腎の画像診断

内科学 第10版 「腎の画像診断」の解説

腎の画像診断(腎・尿路系の疾患の検査法)

(3)腎の画像診断
 腎・尿路は後腹膜腔にあるため,触診,打診などの身体診察法には限界がある.画像診断は腎疾患診断の初期スクリーニングに必要であり,疾患によっては診断確定に必須となる.血尿,腹痛,腰背部痛のスクリーニング法として,さらに腫瘍性疾患,囊胞性疾患,結石,閉塞性尿路疾患,血管病変,奇形などの腎・尿路系の形態変化をきたす疾患の診断に欠かすことができない.検査計画の立案にあたっては,侵襲の少ないX線診断や超音波検査から始め,必要に応じて次の段階に進む必要がある.
a.X線診断
ⅰ)腹部単純X線撮影
 kidney,ureter,bladderの頭文字をとりKUBと略される.通常の腹部単純X線撮影では横隔膜上縁が欠けないように撮影するが,KUBの場合は膀胱下縁が欠けないように恥骨結合上縁が含まれるように撮影する.腎の大きさ・輪郭の変化,遊離ガス像,結石・石灰化,腹水の有無などを観察する.
 正常腎の大きさは長径10~12 cm,短径5~6 cmである.左腎が右腎よりやや大きく,肝右葉のため右腎は左腎より下方に位置する.両腎の長軸を延長すると腎の上方で交差する.交差しない場合は馬蹄腎のような先天異常などを考える.腸腰筋の外側縁陰影は後腹膜病変(腎周囲膿瘍など)の存在により不明瞭となる.尿路結石の約90%はX線非透過性でありKUBで描出される.
 妊婦の場合は,胎児に対する全身被曝となり注意が必要である.妊娠可能年齢の女性に対しては妊娠の可能性,最終月経を確認する.
ⅱ)経静脈性尿路造影(intravenous urography:IVU)
 腎排泄性の造影剤を用いて腎尿路系を描出する検査である.経静脈性腎盂造影(intravenous pyelography:IVP)ともよばれる.水溶性ヨウ素造影剤を経静脈的に1回投与する方法と造影剤を点滴静注する点滴静注腎盂造影(drip infusion pyelography:DIP)がある.
 腎実質,腎盂腎杯,尿管,膀胱の形態変化を評価できるが,同時におおよその分腎機能も推測できる.造影剤静注後数分以内に腎実質が造影される.ついで5分以内に腎盂が造影され,さらに尿管,膀胱が造影される.尿管には腎盂尿管移行部,総腸骨動脈交差部,尿管膀胱移行部に生理的狭窄部位がある. 腎実質造影像(ネフログラム)から腎の形態,大きさ,位置を評価する.腎実質内に腫瘤が存在すると欠損像として描出される.また腎動脈狭窄が存在すると狭窄側の造影が淡く,造影効果の出現も遅延する.馬蹄腎や重複腎盂尿管などの先天奇形の診断にも有用である.腎盂の陰影欠損は腫瘍や結石で生じ,下部尿路に閉塞機転が存在すると上方の尿路が拡張し水腎症,水尿管症を呈する(図11-1-15).膀胱の造影像に陰影欠損を認めた場合は膀胱腫瘍を疑う.遊走腎を疑う場合は,造影後に立位像を撮影し腎の下方移動度を測定する. ヨウ素造影剤を使用するため造影剤過敏症には禁忌である.また血清クレアチニン値が2 mg/dL以上の腎機能障害は相対的禁忌とされる.
ⅲ)排尿時膀胱尿道造影,逆行性腎盂造影
 排尿時膀胱尿道造影はおもに膀胱尿管逆流(vesicoureteral reflux:VUR)や神経因性膀胱を疑うときに施行される.カテーテルを用いて膀胱内に造影剤を注入し,膀胱充満時,怒責時,排尿時など条件を変えて撮影する.
 逆行性腎盂造影は尿管口から尿管カテーテルを挿入して造影するもので,高度腎機能障害時やIVUで上部尿路の造影が不十分である際に行われる.ほかの画像診断法の進歩とともに実施頻度は減っている.
b.超音波検査
 腎臓の画像診断技術のなかで最も低侵襲であり簡便に行えるもので,腎疾患のスクリーニング検査法として必須のものとなっている.とりわけ囊胞性腎疾患,結石,腫瘤性腎疾患において診断上の価値が高い.腎生検時のガイドとしても利用される.通常Bモードで観察されるが,カラードプラ法では血流変化を評価することができる.
