減少、貧血などがあるが、いずれも胃がんに特異的な症状ではない。噴門部や幽門部に病変がある場合には、食物の通過障害(摂取した食物がスムーズにその部位を通過できないことで起こる障害)が生じることが多い。出血を伴う病変の場合、貧血や黒色便が発見のきっかけになることもある。

 身体所見として、腹部腫瘤(しゅりゅう)の触知、がん性腹膜炎による腹水貯留、左鎖骨上窩(じょうか)リンパ節転移、肝転移による肝腫大などがみられることがある。

 X線検査や内視鏡技術の進歩による胃がんの診断技術が確立するまで、胃がんの診断は身体所見によるものに限られた。特徴的な転移様式による身体所見は、報告した研究者、医師、看護師の名前でよばれている。たとえばウィルヒョウのリンパ節は、ドイツの医師で病理学者のウィルヒョウが胸管(リンパ管の流出路)の合流部の左鎖骨上窩リンパ節への転移を報告したことが由来となっている。クルッケンベルグ腫瘍は、卵巣の腫瘍としてドイツの医師クルッケンベルグKrukenberg(1871―1946)が報告した印環細胞と卵巣の間質が混在する特徴的な病理像を呈するものが、のちに胃がんを含む消化管由来の悪性腫瘍の卵巣転移によるものとわかったものである。胃がんのダグラス窩直腸子宮窩)への転移はシュニッツラー転移とよばれる(オーストリアの外科医シュニッツラーSchnitzler(1865―1939)に由来)。アメリカのメイヨークリニックの前身の病院に勤務していた看護師メアリー・ジョセフMary Josephは患者の臍(へそ)の結節に注目し、それがあると胃がんで多く死亡すると医師に報告していた。この結節はのちに胃がんを含む腹腔内の悪性腫瘍の転移や浸潤であることがわかり、内臓悪性腫瘍の臍転移はSister Joseph's nodule(シスター・ジョセフの小結節)とよばれ、予後不良の症状の一つと考えられている。

[渡邊清高 2018年8月21日]

検査・診断

検査・診断

(1)胃がん検診
 胃がんの罹患率の高い日本においては、対象となる集団の胃がんによる死亡率を減少させる効果が証明され、実施することが推奨される検診手法として胃X線検査(バリウム検診)と上部消化管内視鏡による検査が、対策型のがん検診として実施されている。従来は胃X線検査のみが行われていたが、2016年に国の指針が改定され、上部消化管内視鏡検査によるがん検診が追加された。対象年齢と受診間隔は、「40歳以上、年1回」が推奨されているが、上部消化管内視鏡検査については「50歳以上、2年に1回」の受診が推奨されている。胃X線検査で精密検査が必要と判断されれば、精密検査として上部消化管内視鏡検査が行われる。

 2016年の国民生活基礎調査によると、胃がん検診の受診率は男性46.4%、女性35.6%であり、2010年と比べ10ポイント近く上昇しているが、さらなる受診率の向上が望まれる。

 血液検査によって胃の萎縮度をみるペプシノゲン検査、ヘリコバクター・ピロリ抗体検査は、任意型検診として行われることがある。しかしながら、胃X線検査と上部消化管内視鏡検査以外の検査による胃がん死亡率減少効果に関する評価は現時点では不明であることから、長期間の追跡による評価と検証が必要である。

(2)原発巣の存在診断
 胃がんの存在診断には、上部消化管内視鏡検査や胃X線検査が行われる。

 内視鏡検査では、スコープ先端のカメラと光源を用いて、胃の中の小さな病変を直接観察することが可能である。胃を内側から観察して、病変や出血源の有無、表面の性状を確認する。腫瘍が発見された場合には、その性状、大きさ、広がりや深達度などを調べる。同時に病変の一部を採取する生検により、病理診断を行うこともできる。

 胃X線検査は、硫酸バリウムと発泡剤を飲んで胃を膨らませて胃粘膜を造影するもので、胃の形態や粘膜の不整、壁の硬化などを評価することができる。被検者はX線撮影装置を備えた検査台に乗り、体の向きを変えながら撮影する。内視鏡検査に比べ、がん病変の広がりを客観的に判断することができる。胃X線検査は、切除範囲の検討のために手術前に行われたり、粘膜面に病変が露出することが少ないスキルス胃がんの評価のために行われる。

