家庭医学館 「慢性腎盂腎炎」の解説
まんせいじんうじんえん【慢性腎盂腎炎 Chronic Pyelonephritis】
慢性腎盂腎炎には、不十分な治療で急性腎盂腎炎(「急性腎盂腎炎」)が慢性化したもの、急性腎盂腎炎の再発をくり返したもの、ほとんど無症状で長期間経過した腎盂腎炎などがあります。
このようにして、腎臓の機能は徐々に失われていき、ついには腎不全(じんふぜん)(「腎不全」)におちいることがあります。
このような場合、腎不全になるまでの期間は、人によってさまざまです。急速に進行して、短期間で腎不全になるものもあり、一方では30年以上かかるものもあります。
[原因]
腎盂や腎実質(じんじっしつ)でくり返される細菌感染が、慢性化の原因となります。
とくに、尿の流れが悪くなるようなさまざまな病気、膀胱尿管逆流(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅう)(「膀胱尿管逆流」)現象などが続くと、慢性化しやすくなります。
感染する細菌は、大腸菌(だいちょうきん)などのグラム陰性桿菌(いんせいかんきん)が中心ですが、急性腎盂腎炎よりは多彩です。
[症状]
慢性腎盂腎炎は、はっきりした症状が現われないこともあります。
初期では、症状があったとしても、全身の倦怠感(けんたいかん)(だるさ)、頭痛など、はっきりしない不調を訴える(不定愁訴(ふていしゅうそ))だけです。しかし、急激に悪化すると、急性腎盂腎炎のような発熱、腰背部(ようはいぶ)の痛みがおこります。
病気が進行して末期になると、血圧の上昇や腎臓の機能低下によって、尿毒症(にょうどくしょう)(「尿毒症」)の症状が現われてきます。
[検査と診断]
これまで、どのような尿路感染をおこしたかが、診断の手がかりとなります。とくに、子どものときに尿路の感染をおこし、よく熱をだしたことがあるという人は、詳しく検査する必要があります。
まず、尿の検査をして、膿(うみ)や細菌が尿にみられないかを調べます。
膿や細菌がみられたら、それが腎盂腎炎によるものか調べるため、血液検査などをして、腎臓の機能をみます。腎臓は血液を濾過(ろか)して尿をつくるので、血液を調べると、腎臓のはたらきぐあいがわかり、診断がつきます。
さらに、超音波検査、静脈性腎盂造影(じょうみゃくせいじんうぞうえい)、CTスキャン、腎シンチグラフィなど、各種の画像検査をして、尿の流れが悪くなっていないか、その原因がないかなど、慢性腎盂腎炎の引き金になっている誘因を調べます。
こうして、腎臓の大きさや形、腎盂や腎杯(じんぱい)の変形の程度を観察し、腎盂腎炎の進行の程度を診断します。
[治療]
抗菌作用のある薬剤を使用し(化学療法)、尿に膿や細菌などが少なくなって、状態がよくなってきたら、少量の薬剤を長期にわたって服用するように治療方針をきりかえ、再発を防止するようにします。
また同時に、慢性化をもたらしている障害があれば、それらの治療および除去が必要となります。
このように、慢性腎盂腎炎の治療では、感染をできるだけ制御し、急激な悪化によって、腎臓の機能がおかされないようにすることが、まず第1の目的になります。
治療中は、定期的に血液検査などをし、血液中の尿素窒素(にょうそちっそ)やクレアチニン、電解質など、腎臓のはたらきが悪くなると増える物質の数値を調べ、監視します。また、静脈性腎盂造影も行なって、腎臓の大きさや腎盂の形に変化がおこらないよう、チェックします。
[日常生活の注意]
慢性腎盂腎炎と診断されたら、つねに腎臓の状態をみておくために、泌尿器科(ひにょうきか)か腎臓専門の内科を定期的に受診しましょう。
腎臓の機能に障害がみられ、高血圧などの病気がともなうようになってきたら、食事療法が必要となります。
なお、腎臓の機能が悪化して、人工透析(じんこうとうせき)を受けなければならなくなった人たちの2%ほどは、慢性腎盂腎炎が原因となっています。