胆道ジスキネジー(読み)たんどうじすきねじーたんどううんどういじょうしょう(その他表記)Biliary Dyskinesia

家庭医学館 「胆道ジスキネジー」の解説

たんどうじすきねじーたんどううんどういじょうしょう【胆道ジスキネジー(胆道運動異常症) Biliary Dyskinesia】

[どんな病気か]
 食後に右上腹部に重い感じがして、疼痛(とうつう)などの胆石症(たんせきしょう)に類似した症状がありますが、胆道系に胆石、炎症、がんなどの異常がまったく認められない病態です。
[症状]
 食後の右上腹部痛がもっとも多く、右背部痛(はいぶつう)、吐(は)き気(け)、腹部膨満感(ふくぶぼうまんかん)、下痢を伴(ともな)うことがあります。
[原因]
 食事によって胆汁(たんじゅう)が十二指腸(じゅうにしちょう)へ排出されるには、胆嚢(たんのう)が収縮し、ファーター乳頭(にゅうとう)(「胆道(胆管、胆嚢)のしくみとはたらき」の胆道のしくみ)が開くことが必要です。この病気では、胆嚢が収縮してもファーター乳頭が十分に開かず、胆道内圧が上昇してさまざまな症状が生じると考えられています。
 胆汁排出に関係した自律神経(じりつしんけい)やホルモンの異常が原因ではないかと指摘されていますが、詳細は不明です。
 糖尿病、妊娠、潰瘍(かいよう)、肝炎かんえん)に合併した二次的な場合もあります。
[検査と診断]
 胆道造影検査(たんどうぞうえいけんさ)、超音波(ちょうおんぱ)検査、CT検査でも胆道系には異常がなく、通常、肝機能は正常ですが、一過性の軽度の肝障害がみられることもあります。胆道系の腫瘍(しゅよう)、胆石、乳頭部の病気と、この病気を鑑別するために逆行性膵胆管造影検査(ぎゃっこうせいすいたんかんぞうえいけんさ)(「ERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影法)」)が行なわれます。その際、原因を解明するために、胆道内圧の測定や乳頭部運動のコンピュータ解析が行なわれることもあります。
 肝臓から胆嚢・胆管への流れ(分泌(ぶんぴつ)状態)を観察する胆道シンチグラフィーも診断に役立ちます。
 超音波を使って、胆嚢収縮ホルモン注射による胆嚢の収縮のしかたを観察すると、3つの型に分けられます。どの型かによって症状の現われ方、治療法が異なります。
●緊張亢進型(きんちょうこうしんがた)
 胆嚢がはりつめたようにふくれ(緊満(きんまん)し)、胆嚢収縮ホルモン刺激によっても胆嚢の収縮が遅れ、胆汁の排泄の遅いものです。食後数時間すると腹痛が生じます。
●運動亢進型(うんどうこうしんがた)
 胆嚢収縮ホルモン刺激によって胆嚢が直ちに収縮し、胆汁が急速に排出されるものです。食直後に腹痛があります。
●緊張低下型(きんちょうていかがた)
 胆嚢は弛緩(しかん)ぎみで、胆嚢収縮ホルモン刺激でも胆嚢の収縮が不十分で、胆汁の排泄が遅れるものです。持続性の腹部鈍痛(どんつう)があります。
[治療]
 暴飲暴食や刺激物の摂取を極力さけ、食事療法や、精神療法、薬物療法が行なわれます。
 緊張亢進型と運動亢進型では、脂肪食(しぼうしょく)を控えて胆嚢の強い収縮を抑えます。緊張低下型では、逆に脂肪食を多くとり、胆嚢収縮をうながします。精神療法は心因(しんいん)の強い場合に行なわれます。
 薬物療法は、緊張亢進型と運動亢進型では胆嚢収縮を抑える抗(こう)コリン薬(やく)、精神安定剤を、緊張低下型では利胆薬(りたんやく)、平滑筋収縮薬(へいかつきんしゅうしゅくやく)を内服します。
 薬物療法で症状が改善しない場合は、胆嚢摘出手術や、内視鏡を用いてファーター乳頭の切開が行なわれます。
 女性に多い病気で、心因的要素が発症に関係します。日ごろからストレス除去と規則正しい生活が必要です。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「胆道ジスキネジー」の意味・わかりやすい解説