 胃がんの確定診断には、病理組織学的な検査が必須(ひっす)であり、内視鏡検査に引き続いて病理組織学的検査が行われる。内視鏡検査で得られた生検材料を用いて、胃生検組織診断分類(グループGroup分類)に基づいて診断が行われる。これは病変の診断区分を明確にするためのもので、グループX、1~5の6段階があり、胃がんと確定診断されるのはグループ5である。グループXは生検組織診断ができない不適材料、グループ1~4は正常組織からがんが疑われる病変までの段階であり、結果に応じて経過観察や確定診断のための再検査が行われる。

 超音波内視鏡検査は、病変の深達度診断に有用である。病変の広がり、他臓器との関係、リンパ節転移や遠隔転移の有無を腹部超音波検査、CT、MRI、PETなどで評価し、病期診断に用いる。

 腹膜播種については、CTによる播種病変の描出、腸管の変形・狭窄(きょうさく)などから検出されるが、腹水の細胞診検査でがん細胞を認めることで診断される場合もある。

 腫瘍マーカーは、CEAやCA19-9が用いられることが多いが、早期診断には有用性が低く、おもに治療後の経過観察や再発の探索、がん薬物療法の治療効果の評価などに用いられている。

[渡邊清高 2018年8月21日]

病期分類

胃がんはおもに粘膜に発生し、胃壁の中を徐々に深く進んでいく。胃壁は内側から粘膜層(粘膜上皮・粘膜筋板)、粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜の5層に分かれている。がんが胃壁のどの深さまで広がっているかを示すものが、深達度である。がんの深さが粘膜層および粘膜下層までのものを早期胃がん、筋層より深く達したものを進行胃がんとよぶ。

 病期(ステージstage)とは、がんの進行の程度を示すもので、日本においては「胃癌取扱い規約」の進行度分類や、国際対がん連合(UICC)のTNM分類に基づいて病期分類が行われている。いずれも壁深達度を示すT因子、リンパ節転移のN因子、および遠隔転移のM因子の三つの因子から分類していく。進行度分類ではステージⅠ(ⅠA、ⅠB)、Ⅱ(ⅡA、ⅡB)、Ⅲ(ⅢA、ⅢB、ⅢC)、Ⅳの8段階に分類される。ステージⅠAは腫瘍が粘膜内または粘膜下層にとどまりリンパ節転移のないものである。同じ深達度でもリンパ節転移が1~2個みられる場合は、腫瘍が筋層にとどまりリンパ節転移のない場合とともにステージⅠBとなる。ステージⅡ、Ⅲも壁深達度とリンパ節転移の個数がそれぞれ取り決められている。遠隔転移および領域リンパ節以外への転移を認めるものはすべてステージⅣとなる。

[渡邊清高 2018年8月21日]

治療

胃がんの治療は、内視鏡治療、外科療法(手術)、薬物療法(おもに化学療法)が中心となっており、病期分類に応じて治療方針が検討される。日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン」には、標準治療として推奨される治療法選択のアルゴリズムが示されている。

[渡邊清高 2018年8月21日]

内視鏡治療

胃がんに対する内視鏡治療は、リンパ節転移の可能性が低く、局所治療で手術と同等の治療効果が得られると考えられる病変に対して行われる。開腹手術を行わないで病変を切除でき、治療後も胃の機能が温存されるため、生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:QOL)を保ちつつ、治療が可能となる。「胃癌治療ガイドライン」では、腫瘍が一括切除できる部位にあり、かつ2センチメートル以下で肉眼的に粘膜内にとどまるもの、組織型が分化型、潰瘍形成がない病変を、内視鏡治療の絶対適応としている。

 切除の方法には、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離(はくり)術(ESD)がある。

 内視鏡的粘膜切除術は、病変周囲の粘膜下層に生理食塩水などを注入して固有筋層から浮き上がらせ、スネアとよばれる輪状のワイヤーをかけて、高周波により焼灼(しょうしゃく)切除する方法である。

 内視鏡的粘膜下層剥離術は、病変周囲の粘膜下層に生理食塩水などを注入後、病変周囲の粘膜を高周波ナイフで切開し、さらに粘膜下層を剥離して切除する方法である。内視鏡的粘膜切除術よりも高度な技術を要するが、一括切除率が向上し、より大きな病変の切除も可能であり、現在では早期胃がんに対する有用な治療手段になっている。

 切除した組織は精査され、分化度や深達度などの評価が行われる。リンパ節転移やがん遺残の可能性がある場合は、根治治療のために後日改めてリンパ節郭清(かくせい)(リンパ節の切除)を伴う追加手術が行われる。

[渡邊清高 2018年8月21日]

外科療法(手術)