ⅰ)正常像
 超音波検査上,腎臓は外側から皮膜,腎実質,中心部(central echo complex:CEC)に区別される.腎実質は皮質と髄質に分けられ,皮質のエコーレベルは肝臓よりやや低く,髄質は皮質よりさらに低輝度で描出されることが多い.超音波検査上の正常腎サイズは長径10.2±0.5 cm,短径5.1±0.5 cmとされている.
ⅱ)囊胞性腎疾患
 囊胞は内部が均一の無エコー(aechoic)として描出される.腎実質内に認める1個から数個までの囊胞は単純性腎囊胞である.内部エコーの不均一性や囊胞形状や壁の不整を認める場合は悪性腫瘍の鑑別が必要となる.多発性囊胞腎では両側腎に多数の大小の囊胞を認める.囊胞内出血や感染を生じると内部エコーの性状が変化する.腎不全患者や透析患者では後天性に両側腎に大小の囊胞を生じる(後天性囊胞性腎疾患).腎細胞癌の合併頻度が高いため,透析患者では定期的な超音波検査によるスクリーニングが必要である.
 ⅲ)腫瘤性腎疾患
 腫瘤が囊胞性か充実性か,囊胞壁・内部構造の性状などを評価する.腎細胞癌(renal cell carcinoma)の場合,腫瘍内部は腎皮質部よりやや高エコー(hyperechoic)に描出されることが多いが,等エコー(isoechoic),低エコー(hypoechoic)な部分が混在し不均一に描出される場合もある.腎輪郭の変形やCECの圧排・断裂を認めることもある.
ⅳ)結石
 超音波検査は尿路結石を疑う場合に,KUBとならんで最初に行う検査である.腎結石の場合はCEC内に音響陰影(acoustic shadow)を伴う高輝度のエコー像で描出される(図11-1-16).X線陰性結石でも診断可能である.同時に水腎症の有無を判定する.尿管結石の場合は拡張した腎盂,尿管を画像上で追跡して行くと末端部に結石像を認めることができる(野田ら,2005).
ⅴ)実質性腎疾患
 慢性腎不全に陥ると原因のいかんを問わず腎臓は萎縮する.内部エコーレベルは上昇し皮質と髄質の境界は不明瞭となる.急性腎不全の場合には一般的に腎臓は腫大するため慢性腎不全との鑑別が可能である.腎硬化症で腎動脈~弓状動脈レベルの動脈硬化を合併するような場合は腎表面の凹凸不整を認める.糖尿病性腎症の場合は同程度の腎機能であっても他疾患と比較して萎縮が目立たない傾向がある.
 カラードプラ法は腎血管狭窄,動脈瘤などの腎血管病変,移植腎の血流評価などに有用である.左腎静脈は大動脈と上腸間膜動脈の間を走行する.腎静脈が圧迫され腎静脈圧が上昇し血尿を呈する場合があり,ナットクラッカー症候群とよばれる.超音波検査,カラードプラ法により左腎静脈拡張所見を認め,側副血行路を描出できる場合もある(図11-1-17).
c.CT検査
 CT検査は再現性,客観性にすぐれ,造影CTとの組み合わせにより病変の血流変化や質的診断にも有効である.囊胞性腎疾患,結石,腫瘤性腎疾患の診断に役立つ.また囊胞内出血・感染の有無,血管病変,腎梗塞,外傷の診断にも有用である.
ⅰ)各種CT検査法
1)単純CT:
造影剤を使用しないものでスクリーニングに用いられる.腎臓の形態評価,結石の存在診断,腫瘍内石灰化病変・出血巣の検出にも有効である.病変の存在が疑われる場合は造影CTを行い比較する.
2)造影CT:
経静脈的にヨウ素造影剤を投与し撮影する.ヨウ素アレルギー症例には禁忌である.腫瘍性病変が疑われる場合はダイナミック造影CTが行われる.単純撮影に加え,経静脈的に造影剤を急速注入した後に皮髄相(約30~40秒後),腎実質相(約100秒後),排泄相(約3分後)を撮影し,造影パターンから腫瘍の質的診断を行う.必要に応じて薄いスライスで撮影し,冠状断や矢状断などのmulti planar reconstruction(MPR)画像,三次元立体画像を作成することもできる.時相ごとのデータを再構築し,血管系の三次元画像を得ることができる(CT 血管造影).