胆道ジスキネジー
たんどうじすきねじー
biliary dyskinesia

胆道運動失調症、胆道機能不全ともいう。胆汁流出装置(オッデイ括約筋、胆管、胆嚢(たんのう))の機能障害によって生じる病態で、胆石症、胆道の炎症が除外されたものである。内科、外科、精神科の医師が個々の評価を行い胆道痛と診断した疼痛(とうつう)で、器質的な消化管疾患あるいはその他の腹痛の原因となりうる疾患の存在を示す臨床的根拠の欠如が必要である。

 症状としては胆石症を思わせる疼痛、右季肋(きろく)部(右側の最下方にある肋骨(ろっこつ)部)鈍痛、悪心(おしん)、便秘、下痢、全身倦怠感、食欲不振などがある。

 診断としては除外診断で、超音波検査、CT、磁気共鳴胆管膵管検査(MRCP)、直接胆道造影法などで胆道の器質的変化、結石の有無について十分に検討を加える必要がある。また、心身症、とくに過敏性腸管症候群、神経症を合併することがあり、診断上参考になる。

 治療方針は病態により多少異なるが、過労、暴飲暴食を避け、心因性の因子が考えられる場合には精神的な原因を除くことがたいせつで、鎮静剤、精神安定剤の投与も効果的である。

[中山和道]

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改訂新版 世界大百科事典 「胆道ジスキネジー」の意味・わかりやすい解説

胆道ジスキネジー (たんどうジスキネジー)
biliary dyskinesia

ジスキネジーはもともとドイツ語で,運動障害を意味し,語源はギリシア語dyskinēsia。胆道(胆囊と胆管)に胆石,炎症や腫瘍などの器質的病変がないにもかかわらず,胆囊や胆道括約筋の運動・緊張異常が原因で,疼痛を訴える病態を指す。胆道の平滑筋組織は,胆囊,総胆管末端部(オッディ括約筋),胆囊頸部・胆囊管移行部(リュートケンズ括約筋)に発達しており,胆囊の収縮・弛緩の運動や括約筋の緊張状態の変動・保持,ならびに胆囊と括約筋の協調作用により胆汁の十二指腸への流出や胆囊内への流入・流出を調節している。疼痛は,胆囊の運動亢進(過度の収縮)や緊張低下(過度の弛緩),括約筋の緊張亢進や緊張低下,ならびに胆囊と括約筋の協調運動の失調などによってもたらされる。これらの平滑筋の運動や緊張は筋自体の性質のほかに,自律神経を介した神経反射や,コレシストキニンcholecystokininを含めた消化管ホルモンの体液性の因子にも左右される。そのため胆道ジスキネジーの誘因として,精神的緊張,過労,環境の不適,自律神経失調,糖尿病,甲状腺疾患,妊娠,アレルギー性などの全身的異常や,胃・十二指腸疾患,虫垂炎,膵炎,肝炎などの局所的異常まで広い範囲にわたって考えられる。胆道造影(胆囊造影),放射性同位元素使用による動態観察の可能な胆道シンチグラフィー,十二指腸ゾンデ法,超音波検査などが診断の参考となる。しかし,器質的変化を除外して,純粋な機能異常を証明することは困難であり,臨床的に胆道ジスキネジーの病名を用いることはほとんどない。一般に,胆道の機能障害の一つの病態的概念として用いられる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「胆道ジスキネジー」の意味・わかりやすい解説

胆道ジスキネジー
たんどうジスキネジー
biliary dyskinesia

胆道運動失調症ともいう。 K.ウェストファールが提唱した (1931) 概念で,胆汁排出装置の純機能的障害と定義されている。右上腹部またはみぞおちの疼痛,吐き気,嘔吐,ときに黄疸を伴うが,胆石症,胆嚢炎,胆管炎などの器質的疾患が証明されないときに診断できる。病型としては,緊張亢進性ジスキネジー,緊張低下性ジスキネジー,運動亢進性ジスキネジーがある。病因については,迷走神経緊張説,心因説のほかに,胆嚢を収縮させる消化管ホルモンの失調説もある。しかし,症状,胆管内圧の変化,手術所見などに相関がほとんどないため,本症を一つの疾患単位として認めることに疑問をもつ学者も多い。

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