胃がんに対して行われる外科療法(手術)は、治癒を目的とした治癒手術と、治癒は見込めないが症状緩和を目的として行われる非治癒手術に大別される。

 治癒手術には、定型手術と非定型手術がある。定型手術は、胃がんを完全に切除することを目的として標準的に行われてきた方法で、胃の3分の2を切除し、領域リンパ節(D2)を郭清する。非定型手術は、進行度に応じて切除範囲やリンパ節郭清範囲を変えて行うもので、縮小手術と拡大手術に二分される。周辺臓器に浸潤している場合は、浸潤している臓器の一部も合併切除する。

 非治癒手術は、緩和手術と減量手術に分けられる。緩和手術は姑息(こそく)手術ともいい、治癒手術不能例に対し、出血や狭窄などの切迫した症状を改善するために行われる。減量手術は、腫瘍量を減らし、症状の出現を遅らせることや延命を目的として行われる。

 外科療法のおもな合併症には、腹腔内膿瘍(のうよう)、膵液漏(すいえきろう)、創感染、腸閉塞(ちょうへいそく)、出血などがある。また、胃切除後の後遺症としては、ダンピング症候群(後述)、逆流性食道炎、残胃炎などの消化器症状がみられることがあり、ビタミンB12および鉄の吸収障害からの貧血、カルシウム吸収障害による骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が生じるようになる。

(1)胃切除術
 胃全摘術は、胃の入り口である噴門と、出口である幽門を含めて、胃をすべて切除するもので、もっとも切除範囲が広い術式である。病変部が胃の中部から上部付近で、噴門を残す余裕がない場合に行われる。

 幽門側胃切除術は、胃の上部噴門側を約3分の1残して、下部の幽門側約3分の2を切除する術式である。病変部が胃の中部から下部で、噴門との距離が十分離れている場合に行われる。

 幽門保存胃切除術は、胃の上部約3分の1と幽門を残して胃を切除するもので、幽門の機能が温存される。

 噴門側胃切除術は、噴門を含めて胃の上部約3分の1を切除する。病変部が噴門から3分の1の範囲内にある早期がんで、噴門を残す余裕がない場合に検討される。

(2)リンパ節郭清
 日本においては、ステージⅠAの胃がんには、胃周囲の第1群までのリンパ節(D1)の郭清手術が行われている。リンパ節転移が疑われる場合はより広い範囲のリンパ節郭清が行われる。それ以外のステージⅠB~Ⅲの胃がんでは、第2群の領域リンパ節(D2)までの郭清が行われている。

 これに対し、欧米ではかつては標準的にD1郭清が行われることが多く、日本の良好な治療成績との差につながっていた。近年では、欧米においても、手術症例の多い施設を中心にD2郭清を行う施設が増えてきている。

(3)消化管再建術
 胃切除術と同時に、残存する消化管を縫い合わせてつなぎ、食物の通り道を再建する。

 胃全摘術の場合は、食道に空腸(くうちょう)(十二指腸から続く上部の小腸)をつなぐルーワイ法が一般的である。食道と十二指腸の間に、胃の代用として空腸をつなぐ空腸間置法が行われることもある。

 幽門側胃切除術では、残胃と十二指腸を直接つなぎ合わせるビルロートⅠ法や、十二指腸の断端を閉鎖し、残胃と空腸をつなぎ合わせるビルロートⅡ法やルーワイ法が行われる。

 幽門保存胃切除術では、残胃の上部と下部をつなぎ合わせる胃胃吻合(ふんごう)法が行われる。

 噴門側胃切除術では、食道と残胃をつなぐ食道残胃吻合法や、食道と残胃の間を空腸でつなぐ空腸間置法などが実施される。

(4)腹腔鏡下手術
 近年では、小さい手術創からカメラと光源、手術器具を挿入して切除を行う腹腔鏡下手術が選択されることも増えてきている。臓器の切除範囲とリンパ節郭清の範囲、全身状態などを考慮し適応が検討される。開腹による手術に比べ創が小さく、術後の痛みが少なく、術後の回復や食事の再開時期が早いことが利点としてあげられる。一方で、リンパ節郭清や再建技術のむずかしさから、開腹手術より合併症の発生率がやや高くなる可能性が指摘されている。

[渡邊清高 2018年8月21日]

薬物療法(おもに化学療法)

薬物療法には、手術と組み合わせて補助化学療法として行われるものと、治癒が難しい進行・再発胃がんに対して行われる化学療法がある。

(1)補助化学療法
 補助化学療法は、治癒手術後の微少遺残腫瘍による再発予防を目的として、術後に行われる全身化学療法である。日本においては、ステージⅡおよびⅢの胃がんに対し、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤S-1(TS-1)を術後1年間内服することが標準治療となっている。S-1の内服により、5年生存率が約10%向上することが確認されている。