3)CT尿路造影(CT urography:CTU)
腎盂,尿管に病変が疑われる場合は造影後さらに遅いタイミングで撮影し冠状断で処理を行う.経静脈性尿路造影にとって代わりつつある.
ⅱ)各種疾患のCT所見
1)囊胞性腎疾患:
囊胞は内部が低吸収域(水のCT値付近)として描出される.単発性腎囊胞,多発性囊胞腎,多房性腎囊胞に大きく分けられる.悪性腫瘍でも囊胞を有することがあり,また後天性囊胞性腎疾患には腎癌を合併することがあり囊胞内の充実部分の有無に注意が必要である.囊胞内に出血をきたした場合はCT値が上昇し高吸収域として検出される.集合管の囊胞状拡張によって生じる海綿腎では,高率に石灰化を伴う.単純CTでは両側腎髄質に石灰化を認める.
2)結石,石灰化病変:
尿酸結石やシスチン結石のようなKUBで明瞭でないX線陰性結石も高吸収構造として検出される.結石が腎漏斗部や腎盂尿管移行部を狭窄すると患側腎の腫大,水腎・水尿管症所見,腎臓周囲脂肪組織の線状陰影・毛羽立ち像を認める.
3)感染性腎疾患:
腎膿瘍は単純CTでは内部が低吸収域を示す囊胞性腫瘤として検出される.囊胞壁は厚く不整である.造影CTでは膿瘍壁が造影され,膿瘍腔は非造影域として明瞭に描出され,小さな膿瘍の検出にも有用である.急性腎盂腎炎の場合は腎腫大,周囲脂肪織濃度上昇がみられる.造影CTでは炎症巣が造影不良域として描出される.慢性腎盂腎炎では,病巣の瘢痕化による腎実質の萎縮,腎杯の変形・拡張を認める.正常部位が過形成をきたし腫瘤状に見える場合がある.この場合も造影CTを行うとほかの正常腎実質と同程度に造影されるため,腫瘍との鑑別が可能である.
4)腎梗塞:
診断には造影CTが有用かつ必要である.梗塞部は楔状の非造影領域として描出される(図11-1-18).梗塞部の皮膜下皮質に造影効果の残存所見を認める(cortical rim enhancement).
5)腫瘍性腎疾患:
腎細胞癌は単純CTでは低吸収域として撮像され,造影CTでは皮髄相では等~高吸収域,実質相・排泄相では低吸収域として表される(図11-1-19).塊状の脂肪成分が含まれる場合は血管筋脂肪腫が疑われるが,腎細胞癌も脂肪を含むことがあり,しばしば鑑別は難しい.
6)後腹膜疾患:
後腹膜線維症では大動脈周囲に筋肉と同程度の吸収値を示す腫瘤として撮像される.造影CTでは遅延性に造影される.
d.MRI検査
 MRIはCT,超音波検査と比較すると空間分解能は劣るが,良好なコントラストが得られる.また横断面のみならず冠状断像,矢状断像を撮像できるため立体的な病変部位の同定にすぐれている.微量な脂肪成分の検出などの質的診断,腫瘍の進展度判定などにも有用である(戸上,2005).基本撮像であるT1強調画像,T2強調画像に加え腫瘍性病変に対してはケミカルシフト画像やダイナミック造影MRI,血管性病変に対してはMR 血管造影が撮像される.
ⅰ)各種MRI検査法
1)T1強調画像,T2強調画像:
T1強調画像では水成分が低信号に黒く描出される.腎臓は中等度の信号強度で描出され皮質は髄質より高信号に描出される.T2強調画像では逆に水成分は高信号に白く描出される.T2強調画像では組織内の水分含有量がよく反映されるため腫瘤性病変の質的判定に有用である.
2)脂肪抑制画像,ケミカルシフト画像:
腎臓は後腹膜腔内の脂肪組織内に存在するが,T1,T2強調画像では脂肪組織はいずれも高信号に描出される.周囲の脂肪組織の高信号を抑制することにより腎臓の形態変化,表面性状の評価が容易になる.脂肪組織の高信号を抑制して撮像するのが脂肪抑制画像である.ケミカルシフト画像は微量の脂肪成分の描出を可能にする撮像法である.