 さらに2015年11月には、カペシタビン(ゼローダ)とオキサリプラチン(エルプラット)を併用するXELOX(ゼロックス)療法が新たに保険適用となった。

(2)切除不能進行・再発胃がんに対する化学療法
 切除不能と判断された進行・再発胃がんに対する化学療法の目的は、腫瘍の増大を遅らせ、延命と症状コントロールを行うことである。全身状態が良好で、主要臓器の機能が保たれている場合は、治療の第1選択となる。フッ化ピリミジン系薬剤(フルオロウラシル、S-1、カペシタビンなど)、プラチナ系薬剤(シスプラチン、オキサリプラチン)、タキサン系薬剤(パクリタキセル、ドセタキセル)、イリノテカンなどの抗がん薬が単独または組み合わせで用いられる。

 また近年、分子標的治療薬という新しいタイプの抗がん薬が用いられるようになってきている。

 胃がんの10~20%では、HER2(ハーツー)というタンパク質ががん細胞の増殖に関与している。そのため、化学療法の開始前にHER2検査を行い、使用する薬剤を決定する。HER2陽性の場合は、分子標的治療薬の抗HER2抗体トラスツズマブ(ハーセプチン)を併用した化学療法が行われる。また、ラムシルマブとよばれるVEGFR-2(血管内皮増殖因子受容体2)に対する特異的な抗体が、他の抗がん薬と併用、あるいは単独で用いられる。

(a)一次化学療法
 HER2陰性胃がんの場合、フッ化ピリミジン系薬剤とプラチナ系薬剤の2剤併用療法が推奨されている。日本では、S-1+シスプラチン(ランダ、ブリプラチン)療法が標準治療となっている。S-1のかわりにカペシタビンが用いられることもある。

 HER2陽性胃がんでは、カペシタビン+シスプラチン+トラスツズマブ療法が推奨されている。カペシタビンのかわりにフルオロウラシル(5-FU)またはS-1が用いられることもある。

(b)二次化学療法
 一次化学療法の治療効果が認められなくなった場合、または副作用などの理由で一次化学療法を中止した場合には、全身状態が良好であれば二次治療が検討される。ドセタキセル(タキソテール)、パクリタキセル(タキソール)、イリノテカン(トポテシン、カンプト)などが考慮される。分子標的治療薬のラムシルマブ(サイラムザ)は、パクリタキセルとの併用あるいは単独での治療効果が示されたことから、2015年6月に保険適用となった。

(c)三次化学療法
 二次化学療法の治療効果が十分に期待できない場合でも、全身状態が良好であれば三次化学療法が行われる。ドセタキセルまたはパクリタキセル、イリノテカンのうち、二次化学療法で使用していない薬剤による治療が検討される。また、免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブオプジーボ)は、三次以降の薬物療法で有効性が証明されたことから、2017年9月に保険適用となった。

[渡邊清高 2018年8月21日]

経過・予後

原発巣が噴門部や幽門部にある場合、経過中に通過障害(摂取した食物がスムーズにその部位を通過できないことで起こる障害)が生じることがある。

 腹膜転移では腸閉塞、腹水、水腎(すいじん)症がみられることがあり、それぞれ症状緩和のための処置が行われる。骨転移、脳転移が起こることもある。

 胃がんの予後に影響を与える因子としては、年齢、壁深達度、リンパ節転移、遠隔転移、肝・腹膜転移などがある。

 日本胃癌学会の全国胃がん登録における2009年の手術症例報告による術後の5年生存率(TNM分類による)は、ステージⅠAで90.2%、ⅠBで81.1%、Ⅱで67.8%、ⅢAで50.9%、ⅢBで36.1%、Ⅳで17.9%であった。

 切除不能進行・再発胃がん患者の生存期間中央値は、対症的に対応した症例で3~5か月、化学療法を行った症例で11~13か月程度となっている。

[渡邊清高 2018年8月21日]

その他

ダンピング症候群

ダンピング症候群は、胃切除後に、食物が小腸に急激に流入することによって生じる一連の症状である。食直後から30分以内に症状が出現する早期ダンピング症候群と、食後2~3時間に出現する後期ダンピング症候群に大別される。

 早期ダンピング症候群では、食後の全身倦怠(けんたい)感、冷汗、動悸(どうき)、顔面蒼白(そうはく)・紅潮、腹痛、腹鳴、吐き気・嘔吐、下痢などが起こる。浸透圧の高い食物が急に小腸に流入するために、細胞外液が腸管内に移行し、血管内脱水になることが一因と考えられている。さらに、セロトニン、ニューロテンシン、血管作動性腸管ペプチド(VIP)などホルモンの関与も考えられている。

 対策としては、1回の食事量を少なめに、何回かに分けて、ゆっくりと時間をかけて食べるようにする。消化のよいデンプンや糖分などの糖質摂取を控え、食事中には水分を控えめにして流し込むような食べ方を避ける。

 後期ダンピング症候群では、15~20分継続する発汗、頻脈、脱力、ふるえ、意識障害などが起こる。腸管からの糖質の吸収によって急に血糖値が高くなることで、インスリンが過剰分泌されて起こる反応性低血糖と考えられ、糖質を補うことで改善する。

 後期ダンピング症候群の予兆があるときには、食後2時間くらいに糖質を含む間食をとる、外出時には菓子類を携帯するなどのくふうをする。

[渡邊清高 2018年8月21日]

ヘリコバクター・ピロリ関連疾患

胃がんは長く日本人のがんによる死因の第1位であったが、近年、高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率は減少傾向が続いている。これはピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の慢性感染を有している人の割合が経年的に減少してきている(若年人口において感染率が低い)ことと関連しており、衛生環境や食生活の変化の影響と考えられている。

 1980年代、オーストラリアの研究者・医師のバリー・マーシャルとロビン・ウォーレンは、胃炎と関連のある螺旋(らせん)状の菌について研究し、胃の強酸の環境下で生存するヘリコバクター・ピロリが胃潰瘍や十二指腸潰瘍と関連があると考えた。マーシャルは慢性胃潰瘍の患者から培養したヘリコバクター・ピロリを自ら飲み込むことで胃炎を発症し、さらにその胃粘膜からヘリコバクター・ピロリの存在を示した。その後の研究で、抗菌薬を内服し除菌を行うことで、胃炎とピロリ菌感染が治癒したことから、胃炎とヘリコバクター・ピロリとの関連が認知されることになった。日本を含めた基礎研究や動物実験モデルを用いた研究、疫学研究などにより、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、さらには胃がん発症との関連が明らかになってきた。1994年には国際がん研究機関(IARC)によって、グループ1(発がん性がある)に分類された。

 ヘリコバクター・ピロリはウレアーゼという酵素を産生しており、この酵素で胃粘膜内の尿素をアンモニアに分解することで胃酸を中和させ、酸性下でも感染を維持することが可能になっている。菌が産生する毒素(VacA)やムチナーゼ、プロテアーゼなどの分泌酵素が胃粘膜の傷害に関与するメカニズムや、感染した宿主細胞に注入されるエフェクター分子(CagAなど)が炎症反応を引き起こすメカニズムも、慢性炎症やがんの発生につながると考えられている。

 ヘリコバクター・ピロリは、萎縮性胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの炎症疾患、胃がんのみでなく、MALTリンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などの悪性腫瘍、さらには血小板減少性紫斑(しはん)病、機能性ディスペプシアなどとの関連も指摘されている。感染を契機に生じる免疫応答、炎症反応がさまざまな疾患発症の契機となっている可能性があり、除菌治療による影響を含めて、幅広い領域で研究が進められている。

[渡邊清高 2018年8月21日]

『日本胃癌学会編『胃癌取扱い規約』第15版(2017・金原出版)』『日本胃癌学会編『胃癌治療ガイドライン医師用 2018年1月改訂』第4版(2018・金原出版)』『〔WEB〕国立がん研究センターがん情報サービス『がん登録・統計』』

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家庭医学館 「胃がん」の解説

いがん【胃がん Gastric Cancer】

◎壮年(そうねん)の男性に多い
[どんな病気か]
◎他の胃腸病の症状と変わらない
[症状]
[原因]
[検査と診断]
◎切除可能なら手術が原則
[治療]