3)造影MRI:
経静脈的にガドリニウム造影剤を投与し撮影する.腫瘍性病変が疑われる場合はダイナミック造影MRIが行われる.腎機能障害 を有する患者でのガドリニウム造影剤の使用に際して,腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis:NSF)の発症が報告されている.推定GFR(eGFR)30 mL/分/1.73m2未満の場合,NSF発症の危険性が高いとされる.
4)MR血管造影(MRA)
造影剤を用いずにあるいは用いて血管系を撮像する.MRAは血管造影法と比較すると侵襲が少なく,腎血管性病変のスクリーニングや腎移植ドナーの腎血管の評価に用いられる(図11-1-20).
ⅱ)各種疾患のMRI所見
1)囊胞性腎疾患:
囊胞は内部に含有する水成分のために,T1強調画像では均一な低信号に,T2強調画像では高信号に描出される.多発性囊胞腎では同様に描出される多数の大小の囊胞を認める(図11-1-21).CTと異なり冠状断や矢状断での観察が可能であり囊胞相互の位置関係や全体像を認識することができる.囊胞内容液の成分によって信号強度が変化する.囊胞内に出血を生じるとT強調画像で高信号を呈する.囊胞性腎癌や透析患者の後天性囊胞性腎疾患に合併する腎癌の場合,T2強調画像では囊胞内に低信号として検出される.
2)感染性腎疾患:
MRIの適応となることはほとんどないが,腎膿瘍では拡散強調画像で著明な高信号を呈する.
3)腫瘍性腎疾患:
腎細胞癌はT1強調画像で低信号,T2強調画像で高信号腫瘤として描出される場合が多い.内部に壊死,出血,石灰化を生じるとさまざまな信号強度を示す.血管筋脂肪腫との鑑別に脂肪抑制画像やケミカルシフト画像による脂肪の検出が有用である(図11-1-22).周囲組織への伸展(腎静脈への浸潤など)やリンパ節転移の評価にも有用である.
e.腎シンチグラフィ,レノグラム
 放射性薬剤を用いて腎臓の形態変化,左右腎臓の分腎機能評価を行うものである.99mTc-2,3-dimercapto-succinic acid(DMSA)や99mTc-mercapto-accetyl-triglycine(MAG3),99mTc-diethylene triamine pentaacetic acid(DTPA)などを用いる.
1)静態シンチグラフィ:
99mTc-DMSAは腎皮質に集積し腎臓を描出することが可能である.腎臓の形態変化の評価を行う.
2)動態シンチグラフィ,レノグラム:
99mTc-MAG3は大部分が近位尿細管から分泌され,再吸収されずに排泄されるため有効腎血漿流量を反映する.99mTc-DTPAは糸球体から濾過され尿細管からの分泌はほとんどなく糸球体濾過量を反映する.これらを用いて経時的に腎臓での血流,分泌,排泄過程を観察するのが動態シンチグラフィである.レノグラムは血管相,分泌相,排泄相からなり分腎機能を評価することができる.
f.腎血管造影
 腎血管性高血圧症などにおいて腎血管内腔病変の検出や,腫瘍性病変の診断,腫瘍の病期決定などに用いられる.侵襲的検査であり適応の判断には慎重を要する.画像診断技術の進歩によりCT血管造影やMR 血管造影により鮮明な血管像の撮像が可能になり,腎血管造影の実施頻度は減少しつつある.通常は鮮明な血管造影所見を得るために,デジタル化された造影像から背景の腸管ガス像や骨陰影などを差し引いて画像を作成するデジタルサブトラクション血管造影(digital subtraction angiography:DSA)を用いる.
1)腹部大動脈造影,腎動脈造影:
Seldinger法により経皮的に大腿動脈からカテーテルを挿入し,大動脈内あるいは選択的に腎動脈を造影する.治療用カテーテルを用いて腫瘍塞栓術やバルーンカテーテルによる血管狭窄部位の拡張術(経皮経管血管形成術percutaneous transluminal angioplasty:PTA),出血性病変に対する塞栓術を行うことも可能である.
2)腎静脈造影:
副腎病変の診断のため,選択的腎静脈および副腎静脈にカテーテルを挿入し採血を行うことがある.[柏原直樹]
■文献
野田治久,奴田原紀久雄:尿路結石・腎石灰化症の画像診断,腎と透析,59:328-333,2005.
戸上 泉:腎・副腎・後腹膜MRI,腎と透析,59:208-218,2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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