[どんな病気か]
 胃がんは、日本人に発生する悪性腫瘍(あくせいしゅよう)の第1位を長年占めてきましたが、近年わずかながら減少の傾向にあります。しかし、世界的にみても、日本が胃がんの発生率がもっとも高い国の1つであることに変わりはありません。
 胃がんはほぼ2対1の割合で男性が多く、年齢は50~60歳代が約6割を占めますが、高齢化社会を反映して、年々高齢者の割合も増えています。
●経過
 胃の壁は、内側から粘膜(ねんまく)・粘膜下層(ねんまくかそう)・筋層(きんそう)・漿膜(しょうまく)に分けられ、胃がんはいちばん内側の粘膜上皮(じょうひ)から発生し、しだいに漿膜側へと深く浸潤(しんじゅん)していきます。
 がんが粘膜や粘膜下層までにとどまる場合を早期胃がん、筋層より深部に浸潤するものを進行胃がんといいます。
 胃がんは早期のうちに発見して治療するのが理想です。放置すると胃の壁深く浸潤するだけでなく、リンパ液の流れにそって、胃の周囲のリンパ節(せつ)やさらに遠方のリンパ節に転移(てんい)したり、血液の流れにそって肝臓(かんぞう)や肺(はい)などへ転移します。また、おなかの中にがん細胞が散らばる(腹膜播種(ふくまくはしゅ))こともあります。
 この結果、低栄養、低たんぱく、貧血(ひんけつ)をおこすなどして、全身状態が悪化します。
 ですから、早期発見につとめ、早期に治療を受けることがなによりも重要となります。
 早期胃がんのうちに手術などの適切な治療を受ければ、9割の人は完全に治りますが、進行胃がんと呼ばれる状態になると、手術をしても、再発する危険性が高まります。
 胃がんの好発年齢は前述のとおり壮年者ですが、若い人にも発生することがあります。若い人の胃がんは、進行がんの段階になると急速に進展することがありますから、若い人でも、胃の調子が思わしくないなどの症状が出た場合には、早めに胃の検査を受けるようにしましょう。

[症状]
 初期のころは、なんの自覚症状もないことがほとんどです。また、症状が現われても、胃がん特有のものはありません。
 なんとなく胃のあたりが重い、食欲がない、味覚が変わった、胸焼(むねや)けやげっぷが多くなった、口臭(こうしゅう)がきつくなった、吐(は)き気(け)がするなど、ほかの胃腸の病気でみられるものと同じです。また、初期のころは痛みをともなうことはまれで、その痛みも、空腹時に痛むことの多い胃(い)・十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)とちがい、食事と一定の関係はありません。
 がんが進行すると、先に述べた症状がしだいに強く現われてきたり、常に感じられるようになります。体重も徐々に減少します。
 さらに進行すると、胃のあたりにかたいしこり(腫瘤(しゅりゅう))を触れるようになったり、おなかに水(腹水(ふくすい))がたまったりします。胃がんから出血がある場合には、吐物(とぶつ)の中に血液がまじったり(吐血(とけつ))、便がコールタールのように黒褐色(こくかっしょく)になる(血便(けつべん))こともあります。
 このころになると貧血が進み、全身衰弱(すいじゃく)が目立つようになります。
 肝臓や肺・骨・脳などの臓器に転移すると、転移した臓器やその程度により、さまざまな症状が現われます。

[原因]
 まだ十分に胃がんの発生原因が解明されたわけではありませんが、食生活を中心とした生活習慣が、胃がん発生と大きな関連があると考えられています。
 過食・早食いの人、大酒家、愛煙家、塩分の濃い食事を好む人では、胃がん発生の危険度が高まるといわれています。また、熱すぎる料理や焦(こ)げた食物もよくないとされています。
 逆に、緑黄色野菜(りょくおうしょくやさい)や乳製品を多く摂(と)ることで、胃がんの発生率が抑えられるといわれています。冷蔵庫が普及し、食物を必ずしも塩漬けで保存する必要がなくなり、新鮮な食物を口にできる機会が増えてきたことが、胃がんの発生が世界的に減少傾向にあることと無関係ではないようです。
 最近は、胃の中にすむヘリコバクター・ピロリと呼ばれる細菌が胃がん発生と関連があるのではないかとして注目されています(コラム「ヘリコバクター・ピロリ」)。

[検査と診断]
 胃がんの発見には、胃X線透視(とうし)と胃内視鏡(いないしきょう)が大きな役割を担っています。
 胃X線透視(上部消化管X線検査(「上部消化管X線検査(上部消化管造影検査)」))は、市区町村や職場の検診で広く行なわれています。バリウムと呼ばれる白い造影剤(ぞうえいざい)を飲んで行なう検査ですが、がんの全体像をとらえたり、胃の中におけるがんの位置を、より正確に知ることができる点で優れています。
 胃内視鏡(上部消化管内視鏡検査(「上部消化管内視鏡検査(胃ファイバースコープ/胃カメラ)」))は、弾力性のある細いファイバースコープを口から挿入して行なう検査です。ファイバースコープは改良がすすみ、以前にも増して細くやわらかくなっていますし、のどに麻酔(ますい)をするなどの処置を行ないますので、苦しい検査ではなくなりました。また、この検査は、疑わしい胃粘膜の組織を直接採取することができます。この組織を顕微鏡で見ることで、がんか否かが正確にわかるのです。
 胃X線透視も胃内視鏡も、日本の診断技術は世界のトップレベルにあります。いずれの検査も外来で受けられますが、検査前日の食事や飲酒・喫煙は控えめにし、当日の朝は食事をとらずに検査に臨(のぞ)みます。常用している内服剤がある人は、検査担当の医師と相談してください。検査の際に使う薬により、目がかすんだりしますので、検査当日は、車の運転や自転車での来院は控えたほうがよいでしょう。
 胃がんが発見された場合は、ほかの臓器に転移していないか調べるために、超音波・CTスキャン・MRI・血管造影(けっかんぞうえい)などの検査が追加されます。また、早期胃がんの場合、内視鏡による処置で取り切れることもありますから、その適応を決めるため、さらに詳細な胃内視鏡検査や超音波内視鏡検査が追加されることもあります。
 また、がんがからだのどこかにできた場合、血液中で特殊な物質の数値が上昇することがありますので、血液検査も行ないます。これらの物質を腫瘍(しゅよう)マーカー(「腫瘍マーカー」)といいますが、胃がん特有のマーカーはなく、すべての胃がん患者でマーカーが上昇するわけでもないので、胃がんの早期発見には用いられていないのが現状です。

[治療]
 胃がんと診断されたら、できるだけ早期に治療を受けるのが原則です。切除可能ならば手術を行ない、補助療法として抗がん剤や免疫賦活薬(めんえきふかつやく)を、手術の前あるいは後に併用します。
●手術
 手術方法は、胃がんの発生した場所や、広がりの程度、他の臓器への転移の有無によってちがいます。一般的には、がん組織を含めて十分な範囲の胃を切除したうえで、転移の可能性がある胃の周囲のリンパ節を除去するために、リンパ節の摘出(てきしゅつ)(リンパ節郭清(せつかくせい))を行ないます。
 早期胃がんであれば、がんを完全に取り切って永久的な治癒(ちゆ)を目指す「根治手術(こんじしゅじゅつ)」が行なえます。このようながんに対しても、以前は広く大きく切除することが大原則でしたが、がんが完全に治って(根治して)、手術後長期間生存できる人が増えてきた昨今では、根治性を損なわない程度に、小さい範囲で切除する治療も広く受け入れられるようになってきました。
 たとえば、内視鏡を使って、粘膜内にとどまるごく早期のがんを切除する「内視鏡的粘膜切除術(ないしきょうてきねんまくせつじょじゅつ)」を行なえば、おなかを切り開く必要もなく、入院も短期間ですむうえ、胃の形や機能が損なわれることがないので、術後の障害がほとんどありません。
 また、一部の施設では、おなかに内視鏡を挿入(そうにゅう)して、おなかを大きく切り開かずに胃の部分切除を行なう「腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)」も導入されて良好な成績をあげています。手術後の機能障害が少なく、手術創(しゅじゅつそう)が小さいので、社会復帰が早いのが利点です。
 一部の進行がんでも「根治手術」は可能ですが、浸潤の程度が進んだ場合や、他の臓器への転移がある場合は、症状を改善するための「姑息的(こそくてき)な手術」が行なわれることもあります。
 その一例として、食物の通過障害がおこっている場合に行なわれるバイパス手術があります。
 胃の切除範囲は、部分切除の場合と全部摘出する場合がありますが、必要に応じて周囲の臓器(脾臓(ひぞう)、膵臓(すいぞう)、肝臓、横行結腸(おうこうけっちょう)など)を同時に切除することもあります。
 切除した胃は再生されませんが、再び食事が摂(と)れるようにするために、食物の通り道を再建する処置を施します。
●手術が不可能な場合
 広い範囲に転移をおこしているなどの理由で手術が不可能な場合は、抗がん剤を用いる化学療法や、免疫療法が行なわれます。
●手術後の療養
 手術直後は口から飲食物を摂ることができませんので、その間は点滴(てんてき)で栄養を補います。口から飲食物が摂取(せっしゅ)できるようになるのは(手術術式によって多少の差がありますが)3日目~1週間前後です。
 まず水分から始め、流動食から徐々にふつうの食事にもどしていきます。胃を切除した後は1回に摂れる食事の量が少なくなるため、当初は1日に5~6回に分けて食事をする必要がありますが、しだいに1回の食事量が増えて、ふつうの人と同じように食事が摂れるようになります。ただし早食いは厳禁です。
 手術創の糸が抜け(抜糸(ばっし))、からだに入っていた排液管(はいえきかん)などが抜けると、入浴も可能になり、退院するのも間近となります。
 手術後の社会復帰については、個人差がありますので、担当医とよく相談してください。
●手術後の後遺症(こういしょう)
 胃を切除すると、胃の食物貯留機能(しょくもつちょりゅうきのう)が低下・消失するために、消化吸収障害・下痢(げり)・ダンピング症候群(しょうこうぐん)(めまい、頻脈(ひんみゃく)、発汗(はっかん)など)・逆流性食道炎(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)(胸やけ)などの後遺症がおこることがあります。手術による癒着や暴飲暴食などが原因で腸閉塞(ちょうへいそく)をおこすこともあります。また、貧血や骨代謝異常(こつたいしゃいじょう)(骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、骨軟化症(こつなんかしょう)など)・胆石(たんせき)の発生が手術後長期間たってからおこる場合もあります。
 手術後の再発防止や後遺症予防のために、定期的に外来を受診し続けることが必要です。
●化学療法
 がんの再発を予防するために、あるいは手術では取り切れなかったがんをたたくために、抗がん剤を使用することがあります。使用方法は内服の場合や点滴の場合などがあり、薬剤としてはフルオロウラシル(5FU(ファイブエフユー))やその類似物、マイトマイシンC、塩酸ドキソルビシン、シスプラチンなどが単独あるいは併用で用いられています。
「抗がん剤」というと副作用ばかりがクローズアップされる嫌いがありますが、切除したがん組織を使って抗がん剤の感受性試験(かんじゅせいしけん)を行ない、個々のがんに効果があると予想される薬剤を事前に選択し、無為な副作用を軽減する工夫も行なわれています。
●免疫療法(めんえきりょうほう)
 その人自身がもつ免疫機能を高める治療法です。免疫強化薬(ピシバニール、クレスチン、レンチナンなど)が広く用いられています。
●その他の治療
 放射線治療や温熱療法などが試みられていますが、十分な効果をあげるには至っていません。
●受診する科
 診断は内科・外科・放射線科のうち、消化器を専門とする医師があたります。最近は、消化器病センターや内視鏡センターを設ける病院も増えてきました。
 症状が現われる前は、市区町村や職場で行なわれる検診を積極的に受診するのが望ましいのですが、なんらかの症状が出現し、それが持続するようなら、早めにこれらの消化器病専門医を訪れるのがよいでしょう。
 治療は、切除可能な胃がんであれば外科が担当し、内視鏡治療が可能な場合は内視鏡医が担当することもあります。併用される化学療法などのため、内科が治療を担当することもあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

食の医学館 「胃がん」の解説

いがん【胃がん】

《どんな病気か?》


 胃がんは、高糖質、低脂肪、そして食塩の多い食生活を送ってきた日本人にもっとも多くみられるがんでした。しかし、近年、食習慣の変化や塩分摂取への意識の高まりなどで、若年層では減少の傾向にあります。
 ただ、最近になって、ヘリコバクター・ピロリという細菌がクローズアップされています。この細菌は日本人の感染率が高く、とくに胃潰瘍(いかいよう)や十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)、胃がんの発生に関係しているとされています。
 初期症状は胃のもたれや不快感、圧迫感、胸やけや食欲不振など、胃の調子が悪いという程度なので、初期段階で発見することは困難です。

《関連する食品》


〈塩分をひかえてビタミンC、クルクミンで予防する〉
○栄養成分としての働きから
 ビタミン不足が胃がんの発症に関係しているという研究もあります。ビタミンCを多く摂取することを推奨しているアメリカでは、胃がんの発症が年々減少しています。ほかのがんと同様、がんの予防効果のあるビタミンA、C、Eを積極的に摂取しましょう。
 また、クルクミンという黄色い色素成分は、活性酸素の働きを阻害し、がん発生を抑え、また免疫機能を高めてがんの進行を抑制する働きもあり、とくに胃がんには有効だといわれています。クルクミンは、カレーで使われるスパイスの一種であるターメリックや、たくあん、マスタードなどの着色料に含まれています。
○注意すべきこと
 第1は塩分をひかえることです。男性1日8.0g未満、女性7.0g未満に抑えることが基本ですが、気になる人は6g未満を心がけましょう。熱いもの、飲酒、喫煙も注意が必要です。

出典 小学館食の医学館について 情報

栄養・生化学辞典 「胃がん」の解説

胃がん

 胃のがん.以前は日本人のがんで最も多かったが,近年は減少している.その原因は食生活の欧風化,食塩の摂取量の減少によると考えられている.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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